第83回-2 中央ユーラシア調査会 「カザフスタン経済の最新動向」日本貿易振興機構(JETRO) 海外調査部ロシアNIS課長代理 下社 学【2008/01/11】

日時:2008年1月11日

第83回-2 中央ユーラシア調査会
「カザフスタン経済の最新動向」


日本貿易振興機構(JETRO)
海外調査部ロシアNIS課長代理
下社 学

下社 学     カザフスタン経済は2000年以降一貫してプラス成長で、06年には10.6%の成長だった。しかし昨夏以降、少し風邪を引いたようなところがある。まず銀行の流動性が逼迫し、市中の金回りが少なくなった。そして経済成長の鈍化の傾向がみられた。こういった背景から国際的な格付け会社はカザフのソブリンや銀行に対する格付けを相次いで下げた。秋口には政府が、08-09年の経済成長について、当初の見通しを下回る可能性があるとしている。

1.昨夏以降に起きた変化
 カザフスタンでは2006年末ごろから07年にかけ、不動産バブルがあった。バブルがはじけたとはまだいえないようだが、07年6月には前年同期比138%増だった国民向けの銀行の融資残高の伸びが、同年9月には同103%増に縮小した。市中に回っているお金が少なくなり、銀行の流動性が著しく縮小した。いわゆるマネーサプライの伸びも、07年7月までは前月比でプラスだったが、8-10に月はマイナスで推移した。
 なぜ信用収縮が起きたのかというと、海外市場における銀行の資金調達コストが上昇し、カザフの銀行がお金を借りられなくなったためだ。それで貸し出しができなくなった。代表的なカザフの民間銀行はそれぞれ欧州の市場で安く資金を調達し、それを国内で住宅ローンというような形で融資していた。銀行が平均的に借り入れるときのコストの目安であるスプレッドは、07年1―6月には2.6%ぐらいだったが、8月以降には5.8%にまで上がった。
 住宅価格については、例えばアルマトイの住居用不動産価格は06年から1年で2倍程度になった。しかしこの価格上昇は、07年7月以降にはストップしている。ではどういうことで不動産バブルになったのかというと、過剰流動性、金余りの状態があった。カザフでは原油が主要輸出品目の1つで、昨今は1バレル=100ドルに達し、原油収入が増えて外貨収入が増加した。00年8月には石油収入の余剰利益を、国庫の歳入とは別に国家基金に振り分ける仕組みをつくり、現在それが17億ドル程度あるといわれる。
 他方でいわゆる外貨準備は07年末には174億ドルに達し、1年前より100億ドルも増えた。加えて商業銀行は特に欧州市場からどんどん資金調達し、カザフ国内でお金を貸した。06年末までの3年間に、カザフの商業銀行の対外借り入れの残高は10倍まで膨れ上がった。そしてカザフでの不動産購入の8割が、住宅ローンを利用しており、これはサブプライムと似ているのかもしれない。その住宅ローンの調達資金の50%が、そういった対外借り入れによるものだった。カザフではいわゆる優良な投資先がないということで、手っ取り早くお金を稼げるのは不動産投資という話がある。
 次に経済成長がなぜ鈍化したのかだが、過度の建設、不動産産業部門への経済の依存が指摘できそうだ。政府は昨年10月末に、2007年1-9月の経済成長率について前年同期比で10.1%増という数字を発表した。なぜこれが鈍化といえるかというと、06年の前年同期では10.6%だったためで、若干下回ることになる。建設、不動産部門を合わせると、07年上半期のGDP(国内総生産)成長率における寄与度は、6割だった。他方でいわゆるマイニング、鉱業の寄与度は、9%程度に過ぎない。石油はカザフの売りだが、カザフの大都市各地でどんどん建設が行われ、それが経済を引っ張っていた。この資金の調達では、先ほどの対外借り入れが大きかった。これが08年以降の経済に何らかの影響を及ぼしうるというのが、大方の見方だ。
 また07年の消費者物価上昇率は、前年末比18.8%で、とくに食品の価格が上がり26.6%などとなった。原因はとくに世界的な穀物価格上昇で、中でも小麦だ。そして石油の収入増による自国通貨の通貨高があり、インフレ圧力が慢性的に働いた。こういった経済の風邪引き現象をみて、格付け会社は格付けを引き下げた。そして政府は、経済成長の見通しの見直しを修正せざるをえなくなった。07年の成長見通しについては9.7%としていたが、11月の時点でマシモフ首相は08年の成長見通しについて、5-7%と予測した。

2. 政府の対応とアナリストらの見方
 政府はそれなりの措置をとり、外為銀行の規制強化の一環として、銀行に求める実力を厳しく見積もるようになって義務付ける自己資本比率を引き上げた。07年10月には40億ドル相当の財政出動も決め、うち1557億テンゲが07年度予算に追加歳出として加えられた。建設中のビルなどの建設を最後まで終わらせ、一部中小企業を救済することなどを目的に、抵当会社、抵当保証会社への資金注入もなされた。また11月には財務大臣が更迭されている。
 その他にも不動産バブル崩壊対策として、住宅供給の抑制策がある。またカザフは穀物、小麦の主要な生産国だが、この穀物を輸出に回すポーションを減らし、国内の供給に優先させる。輸出に回した方が当然、収入は多くなるが、そういうことを行い、国内の基礎食品のインフレを少しでも緩和させる政策などをとったことになっている。
 昨夏以降の状況に関しナザルバエフ大統領は、「われわれは一行たりとも倒産させない」と強気な言い方をした。またウイーン比較経済研究所のオリガ・ピンドュク氏は「金融危機の影響は、経済成長が6.5%にまで減速する08年に顕在化する」と述べる一方で、資源価格やその他製造業も好調なこところから、シリアスな状況にはならないとの見方だ。

3. 2008年は辛目の評価の見通し
 EBRDが2007年8-10月ごろにまとめた成長見通しは8.9%前後で、2006年の実績を下回るという見方だ。2008年については、少し辛目の評価になりそうだ。サブプライムの余波はカザフでもみられるが、いろいろな好条件に下支えされマクロではあまり影響がなさそうだ。しかしカザフを新興市場として注目した方がよいと考えていらっしゃる日本企業の方たちに、どのようなメッセージを伝えるべきか。風邪を引いたが深刻でなく、すぐによくなるという言い方がよいか、それとももう少し縮小した状況が続き、金回りが悪いと言うべきか。残念ながら、まだ結論に至っていない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部