第85回-1 中央ユーラシア調査会 「自動車・同裾野産業から見たロシア」日本貿易振興機構〔ジェトロ〕海外調査部主任調査研究員 大橋 巌【2008/04/24】

日時:2008年4月24日

第85回-1 中央ユーラシア調査会
「自動車・同裾野産業から見たロシア」


日本貿易振興機構〔ジェトロ〕海外調査部主任調査研究員
大橋 巌

1. ロシアの乗用車市場
大橋 巌     ロシア国内の乗用車市場を見ると、現在一番売れているのはGM(ゼネラルモーターズ)で、それからフォード、現代、トヨタという順だ。GMで、20万台売れるようになったという。ロシアのマーケットは、国産車、現地生産の外車、輸入の新車と中古車という4つのファクターから成り立つが、おおむね今後ずっと伸び、2010年代には300万台程度になるとみられる。現在、国産車が全体の7割以上を占め、外車の保有台数は28%程度だが、今後は外車のシェアが広がると予測される。
 国産車では、最大のメーカーはAvtoVAZで、全国産の57%を台数ベースで占めている。昨年は73万5897台を生産し、中でも一番売れているのはクラシカというもので、これは1970年代にデザインされた。もう1つの主要国産メーカーはGAZで、主に商用車をつくり、3つ目のメーカーはUAZという四輪駆動車をつくっているところだ。
 外車ではロシア一生産台数が多い工場はアフトフトルで、カリーニングラードの経済特区にある。昨年生産台数が10万台を超え、つくっているのは起亜、BMW、GM、奇瑞だ。これに次ぐのはフォードで、昨年の生産台数は7万台弱だった。そしてGMアフトVAZという合弁会社があり、これは一時期10万台近くつくっていたが、今は5万台程度になっている。またルノーが最近大変好調だそうで、7万台まで増えてきた。昨年12月と今年3月にはゴーン会長が現地に行き、アフトVAZに25%出資することを決めて、皆を驚かせた。将来は150万台まで生産台数を増やすということで、世界の部品メーカーが関心を持っている。そして韓国の現代や起亜、双龍が、現地生産をしているほか、VW・シュコダの仮工場も昨年オープンした。さらに中国勢が最近進出しており、モスクワでも中国車をよくみるようになった。
 次に日系だが、日露貿易は2003年ごろから急速に伸びた。日露、日ソ貿易は、かつては往復60億ドル程度が常識だったが、2005年に100億ドルを超え、2007年には200億ドルを超えた。とくに自動車の輸出が急増し、2000年には1億6700万ドルだったが、2007年には80億ドルを超えている。トヨタが昨年12月にロシアで工場をオープンし、日産は2009年上半期といわれ、スズキもトヨタの隣につくる予定で手続きを始めている。

2. ロシアの自動車部品工業
 今後はとくに外資系の組立工場への納入のチャンスが増えるとみられ、部品ビジネスも伸びていくだろう。現地調達の課題だが、まず自動車部品セクターの全体像がよくみえない。工業会という業界団体はあり200社程度があるといわれるが、会員リストはない。JETROでは250社ぐらいの固有名詞をリストで持っており、そのくらいかと思う。しかし地場の組み立てメーカーに納入経験のある部品メーカーは、品質のスタンダードが悪く、なかなかよくなる見込みがないという印象だ。またロシアの産業は縦割りで、自動車部品工業会、自動車工業会はあるが、必ずしもそこから現地調達することだけに可能性が限定される訳ではない。例えば航空・宇宙、電子、軍需関係、原子力などは幅広い裾野産業を持ち、そういったところのサプライヤーを発掘して自動車に応用する努力が必要になると思う。
 またロシアには政令第166号があり、これは大雑把にいうと7、8年のうちに現地調達率を30%まで上げ、その間の設備ないし部品の輸入関税はゼロまたは非常に低いものになるというものだ。これはWTO(世界貿易機関)に入るまでの措置だという。ただ最大の車でもまだ10万台程度しかつくっておらず、トヨタや日産は5万台程度で、このぐらいでは日本の部品メーカーは出るに出られないのが現状だと聞く。何社かはトヨタ紡織のように、今後出ていくことになるかと思う。問題はこれらの組み立てメーカーがいつ20万台、30万台の本格生産に移行するかで、2011-12年ごろが見込まれる。そうなれば政令第166号という優遇措置に関わらず、日系の部品メーカーも進出しなくてはならず、今ごろから準備が必要だろう。

3. ロシアの工場立地事情と労働力、ロジスティクス
 ロシアでは、工場立地も厳しい状況だ。大きな理由は2つあり、1つは工業団地がないことだ。そして2つ目は、用地取得手続き許認可が極めて複雑なことだ。今ロシアには工業生産型の経済特区が2ヵ所あり、とくにタタルスタン共和国のアラブガ経済特区が唯一、日本でいう工業団地に近い環境にある。いすゞはここで生産を開始している。しかしここは非常に奥深い内陸部で、もう少し使い勝手のよいところにあればよいと思う。
 またロシアの許認可プロセスは複雑で、よくわからない。グリーンフィールドの投資を回避するため、既存の工場に生産ラインを組み立てるという考えもあるが、これにもよい面と悪い面がある。許認可をスキップして時間管理の不確実性を大幅に低減できるのはよいが、現地側のパートナーのデュー・デリジェンス、つまり誰が持ち主かということをきちっとしなくてはいけない。そしてインフラ、ユーティリティは、相当古い。
 さらに労働力とロジスティックスも、大きな問題だ。まず、労働力不足からくるストライキがある。また日系の部品産業、自動車産業が出そうな州の賃金レベルを比較すると、モスクワ、ぺテルブルクは非常に高く、組み立てメーカーは払えるかもしれないが部品メーカーは難しいだろう。フォルクスワーゲン、プジョーが進出するカルーガ州はまだまだ安い。ロジスティックスについては、まず高速道路がない。また港湾ではコンテナ・ターミナルの整備が遅れているほか通関が最大の問題で、時間管理ができない。そしてサービス、複合輸送をまんべんなくできる能力がある業者がいないのも問題だ。現在、私たちが関心を持っているのは、自動車部品メーカー向けにシベリア鉄道で運べないかということだ。
 メドベージェフ政権の最大の課題は足元ではインフレ対策で、中長期的には産業構造の高度化だ。欧米は市場経済化は教えたが、「ものづくり」は教えない。これがしっかりしなければ、ロシアの産業構造はどうしようもない。そのためにはシステムを全部変えなくてはならず、JETROとしては日本の産業システムをロシアに浸透させて日本企業のビジネス・チャンスをつくり、ロシアの日本に対する依存度を高めていくことが必要と考える。その意味では今はある種のチャンスで、その1つのキーワードが自動車の裾野産業だと思われる。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部