第87回-2 中央ユーラシア調査会 「Georgia, NATO and Russia: Implications for Regional Security and Caspian Energy Supplies」駐日グルジア特命全権大使 イワネ・マチャワリアニ閣下【2008/06/18】

日時:2008年6月18日

第87回-2 中央ユーラシア調査会
「Georgia, NATO and Russia: Implications for Regional Security and Caspian Energy Supplies」


駐日グルジア特命全権大使
イワネ・マチャワリアニ閣下

1. グルジアの概略と最新情勢
イワネ・マチャワリアニ グルジアは黒海沿岸に位置、カスピ海沿岸地域に属しており、地政学上、非常に重要な国だ。ヨーロッパとロシア、中央アジア、中東を結ぶエネルギー供給路の要所にもなっている。
 2008年5月26日に、独立90周年を祝う記念日を迎えた。グルジアは1918年5月26日、ロシア革命に続く形でグルジアは民主共和国として独立したが、3年後には赤軍の侵略を受けてボルシェビキ政権の下に置かれた。100年以上にわたりロシアの支配下に置かれ、その後は旧ソ連に支配された。旧ソ連解体後は民族主義の台頭によって内戦を経験、無力な政府や経済の破綻に直面するが、2003年11月には平和的な「バラ革命」により、ミハエル・サアカシビリ現大統領と彼が率いる親欧民主改革派が政権の座についた。
 平和的革命から短期間で飛躍的に民主化が進められ、市場経済に移行した。幅広い経済改革が行われ、経済は急成長、投資環境も大幅に改善した。いまや民主主義、自由主義経済国家となったグルジアは、2007年には12.4%の経済成長率を記録、05、06年にも10%近い経済成長率を達成。08年の世界銀行による調査では「改革度、世界1位」の座を獲得した。
 国内政治では外国投資を誘致して経済成長を促進し国家の歳入を増やすことを重視、これによって教育や医療、社会福祉の充実が図れると考える。また政治改革、特に司法制度の充実も大きな目標だ。外交上の優先課題は、NATOへの加盟、ヨーロッパとの統合、そしてアブハジアや南オセチア問題の解決だ。またロシアの内政干渉を防ぎ、ロシア政府と段階的に正常な関係を築くことも重要だ。さらに最も重要なのは、地域経済協力体制の促進だ。
 2008年4月のブカレストにおけるNATO首脳会議ではグルジアの加盟、加盟に向けた「行動計画(MAP)」への参加は見送られたが、12月のドイツでのNATO閣僚会議で「行動計画」への参加が認められるであろうことが明言された。グルジアのNATO加盟実現は地政学的に革命的で、NATOにとっても新たな展望を開くものだ。

2. グルジアのNATO加盟にロシアが反対する理由
 現在のロシアによる対グルジア情勢は、1920年代初頭に起きたロシア赤軍のグルジア侵略と歴史的に並行する。ロシア革命後のボルシェビキ政権は中央アジアとカスピ海の石油資源を支配すること、新たに誕生した南コーカサス地域の民主主義国家を支配下に置くことを目的に少数民族の権利保護という大義名分のもと、グルジア、アゼルバイジャンへ侵略した。現在のロシアも、南コーカサス地域を再び支配するために同様の大義名分を掲げている。1990年代初めの内戦時、ロシアの軍事支援を背景にアブハジアの分離主義者は、全住民の3分の2に上る住民を地域から追放、残った住民のほぼ全員にロシアパスポートが付与された。ロシアは自らをロシア系住民の保護者とし、アブハジアを再支配しようとしている。
 ロシアがグルジアのNATO加盟に強硬に反対する第一の理由は、NATO加盟によってアブハジア、南オセチアを含む領土がグルジアの国境として国際的に認められ、正式に確定するためだ。そして第二の理由は、グルジアのNATO加盟が黒海、カスピ海沿岸地域にとって安全保障の核となり、これまでカスピ海のエネルギー資源を独占してきたロシアの独占体制を崩し、ロシアがこれらの地域を支配することを不可能にするからだ。
 ブカレストのNATO首脳会議を前に、ロシアの対グルジア、ウクライナ、NATO加盟諸国への圧力は強力になった。ロシアの天然ガス供給に依存するNATO加盟国にも強力な圧力がかかり、一部は成功を収めた。3月6日にはロシアは一方的に1996年に結ばれたアブハジアへのロシアの政治的、経済的干渉を規制するCIS条約から脱退、グルジアに対して政治的、経済的制裁を加え、この地域での軍の増強に踏み切った。3月21日、ロシア議会は クレムリンに対し、アブハジア、南オセチアの独立を承認するよう決議案を可決させた。
 4月16日、プーチン大統領はアブハジア自治共和国および南オセチア自治州とロシアが、公式関係を正式に樹立することを示す大統領令を発表。これは同地域の分離独立を事実上認め、最終的にはロシアの領土へ政治的、経済的に併合されることを意味する。しかし、グルジア政府の承諾なしにこれらの地域と公式関係を樹立しようとするロシアの行動に対し、米国、EU諸国、NATO諸国等は強く反発、懸念を表した。グルジアが示す紛争解決のための和解案はことごとく拒否され、難民の帰還も認められていない。5月20日には、ロシア軍はアブハジアの境界線付近でグルジアの無人偵察機を撃墜した。この偵察機はグルジア領空のアブハジアを違法に操行するロシア軍機を監視するものだった。ロシア側はその事実と責任を否定したが、国連の調査によりその事実と責任がロシア側にあることが確認された。
 またロシアはアブハジアに駐留する軍隊を「平和維持軍」とし、増強させることを表明した。国際社会は満場一致で、ロシアのこうした軍事行動を非難している。グルジアはロシア軍の撤退を求め、国際社会の監視の下、中立的、国際的な平和維持軍が駐留することを望んでいる。また国際社会の枠組みの下、アブハジア、南オセチアの分離独立主義者との直接対話によって紛争解決に向けて合意することも求めている。サアカシビリ大統領は平和的解決案として、連邦国家としての諸権利、すなわち同地域に広く自治を認める権利の付与や安全保障の確約、経済発展の支援を提示した。この平和的解決案は国連が推進する紛争解決のためのガイドラインに沿い、ロシア、ドイツ、米国、英国を含むグルジアの友好国の関係者とともに策定したものだ。
 EUは紛争解決に関し、さらに大きな役割を果たしたいと考えている。グルジアはEU諸国や国際社会の支援に感謝し、ロシアが国際社会の枠組みに参加して問題解決に取り組むことを強く望む。またロシアの新しい大統領メドヴェージェフ大統領が、プーチン大統領よりも建設的なアプローチを築くことを望んでいる。国際社会の継続的な支援は、グルジアだけでなく南コーカサス地域の紛争解決、安定にも欠かせない。
 日本政府はこれまでもグルジア政府に対し、領土保全、主権保全のため惜しみない援助をしてきた。引き続きその支援を願うとともに、ロシアのわが国に対する領土主権侵害行為や南コーカサス諸国の安定を脅かす行為に対し、懸念を表明してほしい。

開催風景
(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部