第89回-1 中央ユーラシア調査会 「自然科学者からみた中央アジア・ウズベキスタン カザフスタンの現状」東京農工大学国際センター・准教授 川端 良子【2008/08/26】

日時:2008年8月26日

第88回-1 中央ユーラシア調査会
「自然科学者からみた中央アジア・ウズベキスタン カザフスタンの現状」


東京農工大学国際センター・准教授
川端 良子

1. アラル海での水質調査
川端 良子     8月1日から23日まで、ウズベキスタンを中心に調査に行った。私は1992年からカザフスタンに入り、アラル海の調査をしてきた。アラル海の砂漠化については、皆さんもよくご存知だと思う。私も1988年だったか、雑誌『サイエンス』の論文でアラル海が縮小していることを知り、大変なことが起こっていると思ったが、その後も実際のデータは一向に出てこなかった。モスクワの科学アカデミーを中心に調査はしていたが、ほとんど公表していなかった。その後、中央アジアの国々が独立し、現地の人たちは「大変だから助けてくれ」というようになったが、調査をしない限り解決策も立てられない。したがって、現状を把握しようというのが始まりだった。
 92年から現地へ行き始めたが、なかなか入らせてもらえず、アラル海に到達して調査できたのは94年のことだった。92、93年ごろにいわれていたのは、「2010年にはもうアラル海はなくなってしまう」という話だった。そして2003、4年ごろには一進一退を続け、大雪が降って湖が少し大きくなったりもしたが、最近ではまた小さくなっている。
 実際にアラル海の湖水を採取し、いろいろなイオンの濃度分布を調べたところ、カルシウム濃度だけが非常に高くなっている傾向が見られた。これはアラル海の急激な塩分上昇の結果として起きたものと考えられる。また一般に海水中では生物濃縮によって、9割ぐらいのカルシウムが取り除かれるといわれる。したがってカルシウムだけが急激に上昇しているということは、生物濃縮がアラル海でうまくいっていないからではないかと考えた。このように急激なカルシウム増加が起こる原因として、生物の死滅が考えられた。
 アラル海にいる生物系の一番底辺にある植物プランクトンについて調べたところ、塩分濃度が低い地域では個体数が高く、塩分濃度が上昇するにつれて個体数が減っているという結果が得られた。アラル海の塩分濃度が高い地点で植物プランクトンが少ないということは、それを餌にして生きている動物プランクトンや魚も少ないことを意味する。しかしアラル海が小さくなっている理由は、これだけではない。そこで塩分濃度の高い地点から低い地点に向けて、植物プランクトンの種類を調べてみた。すると一番塩分濃度が高い地点以外は藍藻が多かったが、塩分濃度の一番高いところでは、藍藻は全くなく、珪藻と渦鞭毛藻しか見られなかった。この違いが、アラル海の現状を表していると考えられる。
 プランクトンの種類は他の湖の特性と似ているが、一部の地点で全く違った状態を示している。つまり一番塩分が高くなっている地点が、アラル海の塩分が急激に上昇した影響を最も受け、それを反映した組成になっていると考えられる。
 さらにアラル海の湖底の泥を柱状に採り、それを2センチごとに切って、そこの中から化石であるプランクトンを取り出し、珪藻類について調べた。この珪藻化石を見ると、ゼロから2センチ、2センチから4センチ、6センチから8センチとなっているところに、たくさんの種類が出てきている。それに対し、湖水に生きている珪藻は、90%以上がたった1種類だった。1950年ごろから大規模灌漑が始まり、1960年ごろからアラル海が縮小を始めたといわれ、この10センチ以降のところはそれが始まる前に堆積したと考えられる。それがどんどん縮小し、湖水の塩分が上がるにつれて、他のプランクトンは生きにくくなり、この種類だけが塩分に強く、競争に勝っていった。アラル海の後退は非常に速く、現地の人に聞くと「夜寝る前には湖が見えたのに、次の朝に起きたらもう見えなくなっていた」という。そのぐらいの速さで、水が引いていった。塩分が上昇したこともあり、元々生きていた場所で急に水が引くということは、生物がその水に乗っていけない。そのような2つの相乗効果があり、湖の生態系が変わってしまったとわかる。
 一方、アラル海の旧湖底では今、天然ガスを採取しており、パイプラインがカザフスタンを越えてロシアまで行っているという。ウズベキスタンも天然ガスを採って売る方針に変えているようで、本当にアラル海を元に戻したいのか非常に疑問だ。
 もう1つ、アラル海の河川域ではウラン濃度が非常に高い。とくに灌漑排水では灌漑用水よりも、ウラン濃度が高くなっている。原因はリン肥料のようだ。日本でもリン肥料は使っているが、ウランなどの不純物は取り除いている。リン鉱山は大抵ウラン鉱山に隣接しており、ウズベキスタンではそれらのリン鉱石を使って肥料をつくっているようだ。したがってウランが含まれないリン肥料を使えば、土壌汚染もなくなる。こういう意味では簡単に汚染を防げるので、ウズベキスタン政府に対策をとってもらうよう話を進めていきたい。

2. 広がるウズベキスタンとカザフスタンの格差
 現地の人たちから聞いた話では、綿花は未だに政府が買い上げており、一般に農民が自由に販売することはできない。それに対して小麦は収量の半分程度を政府が買い上げるが、残りは農民が自分で売ってよいそうだ。小麦価格が上がっているので、農民たちは小麦をつくりたがっている。また繭は、完全に自由買い上げだという。そしてお米は昨年から政府によって、完全に栽培を禁止されている。「水を使うのでつくるな」といわれており、現地ではお米の値段が昨年の5倍になったという。またカザフスタンに立ち寄った際には、「バブルが崩壊した」と聞いた。大統領がビシュケクでも今年の冬は計画停電する、とテレビで予告した。そして今から、石炭などを購入して備蓄するよう訴えている。
 ウズベキスタンの自然科学者の給料は非常に安く、私の友人らも地質庁などにいる人たちが月にもらっているお金は150ドルだ。知り合いのロシア人やアゼルバイジャン人、ユダヤ人などアカデミーでトップクラスにいた人たちは、ロシアやイスラエルなどいろいろな国に引き抜かれていった。核科学者らは今、ロシアから高給でスカウトが来ているそうだ。一方、カザフスタンではここ数年、自然科学者の待遇も改善し、がまんできるような状態になってきているようだ。カザフスタンとウズベキスタンは経済もかなり違うのだが、自然科学者の待遇にもどんどん差がついている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部