第90回-1 中央ユーラシア調査会 「8月8日前後のグルジア情勢」国際協力機構 専門家 加藤 倭朗【2008/09/24】

日時:2008年9月24日

第90回-1 中央ユーラシア調査会
「8月8日前後のグルジア情勢」


国際協力機構 専門家
加藤 倭朗

加藤 倭朗     JICA(国際協力機構)の専門家として今年5月初めにグルジアのトビリシに派遣され、8月13日に急きょ、帰ってきた。たまたまそういう場に居合わせ、また過去6年間、中央アジアとコーカサスで仕事をしていたので、きょうはその経験を交えてお話ししたい。

1. グルジアにおける戦闘の経緯
 グルジアは人口が460万人の小国で、いろいろな民族がいる。そしてチェチェン、イングーシ、北オセチア、カバルダ・バルカル、カラチャイ・チェルケス、クラスノダールのように、いろいろな国々と接している。そして北オセチアがあり、山脈を越えて南オセチアという具合に同じ民族が別の国に住んでいる。南オセチアにはロシアの平和維持軍(PKO)が駐屯し、黒海沿岸のソチ近くのアブハジハにも、ロシアのPKOがいる。この南オセチアとアブハジハ自治共和国にはチェチェン難民も大勢移住しており、問題は複雑だ。
 8月1日の深夜から2日未明にかけ、グルジア政府と南オセチア軍で交戦があり、死者6名が出た。そして2日から7日まで、グルジア政府、南オセチア平和維持軍にて、紛争調停の作業が行われた。ところが8月8日未明に、グルジア軍が南オセチア自治州のツヒンバリに侵攻して制圧、午後にはロシア軍がツヒンバリに移動し、夕方から交戦を開始してロシア軍が奪回した。8月9日にはグルジア軍のロシアの第58軍が激戦、同時にアブハジアでも第2の戦端が開かれた。8月10日午前中に、ツヒンバリ北部はロシア軍、南部はグルジア軍ということで対峙し、午後には突然グルジア軍が撤退を開始、侵攻前の6日現在の戦線まで撤収したという状況だ。ロシア側は、南オセチア市民が多数残虐行為を受けたと発表している。
 私個人の話だが、8日夕方には少し危ないという話もあったが、まだ大丈夫だと思い、そこにいた。そして9日に、ゴリを空爆したという話が入ってきた。ゴリはトビリシからあまり離れておらず、ここには軍事施設がある。さらに黒海沿岸にあるポチの港が空爆され、また主要艦船、トビリシの国際空港もターゲットになった。そこで「全面的に戦争になると帰れなくなる」と思い、JICA本部からも、飛行機の切符を買って国外に出るよう指示があった。しかし切符を買っても飛行機が飛ばず、待っている訳にはいかないので四輪駆動車をチャーターし、幹線道路を避けてビザのいらないトルコへ出国した。
 戦闘停止以降の動向だが、12日にメドベージェフ大統領が、即時戦闘停止命令を出している。サルコジ仏大統領が来るので、それに合わせたのだろうという見方がされているようだ。12日夜に共同記者会見が開かれ共同停戦案が発表された。両国ともここで一応、合意したことになっている。

2. グルジア経済を支える外国からの投資
 グルジアに行く前は、グルジアは民主主義、市場経済の旗手ということで期待して行ったが、意外とサーカシビリ大統領の評判がよくないので驚いた。具体的には私の個人的な経験と他の方の経験を踏まえていうと、サーカシビリ大統領は時間にルーズだ。皆に聞いたら、遅刻の常習犯ということだ。また激情家で、実務能力、執行能力にも問題あるのではないかといわれる。これはいろいろな人の意見を聞いたうえでの、私の総合的な受け止め方だ。
 またグルジアの経済、経済成長率はそこそこだが、実態はあまりよくない、むしろ悪くなっているという声が非常に強かった。2000-08年までのグルジア経済の状況を見ると、他の同じ地域の国々と比べても遜色がないほど成長していることがわかる。しかし成長の原動力は外資導入で、1989-2007年までの累積の外国投資、そして1人当たりの数字、GDP(国内総生産)に占める比率を見ると、グルジアは断然多い。問題は外国からの投資が、生産性が上がる部門に投資されて経済活動につながっているかどうかで、その点について私は大いに疑問だ。 実際にはロシアの投資が一番多いといわれ、このような戦争が起きると、投資先としては非常にリスクが高まり、かなり大変な状況になる。

3. 日本に期待される人材育成での貢献
 私はJICAのプロジェクトで、グルジアへは民間セクターの支援ということで行ったが、「市場経済化を支援しましょう」ということで、歴史的に独立、ソ連崩壊後の市場経済インフラ、法制度などを整備してきた。これに関しては、やはり欧米諸国が圧倒的にタイミング的にも早く、大変な努力をしてきており、法整備的なものは形式的にはほとんど整っている。そして第2に、国営企業の民営化も、数からいうと、ほぼ完璧にできている。例えば金融セクターは非常に民営化がやりにくいのだが、全て民営化されている。
 ただ国営企業を民営化したが、その次の段階で、民間企業がどのくらい育っているかというと、ほとんど育っていない。したがって、それを行うことが、今回のJICAのプロジェクトでも1つの目的になっている。より具体的にいうと、企業の数を元々、増やさなければいけないということだ。今は登録ベースで5万社ぐらいしかなく、少なくともその10倍ぐらいはあるべきだ。とにかく企業の数が増えなければ、市場経済は成り立たない。
 グルジアの場合、欧米、欧州に近く、彼らはヨーロッパの一員だと思っている。ヨーロッパの国々からは、過去15年以上にわたって援助を受けており、かなりの人と金がつぎ込まれてきた。日本はそれに比べると、まだファースト・ステップのようなものなので、量で勝負しても太刀打ちできない。
 手前味噌だが、日本は人材育成の分野で最も貢献できる国ではないかと思う。これは民間企業も官庁もそうで、部下を育てる、組織で皆をひっぱっていくといった考え方は、西側にはあまりない。企業の人材はレイバー・マーケットから取ってこればよい、という話になるが、そもそもそのレイバー・マーケットに人がいないところでやろうとしている訳なので、育てざるをえない。日本は戦後、まさにそうであり、戦前もそうだった。だから終身雇用などの制度をつくって、育ててきた。そのノウハウというのは非常に参考になる、役立つのではないかと私は考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部