第90回-2 中央ユーラシア調査会 「中ロ軍事協力関係について」拓殖大学大学院国際協力学研究科教授 兼 国際学部教授 茅原 郁生【2008/09/24】

日時:2008年9月24日

第90回-2 中央ユーラシア調査会
「中ロ軍事協力関係について」


拓殖大学大学院国際協力学研究科教授 兼 国際学部教授
茅原 郁生

1. 中国の軍事力
茅原 郁生     中国は、「銃口から生まれる」国家であり、軍事力の位置づけが高く、強権力を重視している。その軍事力は量的な規模は大きいが、兵器など質的戦力は、軍事革命が進む今日、後進性が指摘されている。
 中国における軍事力の管理は、共産党が中央軍事委員会を通じて軍を指揮してきたが、1982年の憲法に基づき国家中央軍事委員会ができて、今日では制度として党と国家の2つの統帥権が併存している。しかし実態的には、党が軍を支配している状況に変化はない。
 中国の軍事力の実態は、陸軍が160万人で、北朝鮮やインドを凌駕する圧倒的な戦力となっている。海軍はアメリカ、ロシアに次いで3番目の94万トンの船腹量を持ち、空軍の作戦機数を見ると、中国は旧式兵器が多いが、アメリカに次いで多くの約2400機という作戦機を保有している。しかし中国の軍事力では兵器の性能など質的な戦力は劣勢であり、その後進性を補うべく国防近代化の努力が払われている。総じて、その軍事力はわが国や台湾と比べる優勢であり、アジア地域の安全保障に大きな影響を与えている。
 中国の核戦力については質量ともに米ロ両国に比肩すべくもなく、先制攻撃に対する反撃力の残存性に弱点がある。しかし核弾頭の運搬手段の体系では大陸間弾道ミサイル(ICBM)、中距離弾道ミサイル(IRBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、長距離爆撃機の機能を全て備えている。これがSLBMを中心としてICBMを持たないフランスやイギリスの核戦力とは違っており、一応、独立した核戦力としてアメリカやロシアに対しても最小限の核抑止力を持つ核戦力を見なされる所以である。
 アメリカでは毎年、国防総省が議会に対して中国の軍事力に関するレポートを提出しており、中国への警戒を強めている。今年の「中国の軍事力」に関する評価で注目すべき点は、1つは台湾に対する中国の軍事力強化の進展に対し、アメリカが懸念を抱いていること、2つめは、中国による宇宙の戦力の強化に対しても苛立ちを隠していないことだ。さらにサイバー能力について、わが国の中央官庁も昨年から不明な相手からサイバー攻撃を受けているが、米国は中国が元凶であることを示唆した。これら中国の軍事力はアジアで圧倒的な地位を保持する強大なものだが、中国が脅威と見なすアメリカの軍事力に比べればなお不十分な戦力だという二面性を持っている。
 2007年秋に行われた第17回党大会において胡錦涛総書記は、2020年までに「小康(比較的ゆとりある生活)社会の実現」を強調し、国防近代化建設についても経済建設と調和がとれるよう、自制ある国防強化を求めてきたように読み取れている。
 他方で、中国にはアヘン戦争に敗北して以来の不幸な半植民地化された近代史を迎えた。 その屈辱の歴史体験から中国人の心底には力がなければやられる、と言う「力の信奉者」的なものがあり、それは被害者意識を背景として自国戦力の強化に拘る過剰防衛の思想となっている。ここに小康社会実現のための経済建設と国防力強化のジレンマがある。

2. ロシアとの関係
 中国の対ロ戦略は対外戦略の中核を占めている。しかし中ロ関係は、米中関係がバイタルなものであって、米中関係がよいときは中ロ関係が薄くなり、米中関係が厳しくなれば中ロ関係がクローズアップされるという、米中関係の裏面とも言うべき側面がある。
 それでも中国とロシアは冷戦後、多極化志向を打ち出し、米一極主導の国際秩序に対抗しようとしている。現に2005年夏には、大規模な中ロ共同軍事演習を実施し、両軍1万人規模の近代兵器を駆使した演習はウラジオストークから山東半島までの米国や台湾を意識した大規模演習であった。
 先に見たように中国は最新式兵器を求めて世界最大の兵器の輸入国となっている。その中国への最大輸出国がロシアであり、それは1989年の天安門事件以来、西側列強は中国への武器等の輸出を軍事技術も含めて禁止しているからでもある。中国は新式兵器の取得をロシアに依存しているが、必ずしも満足行く水準にはない。それはロシアの兵器輸出が商業的であると共に自国の安全保障を含めて厳しい原則を定めているからである。1つは、輸出する兵器はロシアの技術的優位を確保するため自国の最新兵器よりも3年から7年遅れたものに限る、2つ目は、兵器のコピーを防ぐためにある程度の数量をまとめて売る、などによって中国側の所用を満たしてはいない。
 中国は、最大の兵器輸入国であると同時にその外貨を稼ぐために自らも兵器を輸出している。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計によると、2000-04年に中国は14億ドルの兵器を輸出しているが、ロシアの269億ドル輸出に比べれば18分の1に過ぎない。それでも中ロ関係は、兵器移転も含めて、安全保障面でも強くつながっている。

3. 上海協力機構と中ロの新たな確執
 上海協力機構(SCO)の設定を主導した中国の狙いは、名目上は国境を画定し、反テロ面での協力などにあったが、日米安保体制が強化されることに対抗するユーラシア大陸での軍事ブロック化の狙いも見え隠れしている。実際、SCOは、07年夏に「平和の使命2007」という大規模演習を実施している。この合同演習にはSCO加盟の6カ国が参加しており、中国から1600人が参加して空中機動、鉄道輸送などで戦車、装甲車を含む重武装勢力をロシア領の演習場まで運び込んだ。このような中国の国境を越えた大規模な軍事機動にロシア側が驚き、中国に戦略展開のチャンスを与えたことへの非難の論調もあった程で、中国の力の入れようが推察できる。
 中国は、建国以来の大イベントである北京五輪の成功にかけて、非常に無理をしてきたつけが、その宴の後に諸矛盾として噴出している。例えば経済的なバブルの崩壊、あるいは少数民族、とりわけ直前に起きたチベット民族を力で抑え込んできたことへの反動などがある。
 実際、中国では13億国民が、五輪を通じて世界を見ており、自由民権の風に触れた後の新しい政治的な要求や批判がどのように展開されるのか、注目点であろう。また中国で高まったナショナリズムを為政者はどのようにコントロールするのか、五輪成功で自信を付けた中国民の自己過信なども中国のとってリスクに転化することもあろう。
 胡錦涛2期政権は、経済格差を緩和するような和諧(調和のとれた)社会建設を推進し、国際協調にも踏み出そうとしているが、国威を賭けた五輪の成功のために柔軟路線をことさらに強調してきた。これを中国ネットワークでは、必要以上に国際社会に迎合、妥協し、譲歩し過ぎたとの見方となり、今後の権力闘争に種になる恐れもある。また国防建設部に関しても、小康社会建設との競合が生まれ、国家資源の重点配分に当たって軋轢が生じるなど、内政面での課題も考えられる。
 中国は、アメリカ超大国の主導性は減衰すると見ており、それはとりもなおさず中ロ両国の多極指向が加速されることとなろう。その場合、SCOの重要性は増してくるが、それはまた主導性を巡って中ロ両国の新しい確執につながる可能性もあろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部