平成20年度 中央ユーラシア調査会公開シンポジウム -第91回 中央ユーラシア調査会-「世界情勢の変化と中央アジア・コーカサスの現状 -経済開発と民主化への影響-」【2008/10/08】

日時:2008年10月8日、場所:東海大学校友会館「望星の間」

平成19年度 中央ユーラシア調査会公開シンポジウム
-第91回 中央ユーラシア調査会-

「世界情勢の変化と中央アジア・コーカサスの現状 -経済開発と民主化への影響-」


基調講演
「激動する国際情勢と新たな日本・ユーラシア関係」
袴田 茂樹 青山学院大学教授/調査会座長

袴田 茂樹 最近の国際情勢における大きな動きとして、アメリカ、その他の国で深刻な金融・経済危機がある。またグルジアの南オセチア、アブハジア問題は、国際関係の1つのターニング・ポイントになるほど重要な意味も持つ。欧米関係が緊張し、中央アジア諸国も経済的困難、危機に見舞われる中、中央アジア諸国とロシアやアメリカ、ヨーロッパ、中国、日本との関係は流動化しうる。日本として、これらの国々にどう対応するかは重要な問題だ。日本人はシルクロードにあこがれ、ウズベキスタンなど中央アジアを身近に感じているが、経済関係はまだ十分に発展していない。日本経済はハイリスク、ハイリターン型ではなく、農耕型といえ、ときには一時的な利害を犠牲にしても長期的な信頼やシェアの拡大に力を注ぐ。今、日本も経済的な困難を迎えているが、この農耕型経済が強みとなっている。地道に生産活動を行うことは一見、回り道に見えるかもしれないが、中央アジア諸国も生産活動をしっかり行って信用を確立し、そういう方向に進んでいただきたい。

特別講演1「カザフススタンの政治・経済体制の問題点」
ドスム・サトパエフ Risks Assessment Group ディレクター

ドスム・サトパエフ 「SWOT分析」に基づいて、カザフスタンの政治の長所についてみると、(1)強力な大統領権限、(2)政治重視及び宗派間関係の安定、(3)大統領への政治的忠誠と中心的なエリート層における大統領への強い支持、(4)社会の反政府・反抗的気運の減衰、(5)社会的エネルギーを経済分野に集中的に向かわせることに成功していること、(6)都東部において小規模ながら中産階級層が出現していること、(7)他の中央アジア諸国とは対照的なカザフスタンの経済と政治の良好な状態を積極的に活用しうること、(8)外的脅威がほとんどなくテロのリスクが低いこと、などが挙げられる。
一方、政治制度の短所としては、(1)権力継承の仕組みが不透明、(2)競合する多数のエリートグループの存在、(3)権力の垂直構造が直線的な意思決定のみに適合するよう調整されていること、(4)大統領の権力を除き、効率的に結論の出せる政治体制が国内に存在しないこと、(5) 政治の影の領域が公共政策を支配し、少数グループの利害が国家的な課題を超えて社会に浸透、(6)行政の非効率性、(7)政治分野が単調に推移し政治参加の機会も限られていること、(8)経済発展と政治的保守主義のアンバランス、などがある。
 そしてわが国の持つ機会・可能性についてだが、(1)近代化の基礎として権威主義を活用できる可能性がまだ残っており、いわゆるアジアの虎諸国(韓国、シンガポールなど)をモデルに出来ること、(2)国の持続的発展に有意義な内外情勢の存在、(3)大統領が権力継承の効率的な仕組みを確立する時間が残されていること、(4)カザフスタンの国民が世界経済及び政治の領域に参画し、自ずと行政の民主化への要請が高まりつつあること等がある。
 脅威としては、(1)権力の継承及び後継者指名の効率的な仕組みを確立する前に初代大統領が予期せず退任した場合の政治的リスクが増大したこと、(2)中央集権化によって形成された体制をそのまま分権化できないこと、(3)企業との関係で政治エリートが支配的立場にあり、企業エリートと特権階級の圧力グループとの間の新たな対立が生じつつあること、などが指摘出来る。
 一方で「SWOT分析」では、多くの好ましくない結論も導かれている。それらは(1)カザフスタンの政治体制の競争力は次第に失われていく、(2)政治体制の競争力の欠如が、既に国の経済発展の妨げとなっている、(3)個々の経済分野の競争力を上げるだけでなく、国家体制全体の競争力を上げていく必要がある、といった事項である。一方、わが国の主要な政治的リスクとしては、政権の継続に関する問題、行き過ぎた官僚主義と腐敗、不均等な所得分配、などがある。
 1991~2002年は、外国人投資家の誘致に最も好意的な期間だったが、2002年から現在までは、全ての投資家に対して同等な政策が施行されるようになった期間だといえる。原油価格の高騰の恩恵をうけてカザフスタンは比較的強い経済基盤を構築することができ、その分外国人投資家への依存度を抑えることができた。これは国営企業であるカズムナイガス社がその地位を拡大している石油、ガス分野において、結局国の役割が拡大していることとも関係している。他方で、長い間、外国人投資家が主導権を握っていた石油ビジネスへの参入を求める国内の石油、ガス分野のエリートも出現してきている。この状況に対応するため、投資に関して新しい法律が数年前に制定され、これにより、国は投資家の立場を悪くするような措置を講じてはならないと定めた旧法律の第6条の「外国投資に関して」という部分は廃止された。
 ナザルバエフ大統領が述べたとおり、カザフスタンは日本の原子力燃料、核燃料の需要の40%を供給する用意がある。これはカザフスタンが、日本市場を重視していることを意味する。ウラン濃縮プロジェクトは、2006年にロシアとの間で調印された原子力分野の国家間協力プログラムの下で進められており、またロシアとの合弁事業でウラン濃縮センターを設立し2011年に生産を開始する予定になっている。

特別講演2「ウズベキスタンと中央アジア:安定と持続的発展の実現」
アブドゥジャバル・アブドゥバキトフ ウェストミンスター大学タシケント校学長

アブドゥジャバル・アブドゥバキトフ ウズベキスタンはいわば旧ソ連の衛星国家だったが、独立から17年間、常に一貫してこの国を指導してきたのはカリモフ大統領である。国民は2700万人で中央アジアで最も多いが、うち半分が25歳以下の若い人たちで、彼らのためにいろいろな社会的機会をつくらなければならない。毎年、中等教育から卒業する人たちは30~50万人で、大学まで到達する人数は全体の学生人口の4~10%にすぎない。
 今、わが国の政治体制は再構築の真只中にある、現在、国家建設のために政治エンジンとして4つの政党があるが、その構築の基盤は伝統的末端共同体マハラと直結している。マハラというのは英語ではネイティブ、あるいはコミュニティ、ネイバーフッド、アドミニストレーション、コミュニティの自治会などと訳すことができる。今われわれはこれを、新しい近代的なわれわれ自身の制度に編成替えしようとしている。そしてさらに、アジア型の市民社会の特徴を高めていきたい。
 中央アジア経済との統合について語る場合、強調しなければならない点は、われわれは互いに共通している点が数多くあるということだ。ただしそれと同時に複雑な問題も抱えている。とくに資源は限られ、かつ偏成しているため、共同して対応していかなければいけない問題だが同時に、これらが互いに対立しなくてはならない問題になることもある。しかし必ず、真の統合を推進してくことができると思う。
 中央アジアのパートナーとしての日本は大変重要かつすばらしい存在である。ウズベキスタンとしては、日本は中央アジアにおいてもっと活発に活動していただきたいと思っている。統合プロセスに日本的なものを取り入れて進めることにより、非常に意義のあることが数多く実現できるようになろう。
 日本はわが国の改革を支持し、とくに教育を支持してくださる重要な国だ。今わが国では、モスクワ、シンガポール、英国から大学が進出し、すばらしい仕事をしてくれているが、日本の大学はまだ進出していない。ぜひ、日本の大学にも中央アジアに出てきてもらいたい。これによりウズベキスタンはもっと、日本の文化や日本のビジネスモデルについて知ることができる。ウズベクに進出した日本の大学は日本―ウズベクの橋架けのような役割を果たすことが出来るし、ビジネスのためになる活動もできる。こうした活動は中央アジアの企業のためだけでなく、日本の中央アジアにおける企業活動のためにもなるだろう。

ディスカッション
モデレーター 田中 哲二 国連大学長上級顧問/調査会代表幹事:

田中 哲二 途上国の経済開発面では、開発独裁という概念がある。国民経済ないし市場経済をこれから形成していこうというとき、強権的政権が中央で経済開発、経済成長のリーダーシップをとる。乏しい資源・資金・人材の中央集中とこれらの政策的傾斜配分が特長である。往々にして民主化は不十分であるか抑圧されることが多い。段階的な必要悪という言い方が正しいかどうかわからないが、現に東アジアないし東南アジアはこのプロセスを経て成長した。一方、中央アジアの場合、ソ連邦時代の共産党リーダーが横滑りしたかなり強権度の強い政権からスターとしているが、経済成長と民主化のスピードは東アジアの場合より遅い。とくにエネルギー資源開発セクターを除き、経済成長の基礎条件は脆弱である。
 東アジアの場合、当時の国際経済環境情勢は非常に有利だった。日本の資本と技術が東アジアに進出し、安い労働力でつくった繊維品や電子機器、自動車部品などが巨大な消費市場であったアメリカに際限なく輸出出来た。また流通ルートも、地勢的にも海に面し開放的な位置にあり、近代的なハブ航空もいくつか設置された。このように流通拠点としても東アジアには、非常に有利な状況が起きていた。さらに、東南アジア諸国連合(ASEAN)が予想外にうまく発展した。独立後の中央アジアにはこうした好環境、好循環には必ずしも恵まれなかった。地域経済統合についても、形式はともかく実態はあまり進んでいない。一番の統合テーマであるべき水資源管理に関する地域協力も、はっきり効果を上げていない。中央アジアはランド・ロックド・カントリー群であり、海港に恵まれておらず、エネルギー産業以外の製造業への海外からの民間投資はあまり活発でないことも事実である。
 民主化の展望については、(1)グルジア問題に象徴されるロシアの中央アジア回帰、(2)米国サブプライム問題に端を発する世界同時不況は中央アジアの政治体制を防衛的かつ権威主義の強化の方向をもたらし、その分民主化はテンポが遅くなると見るべきであろう。
 日本は今後も、中央アジアに対するODA(政府開発援助)の一定の水準は維持していくべきだろう。また、すでに「中央アジア+日本」スキームのアクションプランが実行に移されており、これに注力していく必要がある。また、資源開発へのコミットが活発化しているが、人的・知的支援を伴った環境、教育、医療などや文化交流など、多面的な外交をやっていくべきだと思う。

プレゼンテーション
「国際情勢の変化と中央アジア政治経済の現況」
清水 学 ユーラシア・コンサルタント代表取締役

清水 学 私は資源輸出国が工業化する場合、実は他の国が工業化するよりも難しいという自己認識が必要だと思う。その点では割合、楽観論が多過ぎる。何か機械を導入すれば工業化ができるのではないか、という過度の楽観論が非常に気になる。
 またグルジアの問題が議論されるが、あまり語られない側面はパイプラインの問題だ。いわゆるBTCパイプラインで、アゼルバイジャンからトルコを経由して輸出のパイプラインができた訳だが、そのパイプラインができるプロセスは、ある意味、政治的、戦略的問題の議論だった。つまりロシア、イランを経由しないパイプラインということがあったと思う。BTCパイプラインができたときに、「これで終わった」と思ったが、今度のグルジア危機の問題から第2幕が始まった。できてしまったのでかえって厄介だ、ということを含めたパイプライン問題がある。そして3番目に、金融危機の問題が波及している。今度の危機がどのような形で決着していくのか、見当がつかない。これまで地域協力の問題は、率直にいってネガティブだったが、経済危機の衝撃で従来の発想を変えなければいけないという、今までの発想とは違った形の地域協力が必要になるというようなことが出てくるかもしれない。
 中央アジアの独立直後は、ベトナムなどと比較するとよいが、中央アジアが市場化へ向かう環境は異なっていた。それは周辺諸国の状況が全く違っていたからだ。中央アジアの場合、ロシアも経済混乱を一緒に経験しており、中国もまだ中央アジアへの影響は弱かった。そしてインド自身もようやく高度成長の道に入りかかるときだった。ところが17年が経ち、環境はかなり変わってきた。ロシア、中国、インドという3つの新興経済圏との関係をどうしていくかが重要な課題だ。中央アジアに17年間行って、変わったところも多いが、意外に変わっていないところもある。今後は教育、地域協力、そして民主化の分野といういくつかの課題があるが、それらを組み合わせながら中央アジアが進んでいってほしいし、その分野で日本が、例えば教育の分野などで多面的な関係をつくっていくべきだ。

「民間企業の見た中央アジアとのビジネス」
渡辺 博 東洋エンジニアリング(株) 広報渉外部長

渡辺 博 日本は資源のない狭い国土に多くの人口を抱えている。国土はカザフスタンの7分の1、人口は9倍だ。日本には鉱物資源はほとんどなく、また耕作に適した平地も国土の10%しかないことから、エネルギー、原材料、食料を輸入し、加工して工業製品を輸出するのが日本のビジネスの特徴となっている。主要な輸入品は、石油、ガスといったエネルギー、ウラン鉱石、鉄鉱石、希少金属、食料などで、輸出品は自動車、家電、機械、プラントなどだ。
 民間企業としては、地域、国に対する関心は以下の2点、要するに何が売れるか、何を買えるかだ。まず何が売れるかについてだが、一般的に市場経済で売れるものは、安いもの、品質がよいもの、魅力的なものだといえる。日本企業が中央アジアで売るための問題点は何かと考えると、遠隔地にあるので輸送費がかさむこと、コミュニケーションが難しいことが挙げられる。そして次の問題点は、人口が少ないことだ。消費財では売れる量が限定されてしまう。そして3番目の問題点は市場経済なので当然だが、競争相手がいることだ。中央アジアと日本の間には、新しい世界の工場の中国があり、家電や衣料など安いものは中国製品にかなわない。またファッションなど魅力的なものについては、やはりヨーロッパが先頭を走っている。では日本企業は何を売っているかというと、品質のよいものだ。
 次に日本企業は中央アジアで何を買えるかだが、これは基本的に何を売るかと同じになる。安いもの、魅力的なもの、品質のよいもの、そしてこれが重要なのだが、継続して買えるものだ。では日本企業が中央アジアで物を買う場合の問題点は何か。第1は、売ることと一緒だが、やはり遠いことだ。そして次の問題点は、競争相手がいることだ。ガスや液晶金属、食料など安いものは、日本により近い中国やオーストラリアが競争相手になる。
 私は日本カザフスタン委員会、日本ウズベキスタン委員会の委員を務めている。毎年の経済委員会の席上、各国政府からは「日本企業は調査ばかりで投資が少ない」という不満を耳にする。しかし一村一品運動のような地道な活動を続ける中で信頼関係が醸成され、次第に大規模な投資が行われていくのではないかと考える。中央アジアと日本の間にはシルクロードの昔から長い関係があり、これからも広いビジネス関係が構築されるものと確信している。

「日本と中央アジア諸国との経済関係の発展に向けて」
小嶋 典明 経済産業省 通商政策局 ロシア室長

小嶋 典明 中央アジア諸国域内には5カ国があり、総人口は6000万人弱、そして国によって差はあるがウラン、石油、天然ガス、レアメタルなどの資源が豊富にある。中央アジア諸国について、経済産業省では経済関係の発展に向けて、力を入れて取り組んでいる。
 2006年には外務省が中心となり、「中央アジア+日本」の第2回外相会合を開いている。また8月には小泉純一郎元首相が、カザフスタン、ウズベキスタンを訪問、資源開発、投資環境整備について協力強化に合意している。11月には日本・ウズベキスタン・ビジネス・フォーラムを経済産業省が中心となって開催し、官民の合同ミッションをウズベキスタンに派遣、両国間のビジネス・チャンス、あるいは貿易投資環境の改善について意見交換を行った。第2回は昨年11月、そして第3回は今年11月に開催する予定だ。 
 また昨年は、4月に甘利明経済産業大臣がウズベキスタン、カザフスタンを訪問、資源開発と共に産業多角化への協力に合意している。この際には150名の官民合同ミッションが同行し、カザフスタンとの間でウラン開発など24件の協力案件に合意している。今年に入ると前半は、カザフスタンとの交流が活発に行われ、経済産業省の山本かなえ政務官が訪問したほか、6月には、ナザルバエフ大統領の訪日があり、福田康夫首相や甘利経済産業大臣との会談が行われ、さらなる発展強化について合意すると共に、租税条約について基本合意に至った。また投資協定も、交渉開始が合意されている。ウズベキスタンについては8月に既に投資協定が署名されており、今後、国会の批准を経て発効する予定だ。今後の予定としては、先ほど申し上げたウズベキスタンのビジネス・フォーラムを11月下旬に開催する。またカザフスタンとは原子力協定の締結交渉を進めており、今後は投資協定の交渉が開始される。
 日本と中央アジアの間には、2国間の経済委員会がカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンとの間で設けられている。キルギスについては現在、休会中だ。産業育成への協力を通しては、1つには日本の経験も相手方に伝える、こうしたところを進めている。例えば中小企業をどのように育てていくか、こうしたところに日本から講師を派遣するなどして取り組んでいる。またもう1つの取り組みとしては、日本企業の活動を後押しして、相手国の産業育成につながるような貿易、投資を活発化させていく。その1つとして、中央アジア貿易投資促進ネットワークの構築を進めている。

開催風景1 開催風景1
開催風景3
開催風景4 開催風景5
(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部