第18回 IISTアジア講演会 「アジアの動向と日本の政策」政策研究大学院大学 教授・副学長 アジア経済研究所長 白石 隆【2008/01/29】

講演日時:2008年1月29日、場所:霞ヶ関 東京會舘 エメラルドルーム

第18回 IISTアジア講演会
「アジアの動向と日本の政策」


政策研究大学院大学教授・副学長
アジア経済研究所長
白石 隆

白石 隆1. 中国の台頭と経済的相互依存の深化
 日本経済研究センターの「世界経済長期予測」をみると、少なくとも2つぐらい重要なことを指摘できる。1つ目は、「一極から多極へ」ということだ。2030年ごろには中国の経済規模は、購買力平価で日本の約5倍になり、米国よりも大きくなる。しかし日米の経済を併せれば、まだ中国より大きい。またインドの経済規模は日本の2倍、ASEAN(東南アジア諸国連合)も日本より少し大きくなり、アメリカは4倍、EU(欧州連合)は3倍になる。現在のアメリカの一極システムから、少なくとも経済規模だけをみれば、多極的なシステムに移行し、4極ぐらいになるということだ。では日本の重要性は落ちるかというと、例えばアメリカがアジアに関与し続ける限り、地域の力のバランスは日本がアメリカにつくか中国につくかで決定的に変わる。そのような意味で、日米同盟あるいは日本の重要性はそれほど落ちないというのがもう1つのポイントだ。
 中国の経済はもちろん、決して中国だけで発展しているのではない。外国からの投資があり、華人による投資も重要だ。中国の経済発展は地域的な経済発展の中で、相互依存を深める形で起きている。発展すればするほど、地域的、世界的な相互依存の網の目に統合される。相互依存が進めば、中国の経済運営のためにも、世界や地域のシステムが不安定にならない方がよく、現状維持的にならざるをえないだろう。
 昨年、世界銀行が発表した報告書をみると、2030年には、東アジアの都市人口は62%になると予測される。その結果、都市人口は14億6000万-7000万人程度に増え、2030年ごろには東アジア地域に3億5000万-4億人ぐらいの中産階級の市場ができるとみられる。しかし、都市人口の3分の1程度は貧しい人たちになり、都市と農村の格差以上に都市内の格差をどうするかが重要になる。格差を克服し、一方、所得再分配政策に対して中産階級が反乱しないようにするには、経済成長するしかない。経済成長では相互依存の進展が前提になり、東アジア共同体ができるかは疑問だが、インセンティブはある。

2. 米国、アジア諸国の動向
開催風景 冷戦時代には、アメリカ国内でどのような政治の変化があっても、国家としてとくに安全保障面で何をするかは、常にソ連との関係で決められてきた。しかし現在は一極体制で、外の制約条件が非常に小さく、国内政治的な変化に応じ、アメリカはかなり簡単に外交政策を変えられる。つまり、国内政治の結果として外交政策が決まる。1これが2000年以降にはっき出来つつある仕組みはEUとは非常に違う。ASEANをハブとし、貿易、投資、通貨のような分野ごとに違うメンバーでネットワークができている。ネットワークに入る敷居は低く、主権の一部を差し上げるようなことはしなくてよい。また地域協力の鍵の1つは「国の能力の培養」にあり、マクロ経済政策のキャパシティをどうつけていくか、鳥インフルエンザのモニタリング能力をどうつけていくかといった話が重用である。東南アジアでは現在、バンコクをハブとした地域のプロダクション・ネットワークに、ラオスやカンボジアが入り、ベトナムにもハノイ・ハイフォンの地域に新しいハブが出来つつある。各国の経済はこうした相互依存の進展によって中国にあまり大きく依存しなくてよくなっている。政治的にも全ての国が中国に対してバランスを取ろうとしている。
 中国では少なくとも毎年1000万-1200万人の若い人たちが労働市場に入ってきているといわれ、彼らに雇用をつくらなければ中長期的には社会危機が進行し、政治も不安定になる。したがって中国では経済成長、格差是正が今後も重要な課題だ。長期の高度成長には、周辺地域の安定はきわめて重要で、中国は今のところこれに成功している。 また中国の資源外交も注目される。原油の輸入依存度は2020年には90%程度になるとみられ、いろいろな形でアメリカやEU、日本などと摩擦を引き起こすだろう。一番怖いのは、中国の経済が悪化して社会危機が進行し、国民の不満が高じることだ。今のような体制では、ナショナリズムをどこかの敵に向けて政権への批判を避ける誘惑がつきまとい、ターゲットはまずは台湾と日本となる。ではどうすればよいか。アメリカは「ステイクホルダー論」、ASEANは地域的なマルチの会議に中国を引っ張り込みそこで合意することで、中国が自分勝手な行動をしないようにしている。東アジア共同体構築の1つの目的もここにある。

3. 日米同盟とアジア外交
 日本が日米同盟を長期的に堅持することは地域の安定につながる。その上でアジアとの連携を進める、これが日米同盟とアジア外交の「共鳴」ということだと思う。日中関係については、「中国にマルチで関与する」というのが一つの考え方で、東アジア共同体構築はそこから出てきた。安倍政権のときには東アジアにおける経済連携の進展は日本国内の改革と連動しているから、国内改革の観点から日本をどう開いていくかが基本的課題となっていた。しかし、現在は、衆参のねじれもあり、アジア・ゲートウェイの発想、つまり東アジアにおける経済連携と国内改革は車の両輪であるという発想はあっても、なかなかなにもできないという。これを打破するには大連立、あるいは政党再編成に期待するほかない。2008年はこういう国内政治的課題で終わるだろう。しかし、こういう状況が1990年代のように何年も続くことだけはなんとしても避けなければならない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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