第20回 IISTアジア講演会 「東北アジア新秩序と南北共存」東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授 姜 尚中【2008/04/22】

講演日時:2008年4月22日

第20回 IISTアジア講演会
「東北アジア新秩序と南北共存」


東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授
姜 尚中

姜 尚中1. 東南アジアの安全保障を脅かす北朝鮮
 きょうお話するのは東北アジアのことで、新聞その他では北東アジアといわれるが、私はこれを東北アジアというべきだと思う。東南アジアに対応する概念は東北アジアだ。これがどこを指すのかというと、地政学的には朝鮮半島、中国と日本、台湾もしくはモンゴルを入れる人もいるかもしれないが、これだけでは済まず極東部ロシアとアメリカ合衆国も含んで考えるべきだと思う。そうすると奇しくも、ほぼ六者協議のメンバーが国家としては東北アジアのフルメンバーということになってしまう。
 なぜこのような地政学的な1つのカテゴリーを設定すべきかというと、この地域において、ある種の地域統合が必要になっているためだ。この地域統合は、欧州連合(EU)をひな形とする必要はない。アジアに固有の条件に合わせた形のゆるやかなもので、貿易投資、環境問題、安全保障などいろいろな問題について問題ごとに重層的に地域統合のようなものが重なっていくということでよい。しかし最大のネックは、北朝鮮だ。冷戦が事実上、世界的に終わっているにも関わらず、この地域には依然あのような異様な体制が存続している。六者協議はスローなテンポで紆余曲折があり、最終的にはいわゆる第二段階の非核化の措置が一応、終わろうとしている。北朝鮮の核問題は今、ある種の重要な正念場を迎えていると思う。
 最近の面白い兆候は、金正日がベトナムに行くのではないかという噂が流れていることだ。どのような目的、意図で行われるのかだが、1ついわれるのは食糧問題だ。現在、穀物の国際価格が異常に高騰しており、ベトナムを安価な輸入先と考えているということは十分考えられる。ただ私はもう1つ、考える必要があると思う。これは正しいかわらかないが、もしかするとアメリカの示唆があったのではないかと思う。北朝鮮との関係が改善すれば、中国にとっては朝鮮半島の南北、そして台湾からベトナムに至る沿岸部に親米政権ができあがり、これはアメリカの地政学的な戦略にとってかなりよいことだ。北朝鮮の変化は未知数だ。私は六者協議を通じて非核化を成し遂げられるなら、その次には大量破壊兵器をめぐる通常兵力についても、軍備管理、軍縮という方向へ向かっていくインセンティブが出てくると思う。
 また私個人は日米安保を基軸としつつ日韓の関係を深め、この日米韓のトライアングルを維持しながらも、一方で日中韓プラスASEAN3を加えた東アジアへの目配りをし、しかし同時に東北アジアでは6カ国の安全保障の枠組を維持すべきだと考えている。日本の平和と反映、そして将来の展望を考えれば、これは非常に正しい選択ではないか。

2. 「存在するから交渉する」ゲンシャー式の外交
 1995年にゴルバチョフと一緒になって東西冷戦の終焉を迎えた旧西ドイツのゲンシャー元外相が来日した際、彼が私に語ったことは「自分は寝ても冷めても、東ドイツという国が地球上からなくなることを夢見てきた。しかし東ドイツ、ドイツ民主共和国は存在する。存在するならば交渉するのが外交だ」ということだ。私はこれをRealpolitik(現実主義的政策)の鉄則だと思う。残念ながら日本の場合、なかなかそうはいかない、いわゆる国民感情がある。それはいうまでもなく拉致問題だ。このゆるがせにすることができない国家犯罪をどう解決するのかは、非常に難しい。外交と世論という問題があり、しかも情報化社会が進んでいけばいくほど、世論の動向に外交が縛られざるをえない。
 私は数年前に政治家の方とお話し、「プライオリティの第一は拉致問題で、二番目が非核化だ」と聞いたときに驚愕した。北朝鮮の中距離ミサイルはどちらに向けられているか。アメリカには届かず、おそらく韓国に短距離ミサイルをそのまま発射することの蓋然性が少ないことを考えると、標的は日本だ。日本を標的にしている核の脅威を除去することは、国民の生命と財産を守るという観点からしても、最もプライオリティが高い政策でなければならない。したがって六者協議の枠組で核問題という共通の問題を解決した後、北朝鮮との二国間関係の問題を解決する。私はこれが順当な外交のプロセスだったのではないかと思う。

3.東北アジア地域の未来
 北朝鮮問題の本質は何かというと結局、朝鮮戦争は終わっていないということだ。したがって当事国である南北と中国、アメリカを加えた四者による休戦協定の廃棄、それに代わる平和協定の締結が大前提になる。このためには北朝鮮の非核化がまた、前提になる。非核化が成し遂げられテロ支援国家解除が進めば、私はブッシュ政権の任期中に休戦協定を平和協定に変える方向へ踏み出すかもしれないと思う。これはつまり、冷戦が終わるということで、明らかに北朝鮮はアメリカとの正常化に向かう前提条件をつくり出したことになる。
 したがって、日本も北朝鮮との正常化に向けて一歩踏み出さなければならない。その場合に日本国民の世論からして拉致問題の解決がどうしても必要なら、これは至難の業だが拉致問題について何らかの国民が納得できる回答を導き出すことも必要ではないかと思う。そのためには横田夫妻に平壌に行っていただき、政府または日本の公安警察、外交当局者がアテンドし、場合によってはオブザーバーとしてアメリカ、ロシア、中国の六者協議の国々もアテンドすることを提案する。そして北朝鮮当局者から事の顛末を明らかにしてもらい、真偽のほどを精査する。私はそこまではできるのではないかと思う。そして実際に横田めぐみさんが存命されているのかいないのか、どういう状況にあるのか、まずこれを明らかにすることだ。

開催風景 私は南北朝鮮が、ただちに統一する必要はないと考える。南北の経済格差は非常に大きく、現在の状況で統一すれば、韓国一国では持ちこたえられない。したがって、10年から20年は国家連合という形にするのが一番よいだろう。10年ほどで連邦制へと移行し、2つの地方自治政府があって一国のKoreaができあがる。それまで20年はかかると思う。北朝鮮で不測の事態が起きることを考えれば、六者協議がセーフティネットになる可能性は十分あるだろう。いずれにせよ今後20年かけて南北朝鮮のこれまでの60年間の分断状況が変わっていけば、私は東北アジアにはかなりよい未来が来るのではないかと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部