第22回 IISTアジア講演会 「中国をどう見るか」国際教養大学理事長・学長 / 国際社会学者 中嶋 嶺雄【2008/06/20】

講演日時:2008年6月20日

第22回 IISTアジア講演会
「中国をどう見るか」


国際教養大学理事長・学長 / 国際社会学者
中嶋 嶺雄

中嶋 嶺雄 「中国をどう見るか」については、皆さんもいろいろな意見をお持ちだろう。四川大地震によって、中国では見て欲しくない部分がはからずもさらけ出された。北京や上海などの都市と内陸部との格差は、非常に大きい。そうした内陸部で中国としては絶対に見て欲しくない部分に大きな亀裂が入り、現実がさらけ出された。さらけ出された現実にどう対応するかが、胡錦濤政権の大きな課題だ。北京五輪もどうなるか、皆さんと共に注目すべきだと思う。

尖閣諸島問題と反日
 最近は、中国をめぐっていろいろな問題が起きている。そして日本とは非常に関係がよいと思われていた台湾でも、尖閣諸島問題をめぐって一部、かなり激しい反日論が起こったりしている。現在の台湾の馬英九政権は、総統選挙に勝ったばかりであり、また馬英九氏自身がこの問題ではかなりの確信犯だ。ハーバード大学で学位論文を書いており、そのときのテーマが尖閣問題だった。彼は香港生まれだが、香港には反日的な色彩の強いところが一部残っており、中国本土より反日的な色彩が強いところもある。
 中国は、尖閣諸島は古代中国のもので長江(揚子江)の流れたものが堆積してできたなどと主張しており、この考え方は実は現在も変わっていない。東アジア油田をめぐって中間線で外交的には何とか妥協したが、中国の考え方には沖縄トラフを含め、中間線より先まで大陸棚は中国のものだという根本的な意識構造が存在する。
 かつて鄧小平氏が来日した際には、「尖閣諸島問題は次の世代にまかせればよい」といい、この問題は棚上げになったはずだった。ところが1992年、鄧小平氏が華国鋒氏を追放して権力の頂点に立ったとき、中国の全国人民代表大会常務委員会で、尖閣諸島は中国のものだという領海法を国内法として決めてしまった。このように、なかなかしたたかだ。今回も外交的に当面は妥結したといえ、中国のしたたかさを認識しておかなければいけないのではないか。

中国的世界秩序観
開催風景 次に中国的世界秩序観について少しご説明したい。中華皇帝が中心となり、その周囲に内臣がある。この内臣諸国は、法と礼と徳によって中華帝国の皇帝に跪かなければいけない。そしてその外側に位置する外臣は少し緩やかで、法がなくなる。さらにその次の朝貢国は、徳だけで跪けばよい。そこまでがチャイニーズ・エンパイア、中国のテリトリーだ。琉球は朝貢国だったので、中国側の見方からすると当然、中国の領土に入る。そして尖閣諸島は沖縄(琉球)が米国から返還されたときに、日本に帰属することになったが、中国側には常にこういう認識がある。
 最近、東アジア共同体などとよくいわれ、それを推奨しようという経済界、学者その他の意見がある。経済的には域内の貿易が非常に大きくなっており、相互依存関係は今後ますます高まるだろう。しかしそうなればなるほど、東アジアの国々はこのように近いところにありながら、大きな違いがあるということを日本はよく認識しておかなければ、チャイニーズ・ワールド・オーダーに巻き込まれてしまう。
 中国には大陸性、コンティネンタリティがあり、日本にはインシュアリティ、島嶼性といったものがあるが、この島嶼性と大陸性の違いがすごい。権謀術数渦巻く状況で頻繁に侵略したり侵略されたりして、中国では中華帝国というものが打ち立てられた。清朝は満州族の巨大な帝国だったが、満州族はあっという間にほぼ消滅した。辛亥革命は1911年で、まだ100年も経っていない。それほどまでに同化力、吸収力が強いのが漢民族だ。したがって新疆ウィグル自治区の人たちはチベット問題では非常に脅威を感じているだけでなく、民族浄化に近いような状況にさらされている。
 中国は全てにおいて、威丈高だ。全てがデュアリズムで、陰と陽だ。紫禁城、天安門のつくり方もそうで、左右対称だ。これに対し日本はインシュアリティで、フレキシブルだ。日本文化は中国の儒教もインドの仏教も、そしてヨーロッパの文明も受け入れ、戦後は特にアメリカの影響を受けて、非常にユニークな日本文化の特徴をつくっている。その間に挟まれた韓国には、半島国家のペニンシュラリティがある。このように、コンティネンタリティ、ペニンシュラリティ、インシュアリティという大きな違いが東アジアの現実として存在する。

重要な日本の外交姿勢
 洞爺湖サミットで、環境問題、地球温暖化がテーマとなるが、陰の出席者は中国、あるいはインドかもしれない。私の根本的な見方では、いくら環境問題を論じても人権問題にしっかり対処できないような政権、権力、国家に、環境への根本的な配慮は有り得ないと思う。中国は全国がひっくり返したような工事現場で、国民総生産(GNP)は確かに伸びているが、環境破壊はものすごい。    
 その一方で中国は、軍事力を増強している。今中国を攻めようとする国があるのかというと、全くない。その体質が改まらない限り「中国と友好」などとはいっていられない。私は福田康夫首相が、チベット問題で世界の、特ににヨーロッパの首脳が問題の本質を突いた発言をしているときに、それに目をつぶって中国に手を差し伸べたことについて、福田首相自身の中国認識が深いところに到達していなかったからではないかと思う。日本の対中国外交はその点でも、かなりの問題を持っているといわざるを得ない。
 例えば台湾問題でもアメリカには、非常に細やかな深い台湾問題への認識は期待できず、日本がこれをきちんと押さえていかなければいけない。台湾では依然として、李登輝氏の影響がかなりあり、李登輝氏とのパイプも大事にしておかなければならないが、福田政権が続けば非常に問題だ。福田さんは確信犯的に親中国だ。福田さんは一政権の一首相だが、日本の根本的な外交姿勢の問題として受け取られることになる。そういうことを考えると、皆さん方にも是非しっかりしていただきたい。政策決定や政治の意思決定は、政治家だけのものではない。そこに今後の日本の大きな課題が残されている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部