第24回 IISTアジア講演会 「急拡大するイスラム金融とオイルダラー」国際協力銀行 資源金融部長 前田 匡史【2008/09/11】

講演日時:2008年9月11日

第24回 IISTアジア講演会
「急拡大するイスラム金融とオイルダラー」


国際協力銀行資源金融部長
前田 匡史

前田 匡史1. ソブリン・ウェルス・ファンド
 最近、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)とよくいわれ、これについては政府系ファンドや国家ファンドなど、いろいろな邦訳があるが、これら邦訳では実態が伝わらない。 SWFの一般的な定義はあまりないが、米財務省のロバート・M・キミットという財務副長官が今年、『フォーリン・アフェアーズ』に論文を掲載した。ここで使っている定義は、「外国為替資産(Foreign Exchange Assets)を原資とした政府部門による投資ビークルであり、財務省・中央銀行による外貨準備から分離・独立した資産を運用するもの」というもので、この定義は議会証言でも用いられている。一般的な定義はないが、よく引用されるのはこの定義だ。
 典型的な例を挙げると、中国には国家外国為替管理局というのがあり、日本でいえば財務省国際局のようなものだが、これが香港に子会社をつくり、子会社を経由して世界の株式、BP(British Petroleum)、フランスのトタルといった石油メジャーの株式を保有している。これは正に財務省や中央銀行が持っているものだが、外貨準備ではないのでSWFだといえる。
 IMFは2007年のファイナンシャル・スタビリティ・レポートで、各国の外貨準備、公的年金基金、SWFの3つについて、規模を推計している。そこでは政府の外貨準備は5.6兆ドル、SWFは2.5-2.9兆ドルと推計されている。ヘッジファンドが1.5兆ドル程度なので、その倍ぐらいだ。さらにIMFによれば、SWFは毎年8000-9000億ドルのスピードで増え、2012年までに8兆ドル、2015年には12兆ドルというとてつもない規模に達する見込みだ。
 SWFが注目を浴びたのは、やはりアメリカや欧州の金融機関に資本注入したためだ。ウォール・ストリートの中心にあるシティ・グループやメリルリンチ、モルガン・スタンレーなどに、SWFが入ることには相当な反発があるだろうと思われるが、あまりなかった。逆にいうと、それほどアメリカの主要な金融機関がサブプライム問題で痛んでいるということだ。
 ただ非常に額が大きかったので、米連邦議会などでは「けしからん」と思っている人も多く、行為規範(Code of Conducts)をつくる動きが今、見られる。今は議会の動きに先手を打って牽制する形で、米財務省が「SWFとそれ以外のファンドを区別しないようにするので行為規範を守りなさい」と呼びかけている。また10月にIMF(国際通貨基金)総会があるが、それに向けて今、IMF、そしてOECD(経済協力開発機構)で行為規範をつくっている。ある意味、保護主義的な動きを牽制する一方で、たがをはめる対応をしようとしている。

開催風景2. 拡大するイスラム金融
 一方、イスラム金融というのは、SWFとは異なる。これはイスラム法(シャリーア)を遵守する金融で、別名、シャリーア・コンプライアント・ファイナンスと呼ばれる。シャリーアの教えについて、よくいわれるのは金利をとってはいけないということだが、それだけではない。非常に物事を単純化すると、一番根本はシャリーアが禁ずる金利の概念に替える仕組みとシンプルにお考えいただければよい。資金の使途についても、シャリーアが認めていない投機やアルコール類、賭博、豚などに投資することは禁じられている。
 シャリーア、イスラム法は戒律で、その主な法源はもちろん聖典コーランであり、そして預言者ムハマドの言動を弟子たちが記録したハディス、7世紀のアラビア半島にあった慣行、スンナの3つだ。金利を回避するやり方の類型には2つあり、1つは商品の取引を介在するアセット・トレーディング型、そして投資をして損益を分配する方式だ。金利をとってはいけないので、イスラム金融の預金は当座預金となり、資金の調達コストは非常に安い。
 しかし当座預金だけでは原資が不足するので、金利に似たムダラバというものを使うようになった。これは銀行に出資者、預金者が資金を出し、何かに投資してもらって配当を得る仕組みだ。欧米や西側にも似たような仕組みがあり、それは投資信託だ。そしてこれに似ているが異なるものでムシャラカがあり、これはどちらかというと銀行と顧客の間に知識の差があまりない。つまり片方がプロで、もう片方もセミプロのような状態で、共同でジョイント・ベンチャーをつくるようなイメージで、あらかじめ進められたプロジェクトに出資する。
 もう1つの仕組みは、ムラバハという商品介在型といわれるものだ。一般に商品の買い手が例えば自動車を買うときにディーラーのところで購入し、その資金を銀行が借りるというのが普通のやり方だが、このムラバハではこれが異なり、まず銀行がこれを買い、売り渡す。1回買って売るという、アセット・トレーディングだ。
 イスラム金融の正式な予算残高は、2007年9月の段階で1兆ドル程度、つまり100兆円程度になった。この5年間で年率平均15-20%、2007年には40%という勢いで伸びている。その1つの要因は、スクークといわれるイスラム・ボンドだ。このスクークができ、これが資金調達の手段になって伸びている。その例はスクーク・イジャラで、債券の発行体として、いわゆる特別目的会社、SPCをつくり、これに権利義務を帰属させる。そしてお金を必要とする人が、リースの対象となるアセットの使用権を発行体に移す。例えば、自分が持っている不動産などを一旦、リースに出し、このリース料がクーポンの原資になる。

3. 日本におけるイスラム金融への対応
 日本でも1年半ほど前から、金融庁がイスラム金融を日本の金融機関についても可能にするよう勉強している。銀行法12条というのがあり、これは10条、11条に掲げられているもの以外やってはいけないというものだ。したがって、その10条、11条に列挙されているもの以外の議論を銀行はできず、銀行法を変えなければいけない訳だが、大きな改正になるため別の金融商品取引法という法律と銀行法施行規則の改正で、銀行、証券会社、保険会社のファイアウォールを撤廃する名目の1つとして改正した。今後の課題は、税制の問題などだ。
 イギリスやシンガポールなどでは、政権のトップがイスラム金融促進に向けたメッセージを発しているが、日本ではそのような動きはまだない。日本が国際金融センターとしてやっていくのは1つの大きな柱だと思うので、今後はぜひこういうところにも目配りをして対応していくべきだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部