平成20年度 第2回 国際情勢研究会 「イラン情勢」 (財)日本エネルギー経済研究所・理事 兼中東研究センター長 田中 浩一郎【2008/09/19】

日時:2008年9月19日、場所:(財)貿易研修センター

平成20年度 第2回 国際情勢研究会
「イラン情勢」


(財)日本エネルギー経済研究所・理事 兼 中東研究センター長
田中 浩一郎

1.イランの核開発
田中 浩一郎     イランの核開発だが、ウランの濃縮やプルトニウムの抽出といった過去の実験に関し、疑惑が残っていたところを解明する手続きについてIAEA(国際原子力機関)との間で合意に達し、半年ほどイランから情報が提供され、IAEAがそれを検証するプロセスがあった。3月には一通りの解決を見て、イランは勝利宣言を出したが、今年5月と9月のレポートを見ると、問題が再燃してきている。
 かつてはこの「未解明問題」がいわゆる疑惑の中心をなしていたが、今は疑惑の中心にあるのが「疑惑の研究」で、若干違うアスペクトが生じている。それは4フッ化ウラン製造のプラントに関する情報取得、そして高電圧下での多連装起爆装置のテスト、実物大模型による半球体の爆発衝突実験などだ。核分裂物質は介在していないが、少なくとも実物大模型をつくったのではないかとみられる。そして核弾頭を装着できるよう、射程1,500キロ前後のシャハーブ3という弾道ミサイルの弾頭内部の設計変更を行った。これらに関する情報が今、疑惑としてアメリカからIAEAに提示され、新たな局面を迎えている。中でも半球体の衝突実験を行ったかが焦点で、それゆえ最初の未解明問題にかかわっていたところでは、一旦解決済みとされたところが再び関連する分野でもあり、疑惑が再燃している。またイランは依然としてウラン濃縮活動を続けており、アラークという町に研究用の重水炉をつくっている。この2つなどは1696以降の安保理決議に違反している、というのが今の状態だ。
 イランの核開発問題では、P5+1、安保理常任理事国5か国にドイツを加えた6か国との協議も進行しているが、実際は停滞しているといった方がよいかもしれない。この数か月間、イランとP5+1の双方から包括的な提案が提示され、お互いがそれを検討する状況になっていた。面白かったのはイラン側が先に提案を行ったことだが、内容はウラン濃縮をいつ、どのように止めるかという条件には触れず、世界各地でいろいろな協力をしよう、とお茶を濁すようなものだった。それに対するP5+1側からの提案は、特段、新しい内容はない。
 イランは結局、期限にしたがって回答せず、期限は一度延長されるが、最終的に8月の冒頭に訪れ、それを受けて、EUが単独で制裁をかけ、強化するという動きを見せている。いずれも国連安保理決議1747、1803のそれぞれが加盟国に要望した内容で強制措置ではなく、加盟国に対する要望を加盟国側が自主的に取り上げた形になっている。その点ではアメリカなどが行っている単独制裁に、より近づいた状況にある。

2.アメリカ、イスラエルによる軍事攻撃の可能性
 現在、アメリカ、少なくともブッシュ政権の残り任期でチェイニーが非常に軍事攻撃に乗り気だという話が聞こえるが、統合参謀本部などを見ても、やりたくないという話になっている。対照的なのは、イスラエル側の強硬発言や行動で、6月初めにモファズ運輸相が「核計画を止めるためにはイラン攻撃が不可避だ」という発言をメディアにして物議を醸した。またニューヨーク・タイムズ紙に、同じ頃、イスラエル空軍が地中海上空にて空中給油機まで動員して大規模な軍事演習を行っていたという話が出ている。
 そして最近は逆の動きだが、アメリカは空中給油機、バンカーバスター、電子システムなどをイスラエルに供与することを拒んでいるという。アメリカがやらなくなると困るのは、イスラエルだ。今、イスラエルの要人などがタカ派的な発言を繰り返すことが多いのも、アメリカがやる気を見せないことから焦りが生じていると考えられる。
 イスラエルとしては、アメリカが動いてくれないので自分で動くということもあるが、相応の準備が必要となる。兵器、機材を調達しなくてはならず、さらに実戦を想定した攻撃訓練を行う必要がある。地中海上空で6月に行われたという演習がそれに類するかもしれないが、あくまでも給油の話であり、実際には地上のターゲットをどう攻撃するかとは密接に結びついていない。また当然、国内に対しても、世論形成と動員準備をかけなければならない。

3.アフマディネジャード大統領政権下のイラク
 アフマディネジャード大統領はエキセントリックなキャラクターとその発言で有名だが、彼自身の政策や政権の運営の仕方も非常に面白いものがある。来年にはイランも大統領選挙を迎え、次期大統領に誰がなるかも白熱した議論になっている。最有力と考えられるのは、現職大統領が再任されることだが、それ以外にもいろいろな人たちの名前が挙がっている。アフマディネジャード大統領は非常に独断専行、唯我独尊で、ここ1月あまりの動きを見ると、ますます調子に乗っている。この夏に経済躍進大計画を鳴り物入りで発表、8月にはアメリカの公共放送のインタビューに答えた。おそらくこれを見た人の99.9%は不快に感じ、イランをアメリカやイスラエルが空爆しても同情を呼ばない、ということになろうかと思う。
 この8月には最高指導者のハーメネイが現政権の業績を評価し、かつ「今年が最後の年だと思うな」といって、アフマディネジャードの再選に向けたお墨付きともいえる発言を行った。再選の切符を手中に仕掛けたようなアフマディネジャード大統領だが、今後はその増長傾向が続く一方で、対外的には核問題で、イラン側から状況の悪化を回避するような動きがむしろ停滞することにもなるかと思う。そうなると、その間、イラン国内の経済が一層、混迷を深めることは避けられない。
 国際的な環境で見ると、グルジア危機が終わらない限り、アメリカは外交手段を駆使することは難しい。となると、手詰まり感がますます深まることになる。ブッシュ政権にしても次期政権にしても、ロシアとの関係があり、今後グルジア問題か、イランを叩くかどちらかの優先的な対処について、決めなければいけない状況になる。ただこの数ヵ月を見る限り、動けないアメリカが見え、イスラエルはますます危機感を持ってじれていく。その我慢が頂点に達するところが、最も怖い。イスラエルが万全でないにしても、無謀だと思えるような攻撃を敢行する気になれば、そのタイミングは年末年始ごろ訪れると見ている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部