平成20年度 第3回-1 国際情勢研究会 「『中国脅威論』とASEAN諸国」 桜美林大学 国際学部教授 佐藤 考一【2008/10/17】

日時:2008年10月17日、場所:(財)貿易研修センター

平成20年度 第3回-1 国際情勢研究会
「『中国脅威論』とASEAN諸国」


桜美林大学 国際学部教授
佐藤 考一

佐藤 考一 東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟諸国は、中国に比べると弱体な小国だが、冷戦期から度々、東南アジアの反政府勢力である共産ゲリラを支援してきた中国に対する脅威感を表明してきた。冷戦後、フィリピンを除く各国の共産ゲリラは消滅し、中国政府は全てのASEAN諸国と国交を結んだが、ASEAN側からは今も度々脅威感が表明されている。
 ASEANを含むアジア太平洋地域全体で、中国脅威論といわれるものはおおむね、(1)歴史的要素、(2)軍事的要素、(3)政治的要素、(4)経済的要素、(5)非伝統的安全保障要素、(6)中国の巨大な規模の要素-の6つの要素に整理できる。政治的要素については、大中華が形成される可能性に絡むものも多い。ASEANなどでは自国の華人が中国の味方をして大中華が形成される可能性が出てくるのではないかと議論され、その反射によって東南アジアの華人社会では土着エスニック・グループから疑われるため、中国が怖い。またこのような中国が怖い、強いという議論とは異なり、中国が混乱、分裂しないかという逆説的な脅威論もある。
 経済的要素では、対中貿易赤字がある。そして中国による外資・市場の独占も、ASEANなどではとくに怖いといわれる。さらに食料が足りなくなる、エネルギー危機になる、そして中国経済は安定していないという逆説的な議論もある。そして非伝統的安全保障要素があり、それらは環境問題、感染症、その他、越境性の犯罪、食品衛生の問題などだ。
 ASEAN諸国の対中認識、中国脅威論の構造の変化を見ると、歴史的な問題が最初に出てきて、続いて南シナ海紛争を中心にした伝統的安全保障問題があり、これはかなり長い期間、問題視されてきた。その後に、中国とASEANの関係が1991年以降、対話国になるので、緊密になってくると経済面での付き合いが深くなり、経済的な問題が出てくる。そして台湾と中国が、その間に対立して起こす問題がASEANに波及する。さらに経済関係、人やモノの行き来が緊密になると、今度は感染症、SARSのような非伝統的安全保障問題、食品衛生の問題なども出てくる。
 89年から94年まで、アジアの発展途上国向けの外資を見ると、毎年平均40%ぐらいの投資をASEANは受け取っていたが、2000年には10%ぐらいになり、残りは全部中国に行ってしまった。また両者の間での投資は未だにASEAN側から中国への一方通行に近い形で、ASEAN側から「もっと投資してほしい」とのクレームがついている。
 ASEANは中国脅威論の6つの要素のさまざまな組み合わせとなる中国の脅威に対処しなければならず、いずれも小さい国であるから1国では相手にされない。このため集団で中国と交渉し、会議外交の場でやってきた。会議外交の場では、全会一致で物事を決めるのが約束事で、必ずしも常に中国を抑えられるとは限らないが、なだめながら何とかやっている。そして中国、ASEANの閣僚会議、首脳会議でできなければ、ASEAN+3やAPEC、ASEM、あるいはARFがあり、日本や韓国以外のアメリカなど大国が出てくる場でもまた議論する。何度もしつこくやり中国を何とか誘導しようと、一生懸命やってきた。
 一方、中国は現在、世界各地に「孔子学院」をつくっており、今後は中国の価値観を広めようとすることによって文化的な問題も生じるかもしれない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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