平成20年度 アジア研究会公開シンポジウム 「東アジア経済統合におけるメコン経済圏」【2009/01/21】

日時:2009年1月21日

平成20年度 アジア研究会公開シンポジウム

「東アジア経済統合におけるメコン経済圏」


開会講演「東アジア経済統合・CLMV開発と日本の役割」
黒田 篤郎 経済産業省通商交渉官

黒田 篤郎 「ASEAN(東南アジア諸国連合)+6」というのが、われわれが東アジアと略称している地域で、人口は32億人、GDP(国内総生産)は12兆ドルで世界の4分の1を占めるが、1人当たりGDPを見ると、シンガポールや日本、豪州、ニュージーランドなどの国々と、まだ数百ドルのCLMV、メコン諸国との格差は大きい。東アジアでは、自由貿易協定(FTA)や関税同盟による制度的な経済統合を先行して進めてきた欧州連合(EU)や北米とは異なり、日系企業の事業活動などによる実態的な分業ネットワークが先にできあがり、それを追いかける形で今世紀にFTAなど制度的な経済統合が進んだ。また東アジアの中でのつながり、域内貿易の比率が高まっている。
 CLMV諸国では90年前後、中国による改革開放路線を踏襲する形で市場経済の導入が行われた。1995-99年にかけ、相次いでASEANに加盟したという比較的似た発展の歴史を持つ国々だ。産業構造を見ると農業の比重が高く、製造業については、ある程度は重化学工業が出てきて、あるいは外資系企業の投資が進みつつあるベトナムは例外的であり、あとの3カ国は、生地を輸入して縫製品に加工して輸出する繊維産業が中心、というのが共通点だと思う。また日本からの投資額、貿易額を見ると、ベトナムとそれ以外の国々で大きな差がある。
 ASEANでは、域内の自由化だけでは限度があるということで、ASEAN周辺国とのFTAを結ぶ戦略を2001年頃から始めている。そして日本政府は今、ASEANに日中韓、そしてインド、豪州、ニュージーランドまでを加えた「ASEAN+6(CEPEA)」の推進に特に力を入れているところだ。その一方で、関税やFTA、経済連携協定(EPA)では対応できないような域内物流や基準認証、人材育成、裾野産業の育成やインフラ整備といった各国の共通課題についてASEANにシンクタンクをつくり、共同研究をして政策調整をしていこうとしており、日本の提案で「東アジア・ASEAN研究センター(ERIA)」が昨年、ジャカルタに発足したところだ。 
 日本とCLMV諸国との貿易・投資を見ると、ベトナムが断然多く、他の国はまだ少ない。ベトナムについては安価な労働力、優秀な人材、さらに政治社会情勢が安定していることなどが、日本企業からメリットと見られている。一方、日本政府は今、ベトナムだけでなく、CLMV諸国への協力を全般的に強化している。ASEAN域内の格差を是正し統合を強化するためであり、またCLMV諸国は地政学上大変重要な国々でもあり、結びつきを強める必要があるからである。日本はASEAN、そしてCLMV協力でかなり前からいろいろなことをしてきた。現在は例えば、「日メコン地域パートナーシップ・プログラム」によって2007年から3年間の政府開発援助(ODA)拡充もするなどしている。またCLMV諸国とは、二国間でも投資協定やEPA、貿易投資フォーラムをつくって関係を強化している。

基調講演「東アジア統合とGMS開発」
白石 隆 政策研究大学院大学副学長・教授/研究会座長

白石 隆 今回のGMS開発では、特にハードだけでなくソフトも含めたインフラ整備が重視されている。その理由としては、2つの大きな要素がある。1つは冷戦が終わり、その一環として長期にわたったインドシナの紛争、特にカンボジアの内戦が終わりを告げた。それまでインドシナ諸国とASEANの国々は統合されていなかったが、1990年代にインドシナ諸国が次々にASEANに加盟した。そしてもう1つ、ASEAN統合という政治的意思を今後も維持するには、各国に経済発展のメリットが浸透しなければいけない。その意味での格差是正が課題だ。
 インドシナ諸国における「戦場から市場へ」という変化、あるいはASEAN統合の推進と格差克服について、その根本にあるもの、政治、国としての戦略判断を考えると、2つあるのではないか。1つは私が常日頃、「経済成長の政治」、「生産性の政治」といっているものだ。経済成長し、雇用が創出され、国民の生活がよくなっていけば政治が安定するので、そういう形で経済成長と政治の安定を組み合わせる。政治が安定すれば投資が来て経済成長する。こういう循環をつくるのが「経済成長の政治」で、従来アジア、特に東アジアの国は、ミャンマーを顕著な例外として、また北朝鮮を別として、この政治をやろうとしてきた。
 その一方で私が心配しているのは、産業の大動脈構想で投資がラオスやカンボジアでも行われるようになり、製造業が起こればよいのだが、これらの国に何も流れなくなったらどうするのかという問題だ。ヒトやモノ、お金の移動が各国に行き渡るようにしなければ、「経済成長の政治」そのものが、特に現在のような経済危機の下ではますます難しくなる。
 もう1つは、中国の台頭にどう対応するかという問題がある。私は中国の台頭が周辺諸国にとってどのような意味を持つのかについては、インターナショナル、トランスナショナル、ナショナルという異なった次元で考える必要があると思う。インターナショナルとは外交において、それぞれの国、中国という国家がどんどん強くなってくるので、これにどう対応するかという話だ。そしてトランスナショナルとは、中国からモノやヒト、お金が染み出してくることだ。その結果、染み出してきた地域そのものが変わっていく。さらにナショナルだが、かつて東南アジアには中国系の人たちがたくさんおり、この人たちが1950、60年代ごろにはどんどん現地社会に同化した。インドネシアやマニラ、バンコクのチャイニーズでは、私ぐらいの年齢だと中国語ができないのも不思議でなかった。しかし今の若い世代になると、タイ語やインドネシア語、そして英語ができ、また中国語の「普通話」もできる。そういう新しい中国人が現れている。その人たちは例えば教育をアメリカのビジネス・スクールなどで受け、ビジネスのやり方でも一方で中国的な、他方で欧米的なやり方ができる。このような極めて違うダイメンジョンで広がっている中国の台頭に、どう対応していけばよいのかだ。

<プレゼンテーション>
「ASEANインフラ共同体構想」
浅沼 信爾 一橋大学客員教授

浅沼 信爾 東アジア地域は過去四半世紀にわたって高度な経済成長を続け、いろいろな意味での経済発展を達成してきた。その1つの大きな要因は、国際経済、地域経済との経済統合であったといっても過言ではない。経済統合といっても新しい形で、国際的な産業ベースの分業、生産工程をいくつかに分けたうえで、それを基盤に生産の分担をする形で進行してきた。この経済統合の要因の1つは、地域間、地域内、もしくは諸国間の経済活動の取引コスト、いわゆるロジコストを下げることだ。これにはインフラ整備も含まれる。
 一方、インフラ構築には、投資、メンテの費用もかかり、相当多額の資金が必要となる。これは政府の資金負担だけではだめで、官民連携(PPP)などいろいろな方法で資金を得る必要があるだろう。そしてもう1つ大きな問題として、インフラ投資をすればそこに利益が生じるので、各国への利益配分も考えなければいけない。こういう問題を地域の、特にASEANの政府が共同で主体的に扱わなければいけない。私はしたがって、「ASEANインフラ共同体」のようなものをASEANにつくってはどうかと思う。
 その第1の役割は、長期ビジョン、投資計画をつくり、プログラム、プロジェクトを共同で策定、計画実施状況をモニターする作業になる。そして第2の役割として、インフラ基準、規制等の標準化をやらなくてはいけない。さらに第3の役割は、インフラ投資資金を域外から調達することだ。同時に技術導入を共同で行うことが可能になるのではないか。そして第4の役割は、これは成果になるかと思うが、ASEAN地域全体のバランスのとれた経済統合が行われるのではないかということだ。今はまだASEAN事務局は非常に弱く、予算も少ないので、日本の支援も必要だ。ASEANが主体的に経済統合を深化させていくことは、ある意味では日本の国益に適したことだと考える。

「アジアのシームレス物流」
高島 正之 三菱商事顧問/アジア物流開発 代表取締役

高島 正之 世界経済が100年に1度といわれる大不況を迎えている中、わが国では「輸出に頼らずに何とか内需で」という意見が多く聞かれる。しかし日本も人口減少社会に入り、今後は市場の拡大はあまり期待できない。そこで視野を1つ広げ、世界人口の半分を占める大アジア、16カ国のアジア地域を対象にする必要がある。アジア地域として伸びていこうとする場合、モノづくりが中心になるが、これをサポートする補助サービスが必要だ。製造業から見ると在庫を持たず、日本特有のジャストインタイムや看板方式、この得意技をアジア地域においても発揮しようと思えば、それをサポートするITおよびシームレス物流が必要になる。
 今回、東西回廊を対象に調査を行ったが、今なおいろいろな問題があり、シームレスとは評価できないと判断した。3つの大きな問題点は、以下のようなものだ。1つ目は物流の合理化に望まれる姿であるシングルストップ、シングルウィンドウで、税関、通関で止まるのは当たり前だが、そのセクションはいくつもあってはいけない。そして次に、クロスボーダー輸送の問題がある。タイとラオス、そしてラオスとベトナムの間では、相互協定で相手国車両の自国内通行が認められているが、ベトナムの車はタイで走る訳にはいかない。3つ目として、道路は確かにできて立派だが、トラックが高速で走るため道路が痛んできている。このメンテをどうするのかだ。またこれを生活道路に使っている近隣住民もおり、安全面から生活道路の整備も考える必要があると思う。また地球温暖化対策として、鉄道のネットワークが必要になるのではないかという意見も多く聞かれる。

「メコン地域における国境経済圏の可能性」
工藤 年博 アジア経済研究所地域研究センター 東南アジアⅡ研究グループ長

工藤 年博 メコン地域の後発発展途上国がどのように経済発展をしていくのかを考えるための、1つのアイディアとして「国境経済圏」を提案したい。このプリゼンテーションの目的は、メコン地域における国境経済圏の可能性を検討することである。まず、ここでは国境経済圏を「国境地域に限定された地理的範囲に形成される局地経済圏」と定義しておきたい。そこではいろいろな経済活動が行われている。国境付近に集積する産業や国境を通じた貿易、またはカジノなどである。
 国境地域の立地優位性(ロケーション・アドバンテージ)を考えるとき、3つの視点がある。すなわち、国境をまたぐ補完的な生産要素の存在、経済統合の進展度との関係、そしてサービスリンク・コストである。国境とは経済的に見れば、自由な経済活動に対する規制に他ならない。しかし、国境という規制があるがゆえに、そこには生産要素の存在のあり方や価格に大きな格差が生じ、それによって国境地域には補完的な生産要素が「地理的な近接性をもって」存在することになる。そして、この地理的な近接性のゆえに、国境地域では後発発展途上国が抱える高いサービスリンク・コストという桎梏に悩まされることなく、補完的な生産要素を低いサービスリンク・コストで結びつけることができるのである。
 しかし、長期的に見て、メコン地域全体が1つの国の経済のように統合された場合には、生産要素は統合された地域(2カ国以上が形成する広域市場)を自由に移動することができることとなり、現在のように「国境による分断性」によって生じている国境地域の立地優位性はなくなっていく。そうすれば、国境産業も衰退していくだろう。しかし、これは相当に長期的な話である。現実的には、今しばらくはメコン地域の経済統合はそうしたレベルにまで進むことは考えられない。すなわち、中長期的には国境地域の立地優位性が消えることはないのである。
 さて、国境地域に産業集積を形成していくための政策ツールとして、私は経済特区をつくってはどうかと提唱している。実際に国境地域に経済特区を設置する動きはGMS地域で広く観察される。例えば、カンボジアではすでに18か19の経済特区の設置が申請されているが、そのいくつかは国境地域をターゲットとしている。
 こうした工夫をしていけば、国境経済圏、とくに国境産業は、後発発展途上国CLMの1つの新たな開発戦略となり得るのではないだろうか。もちろん、これがCLM各国の産業発展のメインストリームとなるとは考えていない。しかし、とくにミャンマーのように今しばらくは、国の中心地域に外国資本がたくさん投資してくるというような状況を期待できないところでは、国境経済圏構想は大きな力を持つのではないかと考えている。その際、CLM各国には2つ課題がある。1つは越境インフラをしっかり進めること、そしてもう1つはCLM側でビジネス・投資環境の整備することだ。

「経済統合下の小国の課題 -ラオスを中心にして-」
原 洋之介 政策研究大学院大学教授

原 洋之介 研究開発の国際化に対する一般的な通説に対し、インド・中国を中心としたアジア進出における現実がどれだけ乖離しているか確認したい。また多国籍企業がアジアに進出するうえでの課題、チャレンジと、インド、中国におけるR&Dというテーマを扱ったメッセージにギャップがあるのではないかということを2段階で、フィールド調査ではなく文献調査した。
 米欧、そして日本企業が研究開発を国際展開するうえでの通常のパターンに関し、アジア進出の場合は必ずしもその論点をそのまま受け入れることはできない。例えば投資決定を過去、現在の実績ベースでのみ行えば、どうしても不満足な結果になる。したがって将来の可能性を重視して行うことが肝心だ。2点目に現地のR&D拠点の役割が漸進的、段階的に発展するかを考えると、現地の経済社会の発展、および技術革新の加速が目覚しい現状を考えれば、漸進的、段階的アプローチはとれず、非連続的なアプローチが不可避だ。3点目に拠点の役割だが、A拠点は主に探索的、革新的なイノベーション、B拠点は主に既存技術を活用するという役割で、エクスプロレーション型とエクスプロイテーション型といってよいかもしれないが、そのような区分けはうまくいかないのではないか。これもやはり発展段階の加速化と関連があるのではないか。4点目にオートノミーとコントロールのバランスだが、アジア地域でも重要であることに変わりはないが、欧米日における対外拠点のオートノミーとコントロールのバランスの場合には拠点の発展段階に応じ、イノベーションの役割が異なる。
 2つ目の話は10項目ぐらいあり、現地における固定観念があり、例えば知財問題、特許の問題、人材の問題などだが、これらをあまり固定観念でみるべきではないということだ。
 まとめをすると、1つはR&Dの国際化に関して、先進国をベースにした通説がいろいろあるが、アジア進出の場合には通説を最低限にする必要がある。2点目には中国、インド、その他のアジアに対する過度の固定観念を避けつつも、その独自性を適切に評価する必要性があるのではないかということだ。

<コメント>
多田羅 徹多田羅 徹 青山学院大学客員講師/前アジア開発銀行メコン開発室長:
 92年にメコンを開発するスキームが始まり、既に15年が経った。しかし15年の経験で痛感したのは、ハードのインフラは完成しつつあるが、ソフトのインフラが弱いということだ。これは政策、制度、手続きであったりする訳だが、これをどう整備していくかが重要になっている。また浅沼先生も指摘されたように、インフラ共同体に関する提案をすればASEAN側は喜ぶだろう。

荒木 義宏荒木 義宏 日本貿易振興機構 海外調査部主査:
 東西街道で、シームレスという状況が今後今後早急に発展するのは難しいだろう。一方、昨年から今年にかけてカンボジアがかなり注目されている。特にホーチミンの日系企業、地場企業から南部回廊への強い期待がある。さらに中小企業でもタイに拠点を持ち、なおかつ10数年も前からホーチミンにも拠点を持っている所が多い。特に金属加工系の中小企業の南部回廊への期待は非常に強い。

岩城 良生岩城 良生 NPOメコン総合研究所事務局長:
 海外在住のミャンマー人は数百万人ほどいるが、国内のミャンマー人とのネットワークがあまりないという問題がある。このため、ネットワークを強化する必要がある。ミャンマーはCLM3カ国では面積が大きく、人口も多く、天然資源にも恵まれており、発展の可能性が多い。現在の問題は政治のみだと思う。また今後、ミャンマー経済が空洞化しないよう、海外にいるミャンマー人ががんばらなければいけない。

ケオラ・スックニランケオラ・スックニラン アジア経済研究所開発研究センター研究員:
 経済統合は良い意味でも、悪い意味でも大国が主導して行われる。しかし、世界的な経済統合が小国に与えるインパクトは大きい。したがって、制度設計などで主導的な役割を果たす大国による小国への配慮が必要である。今日の経済統合と性格が異なるが、前世紀では軍事力による世界統合を図ろうとした世界や地域の大国がラオスで対立し、そして、ラオス人の効率的な経済活動考慮しない形で作られた様々な障壁や制度が今日のラオスの経済的な困難を生んでいるのである。

廣畑 伸雄廣畑 伸雄 山口大学大学院技術経営研究科准教授:
 ラオスからは、経済的に非常に成功した国、日本から学びたいという期待がある。インフラ整備などと比べると、難しい部分だが、産業人材の育成に力を入れていくことが重要だ。それに寄与できるのは経済産業省や日本企業の方々と思う。日本の政府機関と協力できるところは活用し、日本企業に頑張っていただくのが望ましい姿と思う。

ド・マン・ホーンド・マン・ホーン 桜美林大学経済・経営学系講師:
 ベトナムやカンボジアなどのメコン地域の国々が、自助努力で経済発展するには自国の民間企業の発展が重要だ。ベトナムで民間企業に対する開放が本格的になされたのは、2000年代に入ってからのことだ。このためベトナムの民間企業はまだ若く、これら民間セクターへの支援は最も重要だと思う。しかし、現地の民間セクターを効果的に支援するため、民間企業の代表つまりビジネス協会の形成へのサポートが必要不可欠である。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部