平成20年度 IIST国際情勢シンポジウム【2009/01/23】

日時:2009年1月23日、場所:東海大学校友会館「富士の間」

平成20年度 IIST国際情勢シンポジウム


「世界情勢の新しい動き」
東京大学 大学院法学政治学研究科教授
北岡 伸一

北岡 伸一 今の経済危機とそれに続く変化は、第二次世界大戦後、1945年以来の変化になるのではないか。1944年7月に米・ニューハンプシャー州のブレトン・ウッズで会議が開かれ、そこでできたのがブレトン・ウッズ・システムだ。そして8-9月のダンバートン・オークス会議では、国連ができた。そこでつくられた秩序には、アメリカの覇権が刻み込まれており、国連安保理の拒否権もここで決まった。アメリカの覇権は冷戦でも揺らがなかったが、その後、東側が崩壊した。西側の結集には、東という敵があったからこそできた面があった。アメリカは相対的には圧倒的な力を持っているが、いわばその力ゆえに行き詰っているというのが冷戦後の状況だ。また冷戦の終わりまでは基本的に、数億人の経済協力開発機構(OECD)の国、先進国中心の経済だったと思う。ところがソ連圏、東欧圏、そしてインドやブラジル、中国なども入ってきた。アメリカの、むしろ経済が冷戦を制したが、かえって新しい問題を招いている。
 しかし私はアメリカがこのまま没落するとは思わない。重要なのはトランジションで、アメリカが再び復活するまでに何が起こるかだ。そして私はもう一度1945年に戻ると思う。45年にアメリカはソ連や中国と組んでいた。ある種の妥協をし、ナチズムや日本と戦うため異質の物と手を組んでいた。これを私は今の大きな課題だと思う。アメリカは今後の世界をマネージしていくために当面、経済に専念し、世界秩序を維持する。そうすると主要国との協調が必要になる。そして日本はグローバルなパワーとして、世界の人権や自由に貢献し、アフリカの貧困、気候変動にも取り組む。そのためにはG8を拡大し、同時に車の両輪で国連安保理の拡大も必要だ。日本は何らかの格好で安保理に定期的に座り、常にそこで発言権を確保していく。そして世界の中の単なるシニカルな住み分けではなく、一定の方向性を持った住み分けへの移行に貢献していく。それが日本の課題ではないか。

「米新政権の誕生とアジア政策」
東京大学 大学院法学政治学研究科教授
久保 文明

久保 文明< オバマ政権の就任演説では、アジアという言葉は出てこなかった。国の名前で出てきたのはイラク、アフガニスタンだけで、後はイスラム諸国に対する語りかけだった。外交については各論という感じではなく、政権の今後の基本方針を示すものだったといえる。また演説は内容的には聴衆が静まりかえるというか、「これから大変なのだ」という感じのものだった。例えば経済について触れ、「一部の人たちの貪欲や無責任の結果である」といいながら、国民全体の責任でもあると示唆した。つまり皆が「大事な決定を先延ばしにしてきた帰結」ではないかとしている。つまり一方的に一部の金融業者や共和党を批判した訳でもない。そしてアメリカの良さ、アメリカをつくり変えるというニュアンスがはっきり出た演説でもあった。
 また演説でかなり大事なのは、「sacrifice」という言葉が出てくることで、これはアメリカとは個人個人の単なる野心の寄せ集め以上のものだということだ。「サービス」、「犠牲」という言葉もあり、最終的に「責任」という言葉で総括されていると思うが、そういった言葉が多い。そしてブッシュ外交の批判もしている。
 またオバマ政権の基本的な方向性を考える際、私たちが認識しなければいけないのは、最優先課題はとにかく内政ということだ。そして外交では、イラクから16カ月で撤退の方策を探るように軍に命令し、アフガニスタンではテロとの戦いを重視しているので、そちらが最重要課題であって、次に中東が来る。アジアはある意味その後だが、核拡散の問題にも触れているので、その意味では北朝鮮問題が入ってくる。対日政策については既に早々と就任が上院で承認されたクリントン国務長官も、承認のための公聴会でいっているが、日米同盟はアメリカのアジア政策のコーナー・ストーンということだ。またアフガニスタンでのオペレーションを重視するということなので、そこで日本がもしもアメリカ、オバマ政権との協力関係を深めたいのであれば、どの程度、協力できるかということになるだろう。テロの時代にどのくらい日本が貢献できるかが問われている気がする。

「中国政治の課題と今後」
東京大学 大学院法学政治学研究科教授
高原 明生

高原 明生 中国も今年は深刻な状況で、経済を震源とする揺れが政治社会にもおよんでいる。何といっても社会の安定に直接影響するのは、失業の増加だ。年末には4.2%という数字が発表されたが、あくまでも登録失業率で、中国社会科学院が発表した数字では実質9.4%ほどの都市の失業率だという。これには農村の数字は入っていない。そして特に広東省、浙江省のような沿海地区の輸出産業に大きな打撃が出ている。また就業の観点から注目されるのは、毎年600万人ぐらいの大学生が卒業するが、一昨年ごろから特に就職率が悪く、7割ぐらいしか就職できないといわれていることだ。こうした状況下で、労働争議やストが頻発している。
 より直接的な政治へのインパクトを考えると、改革開放に対する批判の高まりがあり、当局は躍起になってそれを抑えようとしている。また昨年下半期からは、「普遍的価値」をめぐる論争もある。これは「自由、平等、人権などを普遍的価値と呼んでいるが、欧米による価値観の押し付けだ」とするような論調だ。この普遍的価値とは実は、温家宝氏が2007年2月の論文で認めていることで、中国人の多くは普遍的価値への批判を温家宝批判と解釈している。しかし実は昨年5月、胡錦濤氏が来日した際の日中共同声明にも「国際社会が共に認める基本的かつ普遍的価値の一層の理解と追求のために緊密に協力する」というフレーズがあり、胡錦濤氏も批判の対象になり得る。さらに社会からは、「普遍的価値が実現できないのはけしからん」という逆の批判も政権に投げかけられている。
 そうした中で、12月8日には海洋調査船が尖閣列島周辺の領海を侵犯するという事件が置き、大変驚いた。これについてはいろいろな見方があるが、政権内部の争いと関係し、胡錦濤・温家宝を揺さぶろうという側が仕掛けた策動である可能性がある。あるいは社会で不平、不満が募る中、人々の批判の目をよそに向けさせようと、政権がナショナリズムに訴えたという見方もできない訳ではない。しかし今の日中関係をここまで持ってきたのは、胡錦濤・温家宝政権の1つの功績ともいえ、それを自ら無にすることは考えにくい。

「中国経済の課題と見通し」
専修大学 経済学部教授
大橋 英夫

大橋 英夫 中国も国際金融危機から自由である訳ではなく、非常に厳しい経済運営を迫られている。1月14日に国家統計局から、2007年の成長率は13%だったという発表があった。最初は11.4%だったので1.6%ぐらい上方修正されたことになる。一方、昨日発表された2008年第4四半期の数字では、6.8%の成長にとどまった。
 中国の経済政策であるが、現在のスローガンは「積極的な財政政策」、「適度に緩和的な金融政策」であり、実はアジア通貨危機当時と同じである。そこで温家宝氏は4兆元の景気刺激策を発表した。これはG20サミット直前に発表されたので非常に評判がよく、国際的に中国のコンフィデンスを高めた。現在の中国経済を見ると、一番大きな支出項目は投資であり、公共投資は確かに一番即効力のある措置である。しかし投資・輸出主導型の今までと同様な成長パターンを追求していくかとなると、大きな疑問が生じる。投資よりも「今の消費の停滞は基本的には社会保障の未整備のためであり、将来不安を払拭してから消費拡大を進めるべきである」という議論もある。
 結局、12月初めの中央経済工作会議で決定されたのは、投資拡大という方針であった。これに合わせて地方がいろいろなプロジェクトを提起し、全部合わせると30兆元ぐらいになる。中国のGDPは25兆元程度なので経済力を上回る投資計画であり、厳選が必要である。今年の経済情勢については、まず輸出の減速はやむをえない。これはアメリカ市場、ヨーロッパ市場次第ということになる。そして公共投資に関しては、かなり展望が開けている。
 8%の成長率を維持できるか否かが、大きな議論になっている。長期的に見れば、中国の労働人口が2015年頃から減少に転じるのは明らかである。大学生の雇用も大変だが、これにはこの5年間ぐらいに大学の定員を200万人程度から600万人近くに拡大したという問題もある。これらの点を考えると、雇用の点から8%成長を保持しなくてはいけないということはあまり考える必要はないと思う。世界経済の中で中国が経済的に重要な役割を担っていかざるをえないことは間違いなく、またその可能性はかなり高い気がする。

「東南アジアの動向と課題」
桜美林大学 国際学部教授
佐藤 考一

佐藤 考一 2008年の東南アジアが政治的にどういう状況だったか一言でまとめると、各国の内政は既存の政治体制の機能不全と成熟しない民主主義のジレンマとでもいう状況だ。インドネシアでは、イスラム化への趨勢は避けられない。これには2つの極端な流れがあり、片方は福祉正義党のような穏健なイスラム主義で、もう1つはイスラムの過激派、ジェマー・イスラミアがその代表だ。経済や政治がうまくいかないのはコーランに忠実に従っていないからではないか、という議論が出てきている。マレーシアでは、現在の与党体制に対する批判がかなり高まっている。そしてフィリピンでは2006年末以降、アロヨ政権への汚職への反発がある。シンガポールは一見静かだが、要は与党体制が強すぎる、野党が人材難だということから政治に対するアパシーがあり、国外へ移民する人が増えている。そしてタイでは軍と王室を味方につけた民主主義市民連合という今の与党と、貧乏な農民を味方につけたタクシン氏との争いがある。王様が調停をしてきたのだが、王様の調停能力にも翳りが見える。
 会議については、ASEAN憲章が昨年批准された。年2回首脳会議を開く、ASEANに法的な規範を与えていうことをきかない加盟国をこらしめるなど、いろいろいっているが、あまりうまくいかないのではないか。それはASEAN自体が非常にゆるやかな集団のためだ。 また昨年12月に開かれるはずだったASEAN首脳会議および日中韓を含めた「ASEAN+3」、東アジア首脳会議は、タイの騒乱事件で開けなかった。そのため今年2月と、4月以降に分けて開かれる。
 経済については、昨年は物価上昇から世界不況になった。また気候変動問題が、関係ないようで出ている。洪水で昨年前半は凶作になり、今年も洪水が出始め、非常にお米がとれなくなった。そして昨年は石油価格が上がり、これが米価にも跳ね返った。
 今年の各国の内政については、政権安定が鍵だ。経済では、各国は国内の物価安定と雇用対策をやるとしている。そして会議外交では、先進諸国に景気回復を祈るということで、日本と消費量の多い中国の経済回復を期待しているという。さらにFTAをどんどん進めるとしており、オーストリア、ニュージーランドとやり、11月にシンガポールでアジア太平洋経済協力(APEC)が開かれるので、アジア太平洋のFTAをやりたいというのが希望のようだ。

「朝鮮半島の今後の動向」
静岡県立大学 大学院国際関係学研究科教授
平岩 俊司

平岩 俊司 今は北朝鮮のみならず韓国との関係も含め、停滞状況にあるといわざるを得ない。一番大きいのはアメリカで政権交代があり、アメリカの朝鮮半島政策、アジア政策が依然として流動的ということだ。日朝の2国間協議は、うまく進んでいない。日本としては当然、6者協議と日朝交渉が連動して動いていくことを前提に交渉に臨まざるを得ない。北朝鮮の立場からすれば、日本との交渉では拉致問題を最重要課題にかかげているため、この問題がうまく進展しない限り、うまく動かないこともよくわかっている。一方、6者協議は残念ながら、ギブアンドテイクの場だ。北朝鮮はその辺が巧みで、そうなると当然、北朝鮮にいうことを聞かせようという側にも足並みの乱れが生じる。顕著な例がアメリカと日本で、とりわけ2006年10月に北朝鮮が核実験を行ったが、それ以降の日米の姿勢には温度差があり、象徴的な例はアメリカによるテロ支援国家リストからの北朝鮮の削除だった。北朝鮮側も日本の難しい状況は良く知っており、「日本には6者協議に参加する資格が果たしてあるのか」などといい出している。
 オバマ政権による新しい北朝鮮政策は非常に重要で、基本的には対話路線をとるといわれる。核問題については、未申告施設への立ち入り問題、サンプル採取をめぐる問題、高濃縮ウラン問題がある。ブッシュ政権期のアメリカはプルトニウムに限定して核の無能力化を実現し、それがクリントン政権にはできなかったと強調しようとしていた。高濃縮ウランの問題は無視する訳ではないが、ブッシュ政権の最後の段階では、次の政権の課題として残すつもりだったという印象がある。
 最後に後継者問題だが、ご案内のとおり、北朝鮮の金正日総書記の重病説が流れ、またつい先日、韓国の連合通信というところで、三男の後継を金正日が決めたという報道もあった。しかしさまざまな情報から考えて、今の段階で金正日総書記が誰かに後継者を決めているということは考えにくい。仮に何かの形で金正日総書記が執務をとれないような状況になれば集団指導体制になるだろうが、北朝鮮の政治文化を考えると、集団指導体制ではそもそも権力闘争が発生し、政治的な不安状況が生まれる。したがって仮に集団指導体制が行われたとしても、非常に短期間で次の段階へ移行せざるをえないだろう。その次の段階が新しい体制になるのか、もう少し混乱を伴うものになるのかは今の段階では何ともいえない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部