第96回-1 中央ユーラシア調査会 「タジキスタン社会・経済の近況」開発アドバイザー 元ADBタジキスタン駐在代表 本村 和子【2009/06/17】

日時:2009年6月17日

第96回-1 中央ユーラシア調査会
「タジキスタン社会・経済の近況」


開発アドバイザー
元ADBタジキスタン駐在代表
本村 和子

1. 戦後復興から本格的な経済開発へ
本村 和子     1991年の独立後、タジキスタンでは5年間の内戦があり、1997年に和平合意が成立、その後3年間の暫定和平期間は予定通り2000年に終了した。また2001年末にアフガニスタンのタリバーンが掃討されると、タジキスタンの治安は決定的に改善した。その結果、2002年以降には経済復興が本格化し、政治的安定が強まった。そして貧困削減戦略が実施されることになり、この方向が現在まで続いている。政府の側でも機構改革、人事異動などにより政権の基盤が強化された。そしてこの時期に、国際協力も活発になっていく。2005年になると、タジキスタン政府は戦後復興から本格的な開発の段階に移行するということを、ドナー会合で宣言した。このころには第2次貧困削減戦略と、それに並行して2007~2015年の長期国家開発戦略も策定された。この2つの戦略が、現在の開発の指針になっている。こうした中で行われた2006年11月の大統領選挙はタジキスタンの社会的、政治的な安定度の高まりを印象づける結果になった。今は自由なので市民からは批判の声も聞かれるが、生活は確実によくなってきている。政府の人事異動も順当に行われていると思う。
 このように政治の安定と経済開発が順調に進んだ結果、2006~2007年ごろになると、国際経済協力の選択肢として民間投資拡大への期待が高まった。それまで国際機関の援助は公共投資が主だったが、民間投資促進への環境整備が目標の一つとなり協力内容も変わってきた。同時に従来の先進国主導の国際機関や二国間による協力のほか、新興諸国による大規模投資、具体的にはロシアや中国、イランといった国々による経済協力が行われるようになった。
 前回お話しした際、「綿花債務が大きな問題になっている」といったが、2007年後半に判明したのは、タジキスタン中央銀行が国際通貨基金(IMF)が禁止していた民間部門への保証、あるいはそこへの具体的な資金供与を行っていたということであった。綿花農家に対する融資を行っていた中間金融業者は信用悪化によって国際資金調達が難しくなり、資金が逼迫したため、「このままでは綿花の生産が継続できない」ということで、中央銀行が保証を出し、それを隠していたことが2007年後半に発覚した。そのため2008年にはIMFの厳しい制裁を受けることになったのである。この制裁は、IMFを欺いていた一定期間にIMFから受けた融資を全額、期限を設けて返済し、同時にIMFのプログラムに沿ってガバナンスのトレーニングを受けて、中央銀行の運営システムを改善するというものであった。タジキスタンはその後、指定された通り資金を返済し,監督期間を無事に終えたため、今年3月、IMF理事会は、タジキスタンに次の支援プログラム(Poverty Reduction and Growth Facility)を提供することを承認した。
 タジキスタンの新しい中央銀行総裁はラヒーモフという人で、就任後まもない4月に私は現地で彼を訪ねた。その際、興味深かったのは、綿花生産のための資金調達に関連し、前総裁のアリマルドーノフ氏がとった措置について、「IMFの方針には反していたとしても、タジキスタン経済を維持するためには他の方法がなく、必要な措置であった」と話していたことだ。彼はこの話をメディアに対してもしており、その立場を崩さないままIMFのスケジュールをこなして乗り切った。IMFはPRGFのもと、2009年4月~2012年3月の3年間に、構造調整のため1億1600万ドルを供与することに合意し、IMFとの関係は再び軌道に乗った。これによって、今後は他の国際機関や2国間での協力もしやすくなるとみられる。

2. 今後の開発と課題、日本の支援策
 今後の開発で重要な課題は、貧困の削減を継続することである。貧困ラインといわれる1日=2.15ドル以下での生活、この人口の比率が1999年には83%であった。2003年には64%に改善したというが、まだ半分以上が貧困ライン以下という状態である。まず経済の活性化が重要で、その鍵になるのは産業の振興と雇用の拡大であり、政府は真剣にこれに取り組んでいる。
 今年4月に現地へ行った際、経済貿易大臣に「今年の経済はどうか」と聞いたところ、「金融危機の影響で大変だ」ということであった。2000年に入ってから4年は10%前後、その後4年は7%程度の成長率が続き、昨年は8%だったといわれる。一方、今年1~3月は前年同期比3.5%増で、年末にかけてさらに悪くなると見られている。ただ実体経済を見ると、それほど悪くなっている感じはしない。農業の落ち込みがひどくなければ、あまり悪くならないのではないかと思う。
 その一方で、経済貿易大臣によれば、第1四半期に新しい企業が90社できたということである。 小さな国なので90社とは大変な数である。そしてタジキスタンの英字紙『アジアプラス』によれば、2009年には欧州復興開発銀行(EBRD)、イスラム銀行、ドイツ政府などが協力し、中小企業の設立を支援するための3000万ドルの基金を創設する予定だという。また最近、大統領が農業部門支援策の一環として綿花債務について、2008年1月1日までの分を帳消しにすることになったという報道もあった。しかしこれらについては、実行されるかどうか見守る必要がある。
 今年4月には日本政府のタジキスタン向け支援の基本方針を示す外務省の国別援助計画が、4年がかりで仕上がった。日本からの重点支援分野は農村開発、産業振興が第一とされ、これは適切な内容だと思う。その一方で、個人的に残念に思うのは、なぜもっと教育を重視しないのかということだ。日本の戦後の復興、経済発展を導いたのは、何といっても教育である。したがって日本政府には今後、もっと教育に着目する姿勢を出していただきたいと思っている。 

 タジキスタンは、アフガニスタンに南側で広く隣接しており、日本政府はアフガニスタンの復興を持続的なものにするためにもタジキスタンの経済発展が不可欠であることを認識している。日本の対中央アジア政策では、パキスタン、アフガニスタンから中央アジアにつながる不安定要因をはらむ地域を、平和と安定の回廊へと再構築することが目標になっており、タジキスタンの安定はこの目標を達成するために不可欠であることから、協力強化が模索されているという。こういった広い視野の中でのタジキスタンの位置づけが、日本の援助計画において明確に示されたことは非常に心強い。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

詳細PDF


詳細PDFをご覧いただくにはIISTサポーターズ(無料)へ登録後に発行されるユーザ名、パスワードが必要です。またご登録後は講演会・シンポジウム開催のご案内をお送りさせていただきます。
ユーザ名、パスワードを忘れてしまった会員の方はこちらからご請求下さい。

Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。



担当:総務・企画調査広報部