第100回 中央ユーラシア調査会 「ニュー・グローバル・オーダーと日本のアジア経済戦略」財団法人機械産業記念事業財団会長 アジア戦略会議座長 福川 伸次【2009/11/30】

日時:2009年11月30日

第100回 中央ユーラシア調査会
「ニュー・グローバル・オーダーと日本のアジア経済戦略」


財団法人機械産業記念事業財団会長
アジア戦略会議座長
福川 伸次

1. 世界の新しい潮流と国際政治構造の変化
福川 伸次     まず「世界の流れをどう読むか」だが、1つ目に世界秩序のシステム変化だ。19世紀はパックス・ブリタニカ、20世紀はパックス・アメリカーナといわれた。そしてこれからは、理想系としてはパックス・コンソルティスの時代だと私は考える。コンソルティスとはラテン語で、コンサート、協調の意味だ。しかし、現実にはいろいろな問題があって難しいだろう。
 2つ目は、世界のパワー構造の変化だ。米国の変化、欧州の欧州化、ロシアの力の回復、新興国の経済力と発言力の増大がある。
 3つ目は、国際経済の基礎構造の変容だ。グローバル化が進み、世界の景気の同時化、振幅の拡大化をもたらした。背景にはIT革命があり、ITを使った金融技術が世界経済を支配するようになった。かつアメリカの双子の赤字の上にそれが展開されたため、より振幅の激しい投機性の多い経済になった。これについては今、反省が起きており、新しい成長をどうするかが議論になっている。
 4つ目は、産業文明のパラダイム変化だ。地球環境の悪化、気候変動問題があり、これは産業革命以来の産業システム、生活スタイルが限界に来ていることを意味している。そして5つ目は、ICTの進化とその革新力である。現代の危機的な状況において、情報通信技術が非常に発達したことは、我々が新しい武器を手に入れたということでもある。
国際政治構造に関しては、まず核問題を含む安全保障問題の変貌が見える。オバマ大統領が言う「核のない世界」が議論になっているが、現実にこれが動くかどうかについては問題があるだろう。そしてもう1つの問題は、対立軸の多元化と複雑化だ。パックス・アメリカーナまでの時代は主として国対国の対立だったが、現在は対立軸が非常に変化し、民族、宗教の対立が課題になっている。パックス・コンソルティスの時代にはまた、国際機関の役割が重要になるが、これらが必ずしも十分な役割を果たし得ないことが懸念される。

2. 国際金融危機と世界同時不況、エネルギー供給制約と地球環境の悪化
 国際金融危機に関しては現在までのところ、国際協調で何とかつなぎとめてきた。危機が起きたことについては、「市場の失敗」、そして市場に対する対応を今後どうするかが議論になっている。中でも市場に対する政府の介入がどの程度行われるべきかが、1つの大きな課題だ。またこれまでは、「産業資本主義から金融資本主義」などといわれてきたが、今は人間資本主義というか、「人間性を重視しよう」という機運が世界の中で高まっているようだ。ある程度、経済的に繁栄してきたという前提に立つと、今後は文化的な価値観、安全、安心の価値観、時間の価値を重視する思想、教育、自分の資質を高めたいという価値観、こういったものが高まってくると思う。
 一方、国際通貨体制については、ドル体制は当面、続くだろうが、長い目で見ると終わりの始まりかもしれない。しかし、ドルに替わる体制をどのように造るかについては大議論になり、簡単にできるものではない。さらに資源エネルギーの供給限界についても、人類としてはそろそろ考えなければいけない。資源は無尽蔵という考え方は限界に来ており、地球温暖化問題のような議論も当然、出てくる。今後は大量生産、大量消費、大量廃棄という産業システムを改革し、生活スタイルを変えていかなければいけない。地球温暖化防止のための京都議定書は1997年に成立したが、これは思想的にはキャップをかぶせ、その限界削減費用が平準化できる形でトレードを行うというキャップ・アンド・トレードに基づいている。しかし、これが適切なメカニズムであるのかについては、さらに議論があって然るべきだろう。

3. ニュー・グローバル・オーダーの形成に向けて
 今の多極化、対立軸の複雑化の中で、どのようにニュー・グローバル・オーダーを造れるかは、人類の英知に依存している。EBC(欧州中央銀行)総裁を務めたジャック・アタリ氏は、「世界はソマリア化する」と言っていた。これは世界の構造が不確定になり、ソマリアのように混乱するという懸念で、その可能性は確かに否定できない。以前のように米国の一極集中のようなメカニズムはできないとなれば、今後は国際公共財の種類ごとにリードしていく仕組みがいくつかできるのではないかと思う。そしてそのためには、政府、国際企業、非政府組織(NGO)、シンクタンクの多層的なネットワークが重要になる。重要な国際公共財、例えば平和の維持や集団安全保障、軍縮、非核化、市場機能、自由貿易、資源の確保、環境保全などに関し、輪投げの輪がいくつか重なり合うようにして国際秩序ができていくのではないか。
 日本としては新しい成長モデルの確立、ICTを中心とするイノベーション、ポスト京都議定書の国際枠組み、エネルギー安全保障、資源、人材養成等々について考えていく必要がある。重要なことは、日本の力(ジャパナビリティ)をどう発揮するか、そして日本のガバナビリティをどうするかだ。こういうことが今の民主党政権の課題だ。民主党政権について懸念を感じることは、1つはマニフェスト原理主義、もう1つは政治家統治原理主義であることだ。しかし、これだけ高度化した世界や国内の状況を考えると、適度なプロフェッショナリズムと謙虚なポリティカル・イニシアティブの組み合わせが重要になると思う。現在の民主党政権には全体最適を考えるメカニズムが欠けており、そこが一番の問題点だと感じる。
 東アジア共同体に関する鳩山提案も、言葉ありきという気がする。私は東アジア共同体を考える思想的な基盤がどこにあるのかを、まず明確に議論すべきだと思う。また東アジアのGDPの70%を占めている日中韓でFTAを結ぶなどし、まずは協力関係を深化させていくべきだろう。今は「日本経済を立て直すには、アジアと協力すべきだ」といわれるが、日本はむしろ、アジアのために何ができるのかという発想を持たなければならない。アジアの人たちはやはり、戦争中のことを覚えている。したがって鳩山首相が「さあ、東アジア共同体だ」と押しつけていっては、むしろアジアの反発を買う恐れがなきにしもあらずだろう。私は謙虚さを大事にしていくべきだと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部