2009年度アジア特別講演会(1) 「インドから見た日印経済関係の現状と問題点」 ジャワハルラール・ネルー大学教授 プレム・モトワニ【2009/05/15】

講演日時:2009年5月15日、場所:(財)フォーリン・プレスセンター記者会見室

2009年度アジア特別講演会(1)
「インドから見た日印経済関係の現状と問題点」


ジャワハルラール・ネルー大学教授
プレム・モトワニ

プレム・モトワニ金融危機とインド経済
 独立後、開放政策が打ち出されるまで国家主導型経済の中にあったインドの企業は、今回の金融危機で史上初の不景気を経験している。当初、輸出依存度が低く、国有の金融機関が多いインドでは、経済への影響はあまりないといわれていたが、やはり徐々に影響が現れてきており、輸出入はここ6カ月連続で前年比が減少している。一番影響を受けているのは、アメリカを最大の相手国とするIT技術である。ただし、ITのプロジェクトはかなり前に決定されるため、実際の影響は今年度に現れるといわれている。自動車および自動車部品、不動産、インフラへの影響も大きい。約50万人がこの金融危機で職を失っており、特に契約労働は最大の課題である。
 しかし、明るい材料もある。インドは石油を輸入に依存しているので石油製品に補助金を出しているのだが、輸入減に伴って補助金も減っており、それをインフラの方に回している。総選挙が終わり、今月末に新政権が誕生すれば、いよいよ本格的な刺激策が打ち出されるはずだ。
 また、インドは農村市場が非常に元気で、特に通信(携帯電話)、二輪、不急消費財が好調である。金融危機の影響を受けるサラリーマンに比べて自営業者が非常に多く、このあたりがインドの内需型経済を支えている。そのため、この危機を早期脱出できるのではないかとの予測があり、今年度も5.5~6%のGDP成長率を達成できるといわれている。

開催風景日印経済関係の現状
 日本とインドは、今まで3回も経済関係が親密になるチャンスがあったにもかかわらず、それを逃してきた。独立直後には日本の研究者がインドに興味を持ち、ODA第1号もインド向けだったが、インドがロシアに、日本がアメリカに付いていたために接点は持たれなかった。次いで91年にインドが自由化政策を打ち出したときは、日本はちょうどバブルがはじけたころで、それほど親密にはならなかった。そして、2年前から日系企業が動きだしたところに金融危機が来て、また足止めになってしまった。しかし、私はこの3回目のチャンスを逃してほしくないと思っている。
 最近の調査では、インドは投資先として第2位、あるいは第1位といわれている。また、2000年に行われたインドでの世論調査によると、日本は国としてはアメリカに次いでよく知られており、政治、学問、貿易、メディアの面ではアメリカよりも上という結果が出ている。ある意味でインドが日本に期待している面が非常に大きいということだろう。
 最近は製造業における投資分野が多様化し、中小企業も関心を示し始めている。インドに進出済みの日系企業の80%は好調で、すべて拡張計画を持っている。
 それにもかかわらずなぜ日系企業がインド進出に不安感を持つのか、インド人としては分かりづらい面があるのだが、ポテンシャル性に比べて投資が非常に少ない。日本はインドに対する国別FDIで3位(91年~99年)から6位(2000年~2008年)に落ち、日本からのFDIは、91年~06年にかけて総FDIの6%しか占めていない。
 貿易もそれほど増えていないが、2010年までに200億米ドルにするという目標は、包括的経済連携協定が早期実現されれば期待できるだろう。日系企業の進出は、ここ5年で約2.3倍の550社に増えている。91年~08年にかけて871件の技術提携があり、これはアメリカ、ドイツに次いで第3位である。今年1月の「グジャラート・グローバル投資サミット」では8622件の覚書が交わされ、日本の企業も数多く参加した。向こう2~3年以内に中小企業が約100億ドルの投資をすると見られている。

日系企業がインドで直面する問題
 インフラの未整備や労働改革の遅れが問題点としてよくいわれるが、日本に対して特別にそういうハードルを作っているわけではない。インフラの未整備については、SEZ、工業団地の開発という解決策がある。労働改革の遅れも、うまく考えれば乗り越えられる程度のものである。むしろ日系企業にとって難しいのは、商慣習の違い、生活環境の厳しさ、文化上の相違から来る心理的な距離だろう。
 日本側のメリットとして、インド政府もインド国民も日本に対して非常に好意的であること、インドは民主国家・法治国家でカントリーリスクがほとんどないこと、内需型の巨大市場でありながら大部分が未開発であること、豊富で比較的安価な人材、食糧安保、リスク回避などが挙げられるが、一番のメリットは、日本の強みである製造業がインドは非常に遅れていることである。今、インドで製造業に投資する場合、100%子会社の設立が自動認可ルートで許可されている。インド側のメリットは、日本の優れた技術と資金力、日本が政治的な友好国であるということである。
 日印関係改善のためには、中長期戦略が必要である。また、中小企業は資金力やメンタル面でインド進出に当たってハードルがあるので、ODAやDMIC(デリー-ムンバイ間産業大動脈構想)のように政府がリードしていく形でやった方がいい。両国間の橋渡しとなる人材も育成すべきである。
 問題は両側にあるが、先入観を捨てて正確に事実を認識すると同時に、とにかくアクションを起こすべきである。日本は既に出遅れている面があり、ハードルがすべてなくなってからインドに進出するのでは遅い。とにかくアクションを起こして進出すれば、ハードルは徐々にクリアされていくだろう。
 日本側の問題点としては、(1)日本はまだ調査団を送り込む段階で意思決定が遅い、(2)肩書き尊重のインド人にとって日本企業は魅力が少ない、(3)西洋企業と違ってトータルソリューションが少ない、(4)インドを一つのものさしで測ろうとする、(5)インドの時代錯誤的な法律や目に見える壁に対する日本側の理解不足が挙げられる。しかし、これらのハードルは乗り越えられない性質のものではないと私は思っている。
インド側の問題は、(1)真の社会変化を遅延させるポピュリズム(人民懐柔策)、(2)中間管理職の高転職率、(3)工員レベルの人材が安くてもすぐに使えない、(4)PRが下手で誤った情報も否定しない点などだが、日本には日本の文化があるように、インドにはインドの文化があり、「明日からこうしなさい」と言われても変わらない。一つのものさしでものを見ずに、すべての問題点を裏返して、なぜそういうことがあるのかをまず調べた方がいい。社会的な背景を調べて、最初の目に見えるハードルさえ乗り越えれば、インドは非常に面白い国だと思う。
 日本は、経営、品質管理、効率アップといったソフトパワーにおいて非常に優れたものを持っており、それをどんどんインドに輸出すべきである。IT技術ではインドで3万人以上の外国人が活躍しているが、日本人は非常に少ないし、インドはインフラ開発で5000億ドルを必要としている。製薬の方では、第一三共がインドに進出し、武田製薬も進出を考えている。エンジニアリングも少し動きだしている。これらを有効的に使えば、日本はソフトパワーを輸出できると思う。インドの企業はまさにそれを望んでいる。
 インドにはまる日本人がいるが、そういう人たちはインドの裏の面を見いだしているのだと思う。また、お互いの文化・価値観を理解・尊敬すべきである。インドでは、宗教、家族、個人が重要であり、経済がまだ流動的なのでどんどん転職して個人の出世を優先するが、それはやむを得ないと思う。商慣習や食生活についても同様だ。
 それから、一個人や一企業の経験は必ずしも参考にならない。逆に、スズキやホンダのような先発メーカーが受けている恩恵を見て、それに学ぶべきである。そうすれば、インドは非常にポテンシャルが高い市場だということがすぐに分かる。全体的にインド人はフレンドリーで、勤勉で、温かくて、好奇心の固まりである。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部