2009年度アジア特別講演会(2) 「日系企業にとってインドでの課題-そして困難を乗り切るヒント」 ジャワハルラール・ネルー大学教授 プレム・モトワニ【2009/05/20】

講演日時:2009年5月20日、場所:関西経済連合会

2009年度アジア特別講演会(2)
「日系企業にとってインドでの課題-そして困難を乗り切るヒント」


ジャワハルラール・ネルー大学教授
プレム・モトワニ

主催:財団法人貿易研修センター
共催:近畿経済産業局、社団法人 関西経済連合会

プレム・モトワニ日印関係の現状
 インドへの直接海外投資を見ると、日本は以前3位だったが、現在はオランダに次いで6位となっている。日本からの直接海外投資は、ここ1、2年で下がっている。ただし今は新規投資がいろいろあり、今年度には上昇傾向に戻ると思う。貿易についても伸びてはいるが、予定どおりとはいえない。その一方で、現在、包括的経済連携協定(CEPA)の交渉が行われており、早期実現が期待できる。また日系企業のインドへの進出は、昨年12月末には550社で、拠点は838だった。これについても伸びてはいるが、十分とはいえない。そして日印経済関係でもう1つ重要なのは、技術提携だ。1991年から2008年にかけて、871件の技術提携があり、アメリカ、ドイツに次いで日本は3位だった。
 日系企業の代表的な分野では、今回の金融危機の影響がかなり見られる。日本はやはり自動車部品、二輪がメインなので、危機の影響を受けている。家電やITもそうだ。ただしインドの場合は内需型経済なので、案外、早く回復するのではないか。

日系企業がインドで直面する問題
 日系企業がインドで直面する問題の代表的なものは、インフラの未整備や労働改革の遅れ、猥雑な手続き、知的財産権、土地確保などだ。実は日印関係では、歴史的に少なくとも3回、関係を深める大きな機会があったが、うち2つは逃されてしまった。1つはインドの独立直後で、これは日本では終戦直後だ。1950年代初めにインドへの関心が非常に高まったが、基本的に日本はアメリカの傘下に、インドはソ連の傘下に入ったため、関係を深めることはできなかった。2回目のチャンスは1991年で、インドは経済自由化政策を打ち出した。しかし、当時の日本はバブルが崩壊した時期だったため、あまり投資はなされなかった。そしてここ1、2年、日印関係は大きく動き出していたのだが、今度は金融危機が起きてスローダウンしている。しかし私は、この3回目の機会を逃してほしくないと思っている。
 アメリカやヨーロッパ、韓国といった国々に比べ、日本企業は出遅れている。これは、日本企業のインドに対する見方にもよる。例えばインフラの未整備だが、現在インドでは経済特区が多数つくられており、そこへ行けば問題は解決する。労働改革の遅れについては、インドの政治はいわゆるポピュリズムで、政治家には選挙での勝利が最重要であり、大きな変化をもたらすことは簡単にできない。土地確保の問題では、インドは民主体制なので外国企業だけでなく、国内企業にとっても難しい。ただし労働改革が遅れているにもかかわらず、皆ビジネスをやっており、それをうまく乗り越えるやり方があるということだ。私はこれらの問題はどれもクリアできないものではなく、考え方次第だと思う。
 しかし他にも、難しいところはある。例えば商慣習の違い、生活環境の厳しさ、中間管理職の転職率が高いなどの問題があるが、これらは一国の文化に関わるものだ。文化上の相違は、簡単に解決できるものではない。しかしインド政府も国民も日本に対して非常に好意的で、この点では中国とかなり異なっている。
開催風景 今はインド政府の中に、ジャパン・セルが設けられており、日系企業は問題があれば、ここへ行くと対応してもらえる。またインドは民主主義国家で、カントリー・リスクがほとんどないと考えてよい。さらにインドには、豊富で比較的安価な人材がある。食料安保の点でも、日本の自給率は40%だがインドではほぼ100%だ。インドの農業や食品加工は非常に遅れており、日本は食品加工の優れた技術を持っている。これは中小企業レベルでも十分できるものだ。このほかリスク回避の点でも、同じところに投資するより、インドを含めることにはメリットがある。また今は円高ルピー安で、これもチャンスとして使うべきだ。

日印関係における課題
 日本ではあまり知られていないと思うが、インドでは今、日本的経営がブームだ。全く日本と関係のない企業も日本的経営を導入しており、それらは約300から400社に上る。効率アップやコストダウンの面から、非常にクローズアップされている。しかし、日本から行って指導できるレベルのコンサルタントは15人しかいない。15人で300社の指導はできないので、ブームが本当の意味で台無しにされつつある。日本は政府開発援助(ODA)を使って、日本のソフトパワーを十分海外へ輸出すべきではないか。インドは日本からの指導を求めているが、日本には十分伝わっていない。
 日本とインドはどちらも、文化的に独自性がある国だ。日本では「いわぬが花」だが、インド人には通用しない。またインドでは「飲みニケーション」も難しい。日本とインドでは、全く対照的な文化の側面がある。インド人は仕事より家族を優先し、これもよく問題になる。また日本では「出る杭は打たれる」というが、インドでは「独自性を出す人は使える」と考えられている。さらに日本人は他人思考といわれ、他人の目を気にするが、インド人は神の目だけを気にして他人のことは一切考えない。だから自己中心だと思われたりする。このように、日本とインドの文化は非常に対照的で、どちらも譲らなければ接点が持てない。
 そしてもう1つの問題は、日系企業は優秀な人材を引きつけていないということだ。インドの中間管理職は、肩書きを非常に重視する。これはいわゆる従来のカースト制度の影響で、既に法律上はなくなったが、意識上は根強く残っている。しかし日本企業では10年以上勤めなければ、肩書きがつかない。これは従来の日本的経営のやり方だが、アメリカの企業は異なる。しかし日系企業の失敗事例はあまりなく、やはり成功事例に学ぶべきだ。例えばスズキ自動車は、今のインド市場がなければ大変だっただろう。
 インドと日本の間には、情報不足の問題もあり、これについてはできるだけ具体的に情報の普及に努めるべきだ。インドは自己PRが非常に下手だ。このように私としては、日本とインドの双方の国に問題があると思う。お互いの社会文化的背景について、学ぶ心構えも必要だろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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