第32回 IISTアジア講演会 「ベトナムを中心とする CLMV諸国の経済動向について」ベトナム経済研究所 研究理事 星野 達哉【2009/06/24】

講演日時:2009年6月24日

第32回 IISTアジア講演会
「ベトナムを中心とする CLMV諸国の経済動向について」


ベトナム経済研究所 研究理事
星野 達哉

星野 達哉1.ドイモイ以降のベトナムと共産党政権
 ベトナムの歴史では、大きく分けると約10年毎に3つの重要な出来事がありました。1つは1986年のドイモイ、次が1995年の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟、そして2007年の世界貿易機関(WTO)加盟です。ドイモイ当時のベトナムは、絵に描いたような共産主義国家でした。 いわゆる付加価値を生むもの、収入があるものは、大きく分けて2つしかなく、1つは農業で、もう1つは国営企業での生産でした。しかし個人所有を認めない共産主義体制の下では、労働意欲はなく、生産性は上がらなかった。政府は色々な生活物資を各人に支給するので、財政赤字は膨大になった。その財政赤字を埋めたのが、コメコン(経済総合援助会議)による援助でしたが、ソ連と東欧でも次第に財政が逼迫し、それが出来なってきました。この頃周辺ASEAN各国では、日本がインドネシア、シンガポール、タイなどに投資をして、これらの国々の経済は大きく成長しつつありました。 ベトナムとこれらASEAN諸国との経済格差は大きくなり、ベトナム住民の不満が非常に高まったことから、ベトナム政府は「これではいけない」と考え、戦争に強くなるための重工業重視の経済から、人々の生活を豊かにするため農業、軽工業に力を入れる経済に政策転換しました。そして国営だけでなく、個人のビジネスも少し認めることも決定しました。これがドイモイ(刷新)です。
 ではドイモイ以降、ベトナム経済は大きく変わったかというと、貧困は続き変わりませんでした。しかしベトナムにとって幸いだったのは、1991年にソ連が崩壊したことです。ベトナムがそのときに気づいたのは、「やはり近隣国と仲良くならなければいけない」ということで、1995年にはASEANに加盟し、完全とまではいかないが、市場主義経済の中に入りました。そして、外資を積極的に呼び込むようになり、私企業も展開出来るような政策もとりました。このベトナムの変革で重要なことは、この20年弱の間、共産党一党支配の中央集権制という政治体制を全く変えずに、個人所有を否定した計画管理経済から個人所有を大幅に認める市場主義経済に転換したことです。

2.ベトナムの経済・社会状況、今後の経済見通し
(1) ベトナムは資源が非常に豊富で、農産物の米とコーヒー輸出は世界で第2位です。また石油が出ることも、大きなメリットです。さらに安くて優秀な労働者が多く、労働者の70%は30歳以下と非常に若い。今後、工業の発展が大いに期待されており、輸出加工製造産業、ソフトIT、そして二輪車、繊維縫製産業などですが、ベトナム工業発展の為、私が今後に期待しているのは、近代的な鉄鋼産業、石油化学産業の2つの基幹産業です。
開催風景(2) ベトナム人と付き合う際に少し注意していただきたいのは、ベトナム人は非常に体面や面子にこだわることです。又、ベトナムはまだ贈答社会で、これは賄賂にも関係してきます。賄賂は違法行為となるので日本企業は出来ないと言えば、ベトナム人は理解します。ベトナム人の心の底にはホーチミンの『清貧たるべし』と言う教えがあります。ベトナム人の賄賂に対する感覚は、日本人とは多少異なり、一般的に言われているのは、(a)金額が妥当である(b)もらった金を関係者と分け、独り占めしない(c)もらった金は生活費に充てる-という3つの条件を満たせば、賄賂性が非常に薄くなるということです。
(3) またベトナムでは百家争鳴で、議論が百出します。特に政府関連の事業を始めるときは議論がいろいろ出ますが、実行する事業体をどうするかなど重要事項の結論はなかなか出ません。また「誰が事業責任を負うのか」という点については、法律上、国家の政策策定が任務の政府では直接ビジネスを出来ないので、政府はその為に事業体を作らなくてはならず、これには相当時間がかかります。このような事業を共同でする際は、この辺を予め詰める必要があります。 ベトナムで事業をする時は、通常は、政府や共産党関係者を巻き込む必要は全く無く、(首相案件以外は)共通投資法に従って投資許可を取得し(約事業総額20億円以下では登録制)、100%独資か、又はベトナム企業と合弁でやる方法で、これが今のベトナムでのビジネスパターンです。
(3) ベトナムでは高度成長が続いており、中でも外資が大きな役割を果たしています。ベトナムの基本的な政策はこれまで不変で、共産党支配体制の維持と経済発展を基本にしています。国会が経済指標を決めていますが、これは日本の経済予測とは異なり、いわゆる企業でいう予算目標、実行予算で、実現が必須の数字です。昨年末、2009年の経済目標として、成長率を6.5%としましたが、世界同時不況で実現不可能となり、今国会でこれを5%にしました。輸出の増大率についても13%としたものを、3%にしました。またベトナムでは財政均衡が基本政策ですが、世界同時不況下で日本やアメリカ、中国が景気刺激策をとっているのでベトナムも景気振興の為、財政赤字を7%に決めました。これはベトナムではあまり例がないことです。
(4) 今後の展望としては、ASEAN先進国に負けないためにも、ベトナムは得意分野でアジアのモノ造りの基地、生産基地になることです。又ソフト事業の拠点になることです。又、懸案事項として、国営企業の改革や裾野産業の育成がありますが、これらは、現実的に考えて、ベトナム経済成長の現段階を踏まえて、出来ることから実行することだと思います。

3.ラオス・カンボジア・ミャンマーの経済状況
(1) 他のCLMV諸国についてですが、ラオスに関するポイントは国が小さい、人口が少ないことです。ラオスではまだ外国投資は少ないが、タイ、中国、ベトナムが中心です。これらの多くは水力発電に関するものです。また最近は金や銀など鉱物資源が出て、初めて貿易収支が黒字になりました。
 カンボジアの特徴は政治が安定していることで、10年間、平均9.3%/年の成長が続いています。人口が約1300万人で規模は小さいですが、観光、農業、繊維産業が重点分野です。特徴的なのは、国を挙げて外資を呼び込もうとしていることです。またカンボジアでは、規制が非常に少ないことも、1つの大きな特徴です。 次にミャンマーですが、個人的には非常に魅力ある市場だと思っています。人口はインドネシア、タイに次いで多く、国土はASEANではインドネシアに次ぎ、資源も豊富で未開発の資源が多くあります。残念ながら、軍事政権とアウン・サン・スー・チー派の権力争いが長く続き、これによって国が疲弊し、経済が矮小化しています。何らかの方法で互いに歩み寄り、ミャンマー国民の幸せは経済発展にあるということでやってほしいと思います。ミヤンマーは豊富な労働力や英語でのコミュニケーションができる点なども長所です。
(2) 西欧の金融危機、世界同時経済不況の中で、世界はどこにビジネス投資を求めるかというと、可能性ははっきりしており、中国、インド、ASEANです。そしてASEANの中で特に元気がよいのはベトナムやインドネシアです。従って、ベトナムや他のASEAN・CLMV諸国への投資は、今が1つのチャンスだと思います。このチャンスをどのように生かすかが、非常に重要です。私はベトナムの景気回復は意外に早く、今年末ごろから上向いてくるのではないかと思っています。日本企業の方々には是非、ベトナムやCLMV・ASEAN諸国を注視し、積極的に進出の検討をしていただきたく思います。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

詳細PDF


詳細PDFをご覧いただくにはIISTサポーターズ(無料)へ登録後に発行されるユーザ名、パスワードが必要です。またご登録後は講演会・シンポジウム開催のご案内をお送りさせていただきます。
ユーザ名、パスワードを忘れてしまった会員の方はこちらからご請求下さい。

Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。



担当:総務・企画調査広報部