平成21年度 第1回 国際情勢研究会 「国際金融危機と米中経済関係」 専修大学経済学部教授 大橋 英夫【2009/05/29】

日時:2009年5月29日、場所:(財)貿易研修センター

平成21年度 第1回 国際情勢研究会
「国際金融危機と米中経済関係」


専修大学経済学部教授
大橋 英夫

1.米中G2概念の登場と相互依存関係の深化
大橋 英夫 今般の金融危機では、中国の役割が注目されるようになった。そこで中国とアメリカの関係を絡め、国際金融危機の問題を考えたい。21世紀に入ってサブプライム・ローン問題が明らかになるまでの5~6年間を考えると、米国経済は中国の約5倍の規模であるが、中国はアメリカの5倍以上のペースで成長してきた。経済規模の増分を考えれば、アメリカも中国もあまり変わらなくなってきており、中国が世界経済に及ぼす影響は飛躍的に増大した。
 米中関係では最近、G2というコンセプトがよく話題にのぼる。これは「アメリカと中国で世界のことを決める」というニュアンスを持つ言葉で、昨年ぐらいから本格的にこういう議論が出てきた。これについては、もちろん慎重論、反対論もある。また中国にとっては心地よい響きのある言葉だが、中国の研究者からは「現実的ではない」という声も出ている。実体経済を見ても、アメリカにとって中国は重要になっており、カナダ、メキシコに次ぐ第3の輸出市場となっている。またIT製品をはじめとする工業製品の調達先という意味合いも大きい。米中間では貿易不均衡がみられるが、中国の対米輸出では米国企業の現地子会社や委託工場からの対米輸出が一定の比率を占め始めている。そして今般の国際金融危機で注目されるようになったのが、中国のアメリカ国債、政府機関債などの大量購入・保有であり、昨年9月に中国は日本を抜いて最大の米財務省証券(TB)保有国となった。

2.米中経済摩擦の争点
 80年代にアメリカは中国製品に対して反ダンピング課税や相殺関税などの措置をとったが、中国が有望市場となると、次第に中国市場をこじ開けようという戦略に変わっていった。その一方で、アメリカはまだ中国を市場経済と認めていないので、それに伴う差別がいろいろと発生している。中国がWTOに入るまでは「非市場経済」ということで、他の市場経済の国々との貿易関係とはやや異なる枠組みが、中国やかつてのココム(対共産圏輸出統制委員会)対象国に対して講じられていた。90年代にはアメリカは中国に対する最恵国待遇を更新しないと脅しをかけ、これを中国市場へのアクセス改善にも使った。中国がWTOに加盟した段階でアメリカは中国の最恵国待遇を恒久化したが、それでもまだ市場経済の国からの輸入品と非市場経済の国からの輸入品ではダンピングの認定方法が異なる。
 米中貿易摩擦に関する通商交渉はジュネーブでわりと事務的になされるようになったが、なかなか合意できないのは人民元の問題である。「人民元レートを切り上げるべき」というのと、「もう少し弾力性を持たせるべき」というのがアメリカの中国に対する主張である。 

3.国際金融危機への対応と米中経済協調の行方
 中国の景気対策は昨年秋から本格化しているが、元々中国経済は2006~07年にかなり過熱気味のところでブレーキを踏み出していた。しかしその後、金融危機が発生し、中国は経済政策を180度転換し、「積極的な財政政策」、「適度に緩和的な金融政策」を打ち出した。9月15日にリーマン・ショックが判明すると、翌16日には金利を引き下げている。そして11月初めには、4兆元の景気対策を打ち出した。これは11月15日のG20ワシントン・サミットの直前であっただけに、きわめて効果的であった。また今年に入り、金融緩和も非常に進み、今年1~4月の銀行融資増加額は昨年通年の5兆元規模を超えた。インフレや景気の過熱を懸念する声も上がっているが、世界各国が財政難に陥り、これといった対策が打ちにくい中、中国は非常に積極的に対応していると国際的に高く評価されている。
 アメリカも2月に、7870億ドル規模の景気対策法案を通過させた。その後4月初めのG20のロンドン・サミットまで、積極的な財政出動に関して米中が接近し、財政出動に関しては米中共同戦線が一時的に張られるような状況になった。そして中国は、このG20ロンドン・サミットで大きな成果を残した。「GDPの2%の財政出動」という文言はコミュニケに残らなかったが、「財政拡大は2010年末までに5兆ドル、生産を4%引き上げる」という文言がコミュニケに盛り込まれた。これを誰が実施するのかに関して、コミュニケでは「主語」が明記されていないが、中国の役割が大きいことは容易に想像できる。
 G2の議論に関しては、超長期的に見れば中国の覇権の時代が始まるさきがけなのかもしれない。米中間にはいろいろな問題が存在し、外交や安全保障に関しては多層的な利益が交錯するが、経済面ではかなり摩擦の芽が摘み取られつつあるような気がする。今回の国際金融危機により、グローバル・インバランスが是正方向に行くことは間違いない。とはいえ、中国が大量保有しているアメリカの国債や政府機関債がある。アメリカでは景気浮揚策や金融機関のコンフィデンスを回復させるために、大量の公的資金が必要になることは間違いなく、国債を増発せざるをえないだろう。それでは、誰がそれを引き受けるのか。この点でも、中国に対する期待はきわめて大きい。
 それでは、G2は米中両国の2国間関係だけの議論かというと、実はそうではない。中国も今回の通貨危機とその対応の過程で、「責任あるステークホルダー」としての自覚がようやく出てきた。具体的にはIMF改革やWTOのドーハ・ラウンド、そして気候変動でも、米中両国が動かなければどうしようもない。エネルギー・資源、途上国の貧困削減なども同様である。ただし、G2はG7のような政策協調の主体ではない。ただ、冷戦後の米国一極経済から次の過程への移行段階において、ある意味で象徴的な概念にはなりうるだろう。
 さまざまな多国間レジームにおいて、今後は米中両国が合意しないことには動かない可能性が高まってこよう。アメリカではいろいろなG2議論があるが、まずこういった多国間レジームでG2が認識され、その後にそれが実態を伴うようなものになるか否かがポイントである。そのために中国は、もちろん「世界標準」的なシステムに移行していかなくてはならない。それにどのくらいの時間を要するかはわからないが、その間にさまざまな多国間レジームにおいてG2はきわめて重要な存在になってくるであろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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