平成21年度 第5回 国際情勢研究会 「中国の政治と外交をめぐる最近の動向-経済の強靭性と脆弱性を背景として-」 東京大学大学院 法学政治学研究科教授 高原 明生【2009/11/20】

日時:2009年11月20日、場所:(財)貿易研修センター

平成21年度 第5回 国際情勢研究会
「中国の政治と外交をめぐる最近の動向-経済の強靭性と脆弱性を背景として-」


東京大学大学院 法学政治学研究科教授
高原 明生

1. 習近平の中央軍事委員会副主席就任見送り、新味のない「重大な決定」
高原 明生 中国では毎年秋に、中央委員会総会が開かれるのが慣例になっている。今年は第17期中央委員会の第4会総会が、9月に開かれた。ここでは2つの点が注目され、1つは人事があるのかないのか、もう1つは何がその他の政策方針として決定されるのかということだった。人事については、国家副主席で次期総書記と目される習近平氏が、中央軍事委員会という党の一番上の軍組織で副主席に就任するかに注目が集まった。ところが結果は、就任見送りだった。理由についてはいくつか説があるが、一番有力なのは胡錦涛氏がレイム・ダック化するのを避けたという説だ。また今回、習近平氏が副主席に就任しなかったからといって、後継者をめぐる今後のレース展開に変更があったとは、私は見ていない。
 2番目のポイントは決まった政策方針の内容だが、さほど新味はなかった。中国では汚職腐敗が猖獗(しょうけつ)を極めていると言っても言い過ぎでない状況で、当初は規律に関する問題が盛り込まれると予測されていた。しかしこれについては全く触れていない訳ではないものの、具体的な内容がなかった。最も穏当な解釈は、反対が多く、詰められなかったということだろう。
 建国60周年記念式典の直前に私は何日か北京に滞在したが、報道されている通りの厳戒態勢だった。また本来であれば大多数の国民によってお祝いされて然るべき式典だが、現状に対する強い不満を持っている人も少なくない状況だった。式典を派手に行ったことの目的はやはり国威発揚で、国をまとめる、国民の気持ちをまとめるためだったと言ってよいだろう。そしてもう1つ注目されたのは、天安門の上に現れた指導者たちの様子で、クレムリノロジーが相変わらず続いていた。何と言っても目立ったのは江沢民氏で、テレビカメラは何度も胡錦涛氏と江沢民氏のツーショットを映していた。これを巡っては、「胡錦涛氏の相対的な権威と権力が今、下がっているためだ」という解釈がされている。

2. 政治対立の現状
 今の政治対立の軸がどうなっているかというと、1つは全体的な状況として、非常に大雑把に言って、左があって真ん中があり、右があると言えるのではないか。左というのは新左派で、この人たちは改革や解放に批判的だ。世界的にはグローバリゼーション批判、新自由主義批判に通じる考え方を持つ人たちで、昨今は経済の矛盾、成長のひずみが目立つため、この人たちの勢いがよい。有名な政治家はあまりいないが、地方の副書記レベルではこういう人たちがおり、この人たちは打倒されていない。一方、右派は逆の立場で「もっと改革しなければだめだ」という人たちだ。特に政治改革の遅れに、強い不満と批判を抱いている。
 そして昨年から起きているのが、普遍的価値論争だ。これは「自由や人権、そういった価値は普遍的価値で、中国でも時間がかかるかもしれないが、やがて実現していかなければいけない」という立場と、「普遍的価値など存在しない。それは西洋的価値に過ぎない」という逆の立場の批判による論争だ。これについては実は、もっぱらの噂で温家宝氏批判だといわれる。温家宝氏は2007年に出した論文に、普遍的価値という言葉は使っていないが、「人類に共通の価値」という言い方で同様の趣旨のことを書いた。ただ普遍的価値という言葉は、実は胡錦涛氏も使ったことがある。胡錦涛氏は昨年5月に来日した際、新しい日中共同声明に署名し、声明には「日中が協力して普遍的価値の実現を目指す」という節があった。
 中国では右派はあまり影響力を持たず、新左派の方が元気だ。しかし新左派は批判するばかりで建設的な意見がなく、社会をひっくり返すようなインパクトはどちらも持ちそうにない。そういう状況で最近は、「中国においても自由と理性を実現しなくてはならない」などと大胆な発言をする財界人も出てきており、注目される。また左派と右派に挟まれているのは主流派で、これは胡錦涛氏に連なる共産主義青年団で要職を占めた人たちのグループ、太子党グループ、江沢民系-という3つの大きなグループに分けられる。

3. 南南協力、オバマ訪中、近隣外交
 中国の外交は主に4つに分けられ、それらは途上国外交、大国間外交、近隣外交、多国間外交だ。途上国相手の外交は、中国外交の歴史において非常に重要な役割を果たしてきた。2000年には中国アフリカ協力フォーラムが発足し、3年ごとに開かれている。アフリカをはじめとする途上国の多くは先進工業国の内政干渉を嫌うので、中国は連携を呼びかけてきた。またもう1つ、中国がアフリカに求めているのは資源や市場だ。しかしアフリカ諸国との間には、通商摩擦や中国移民の増大による摩擦もあり、必ずしも関係がうまく行っていない。
 大国間外交では、今回のアジア訪問でオバマ米大統領は、シンガポールのアジア太平洋経済協力(APEC)に出席、そこで初めて東南アジア諸国との首脳会議に参加した。なぜ東南アジアを重視するのかについては、インドネシアなどイスラム国との関係強化ということもあるが、それ以上に中国の東南アジア進出をけん制するという意味合いがあるように私には思える。またアメリカは中国がグローバル・パートナーとして、協調しながらグローバル・イッシューに取り組んでくれるかというところに関心がある。しかし中国側は、グローバル・パートナーにされることには警戒している。
 一方、日本が最近、東アジア共同体などと言い出したため、中国はどう対応すればよいのか当惑している。これについては「日本と協力してやろう」、「このようなものはいらない」という2つの反応がある。また中国にとっては近年、東アジアというコンセプトはあまり大事でないという見方もある。日本の鳩山内閣について中国は、基本的には歓迎している。歴史についても態度が明瞭で、アジア重視と言い、アメリカにはいろいろ意地悪をしているように見える。ただ、これからどうなるかについては、まだわからない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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