平成29年度 第3回 アジア研究会 テーマ『アジア新興国経済の動向』 報告 ASEAN自動車部品戦略 株式会社デンソーインターナショナルアジア(タイランド)COO&上級副社長 株式会社デンソーインターナショナルアジア(シンガポール)社長 末松 正夫(すえまつ まさお)【2017/11/20】

日時:2017年11月20日

テーマ『アジア新興国経済の動向』

平成29年度 第3回 アジア研究会
報告 / ASEAN自動車部品戦略略


株式会社デンソーインターナショナルアジア(タイランド)COO&上級副社長
株式会社デンソーインターナショナルアジア(シンガポール)社長
末松 正夫 (すえまつ まさお)

1. デンソーのアジア事業
 デンソーインターナショナルアジア・タイランドはデンソーの地域本社で、インドも含めたASEANを統括している。また、シンガポールでは一部の財務や物流などを担当している。今日はアジア進出の歴史を少し振り返りながら、カンボジアに出たときの手応えと、フィリピンについてお話ししようと思う。
 デンソーは愛知県刈谷市にあり、トヨタの電装部から独立した会社だ。トヨタグループに属しし、世界中のカーメーカーに製品を納めている。現在、38か国でオペレーションしており、従業員数は約15万人だ。日本では一番大きな部品会社で、世界ではロバート・ボッシュやコンチネンタルと競い合っている。
 ASEAN10カ国の中には24の拠点を持ち、アジア全体には32の拠点がある。従業員は約3万6千名おり、そのうちASEANに約3万名いる。その中でもタイが一番多く、約1万名だ。特徴としては、バルキーな製品は「各国生産」、小型・高機能製品は「集中生産」という戦略をとっている。ASEANの域内関税ゼロをいち早く取り入れて、このような生産フォーメーションを我々は作った。いわゆるカーエアコン(HVAC)などの大きい物は各国で作り、高機能なコンプレッサーなど、生産技術が必要な小さい物は得意な所で集中生産している。
 我々が最初に車の部品でタイに出たのが1972年だ。当時は産業を育成するために国産化規制があり、完成車の輸入が禁止されていた。その後、輸入できるようになったが、関税が非常に高く、カーメーカーは価格が2倍、3倍でも買わざるを得なかった。このときの我々の利益率は非常に高く、各国対応、多品目生産という対応をした。そして、93年に域内の関税をゼロにしようというAFTAが出てきて、自動車産業が大きく変わる。97年の通貨危機のとき、ASEANは少し下がったが、その後、すごい回復をみせた。
 2010年はASEANにとって画期的な年だった。ASEAN6といわれる先進国では域内の関税がゼロになり、CLMVも2015年にかけてだんだんゼロになった。また、ASEAN6の先進国と中国、韓国間の関税もゼロになった。やはり日本は中国や韓国に比べて、出遅れていた感じがする。ASEANがインドと開始したのが2010年1月で、先進6カ国との間は2016年、フィリピンとCLMVは2018年になる。ニュージーランドとオーストラリアは2010年で、これがRCEPになってくる。日本はTPPで期待されており、我々もTPPやRCEPもある日本は有利かと思っていたが、アメリカがTPPから外れてしまった。
 ASEAN域内の関税自由化に伴い、我々は集中生産という戦略でASEANの相互補完体制を構築してきた。そして、地域をまたいだ最安値調達を行っている。しかし、インドなどは生産拠点を構えるところまではきておらず、コストが安い仕入れ先を中国やインドに探しに行っている。
 2015年末にはAECができ、域外と人・モノ・投資・サービス移動がより自由化されるRCEPへの期待も高まっている。我々はRCEPができる前から、関税がゼロになる中でのオペレーションを考え、RCEPのエリアを「大アジア」と呼んでいた。この地域は人口・車両販売が世界の半分を占め、車にとって重要である。ASEANでのメコン地域、カンボジアやミャンマーの発展、さらに大アジア経済圏の確立という仮説を立てると、いよいよ最適生産体制が大アジアで確立すると思う。
 RCEPは日本の経済産業省の高いレベルで交渉し、主導権を握ってほしいと思う。実は一皮剥いてみると、ASEANでは80%が日系車で、ほとんど日本企業が采配している。もしRCEPがレベルの低いところで交渉してしまうと、日本の活躍する場がRCEPでは無くなる。そのような意味でもTPPが11カ国でできたのは、いいことだと思う。また、最近は電動化が進んでいて、特に日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国は電動化にシフトしている。そうなると、ガソリンやディーゼル車が残ってしまう。世界で電動化が進むのであれば、一番遅れているASEAN連合が残った部分を受けたらどうかと思う。

2. カンボジア事業
 デンソーのカンボジア進出の背景には、まず地域事業におけるタイへの依存が大きくなったことがあった。タイには1万人の従業員がいて、様々な物を生産していたが、インセンティブが出なくなった。また、ASEANの中で少子高齢化が最も進んでいるほか、生産資源も盤石ではない。地域全体の工場面積も不足しており、別の所を探さなければならなくなった。そこで、タイで生産技術が上がらない、ある程度、利益率も安定するようになった成熟製品を計画的に移管し、将来成長余力を担保することにした。つまり将来リスクへの備え、さらなる生産供給体制の強化に向けて、メコン域の戦略的活用を検討したのだ。
 初めに我々はカンボジア、ミャンマー、ラオス、バングラデシュの4カ国の状況を確認した。人口、GDP、労働面、最低賃金の差があっても、メコンは陸続きで将来的にはどこも同じようになると思った。カンボジアへの進出を決定したのは、国民性なども加味し、総合的にインフラが整備されていたことと、政府のワンストップサービスも充実していたことが理由である。
 カンボジア事業の立ち上げ後を振り返ると、タイ人指導の下、人材は未経験者でも短期間で高品質/高生産性を実現できた。移管は計画通りに完了し、組織としてタイ人とカンボジア人で十分に運営できる。40年以上の歴史があるタイとKPIをしても、品質のレベルにほとんど差がなく、カンボジア人のポテンシャルの高さや、人材の質は十分あることが分かった。また、タイ人の自信にも繋がることで、一石二鳥なのだ。タイにいる企業が、タイプラスワンでカンボジアに行くのは問題ないと我々は思う。
 インフラ面でもミャンマーと比べると停電はあまりなく、供給力の不安はない。物流面ではやらなければいけないことがたくさんあると思うが、JICAが支援している。実際に我々は垂直立ち上げで、タイが持っているものをいきなりカンボジアで作ってみたが、二直も含めて生産分担が可能だった。リスク・環境については、洪水や地震などの天災はない。労働争議はあるものの、経済特区・政府の連携により被害がおよばない。賃金については政府が中に入ってくるため、比較的安心してできる。いいことばかりではないが、実際にオペレーションをして感じたことをベースに今後も強化していきたい。

3. フィリピンの特徴と活用
 フィリピンはアジアの中心に位置しており、地理的に優位である。人口も1億人以上と豊富で、2050年まで理想的な形の人口ピラミッドを保つといわれている。また、ASEANの中でも特にマニラは賃金が低く、あまり上がらない。それに加え、もう1つ重要なことはペソ安だ。ここ20年を調べてみると、安定してペソ安である。ドルベースでこの上がらない金額は何を意味するかというと、すごい競争力である。なぜ我々は今までこれに気付かなかったのかと思う。つまり、ペソ安が賃金上昇を抑え、低い水準をキープしている。
 さらに、フィリピンはASEAN最大の英語圏で、国民の7割が英語を話す。英語人口は世界3位で、発音もきれいだ。実はフィリピン英語はビジネス英語がモデルで、言い回しなども世界に通用する。今は1000万人が海外に出稼ぎとして就労し、BPOとしても有名だということも踏まえると、フィリピンはすごく使える。やはり海外文化に溶け込めるような人たちを使うべきだと思う。しかし、インフラを総合で見ると、ベトナムより若干いいぐらいだ。また、日本に比べると離職率は高い。その反面、採用しやすいというメリットもある。
 我々はフィリピンの活用の仕方について、3つ考えた。まずはフィリピン生産の新規開拓・拡充である。国として車は多くなっていくと思われ、フィリピンでの生産はそろそろ考えたほうがいい。そして、ASEANの中で、フィリピンをASEAN電子製品の集中生産として活用できる。また、グローバル視点で考えると、生産を集約し加工の多い電子関連製品などのグローバル輸出拠点にする。それから人をグローバルのリソース供給源としても使う。フィリピンは人においても産業においても、隠れたいい国なのである。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部