第160回 中央ユーラシア調査会 報告/ 「ウズベキスタンの経済概況と我が国との経済関係の拡大」全国石油商業組合連合会 専務理事 前駐ウズベキスタン特命全権大使 加藤 文彦(かとう ふみひこ)【2017/04/21】

日時:2017年4月21日

第160回 中央ユーラシア調査会
報告 「ウズベキスタンの経済概況と我が国との経済関係の拡大」


全国石油商業組合連合会 専務理事
前駐ウズベキスタン特命全権大使
加藤 文彦 (かとう ふみひこ)

1. ウズベキスタンの概要
 ウズベキスタンの人口は、中央アジア5ヵ国で最大の3100万人だ。30歳以下の若者が過半数を占めており、面積は日本の1.2倍だ。昔からシルクロードのオアシスといわれ、緑が豊かで旧ソ連時代は綿花の生産地だった。現在は、多くの野菜や果物が作られている。ガス、金、ウラン等の地下資源が豊富で、全体でどれだけの地下資源が眠っているかについては、ウズベキスタン政府も把握していない状況だ。3、4年前からは中国に向けてガス・パイプラインを敷設し、輸出している。
 政治、治安については、安定しているといえる。昨年9月に亡くなったカリモフ初代大統領の下、25年間にわたって安定した政治、治安が保たれてきた。逆に言えば、治安、秩序を最優先にして国づくりをしてきたこともあり、経済の自由化はなかなか進んでいない。民間経済は発展しておらず、一人当たりGDP(国内総生産)は2100ドル程度と低い。首都・タシケントを見ると、経済的に豊かなようにも感じるが、地方では今なお、物々交換や「バザール経済」のような状況が続く。
 国民性では個人差はあるが、概して教育熱心で、温厚、真面目、親切な人が多いと思う。「マハッラ」という共同体が全国にあり、結婚式や葬式、冠婚葬祭のほか、低所得者に対する国からの補助金もそのルートで支給される。さらに失業者手当もマハッラの長老ルートで支給されるなど、マハッラには行政の末端組織としての機能もある。このようなこともあるからか、ウズベキスタンでは貧民街や町をうろつく失業者はほとんど見られないようだ。また、イスラム教の国だが、宗教は個人の判断となっている。ロシア帝国やソ連を通じたロシア人による支配が140年ぐらい続いたため、ウォッカを飲むのは当たり前でイスラム教を厳格に守っているという印象はあまり受けない。
 ウズベキスタンには戦後、抑留者として2万5000人の日本人がシベリアから移された。それらの日本人が働いて建設された「ナボイ劇場」は特に有名で、1966年に発生した地震でも倒壊しなかった。このような例もあり、ウズベキスタンの人々は親日的で、日本人の勤勉さや技術は高く評価されている。若者の日本語学習熱は高く、日本企業が持つ技術への強い憧れも感じられる。

2. 急速に進出している中国と韓国
 ウズベキスタン政府はデータ、統計類はほとんど公表しないが、2015年について国際通貨基金(IMF)の資料などを基に推計すると、GDPは660億ドル程度で、小さな国だ。経済成長率は6.8%で物価上昇率は9.8%、貿易は輸出・輸入とも年120~130億ドル程度となっている。輸出品で最も多いのはガス(50億ドル)で、全体の40数%を占める。サービス(20億ドル)、農産品(15億ドル)や綿花(9億ドル)が、これに続く。輸入品では、約半分を機械設備が占める。対外債務は約90億ドルで、外貨準備は約160億ドルとみられている。
 最大の輸出品のガスについても政府は統計データを公表していないが、イギリスのBPの見積もりによれば、1.1兆m³程度で世界有数の埋蔵量があるとみられる。生産は550~600億m³、内需が400~450億m³で、残った部分を輸出している。輸出はパイプラインで行い、輸出先は中国とロシアだ。近年は特に中国への輸出が増えており、今後もこれを拡大して外貨を獲得しようとしている。ガスの生産は外国企業とプロダクト・シェアリング・アグリーメント(PSA)を結び、進めている。その相手は現在、ロシアのルークオイルと中国石油天然ガス集団(CNPC)がほとんどだ。
 一方、ビジネス環境では、まず為替交換や外貨送金が不自由で、ローカル通貨「スム」のドルとの為替レートは二重、三重になっている。現在の公定レートは1ドル=3500スムだが、ブラック・マーケットでは1ドル=7000スムだ。例えば、企業が外国から何かの部品を輸入するため、手持ちのスムをドルに変える場合、銀行ではなかなか交換できないが、ブラック・マーケットならすぐ交換できる。このような二重為替が残る国は世界にも少なく、これはビジネスの最大のネックになっている。また、クレジットという概念はほとんど通用せず、クレジットカードはホテル以外ではほとんど使われていない。
 旧ソ連から独立した国々の中で、旧ソ連時代の経済体制が最も残っているのはウズベキスタンだと思う。例えば、1産業1企業となっており、ウズベキスタンを走る自動車は、95%ぐらいがGMのものだ。バス、トラックでは、いすゞがサマルカンドに工場を持っており、「これがあれば十分」ということで、バス、トラックにも多額の輸入関税をかけ、他が入ってこられないようにしている。大部分の産業分野で国営企業が残っており、民間企業が育っているのは小売サービスやホテルのような一部の分野だけだ。GMやいすゞのような企業の進出でも、ウズベキスタンの自動車公団のようなところとの合弁しか認められず、基本的に大半の株は自動車公団が保有する。
 さらに、非常に面倒な許認可が多く、何かを輸入する場合にも税関で止められ、3ヵ月や半年もモノが入ってこないこともある。このほか、例えば合弁企業が営業を始めると、税務署や衛生関係の役所の立ち入り調査が頻繁に入る。これには賄賂も絡んでおり、要求に従わなければ突然、営業停止になることも少なくない。国営企業が多いということは国家公務員が多いということだが、これらを養っていくための税金が十分でなく、給料が安い。このため、あらゆる分野で賄賂が日常化している。
 このような状況でも、中国と韓国は大変な勢いで貿易や企業進出を拡大し、多くの人がウズベキスタンに入っている。ウズベキスタンと中国や韓国の間では、大統領レベルの往来が毎年のように行われている。そのようなハイレベルの会合で、為替交換や外貨送金の不自由さが取り上げられるのは困るということで、会合の直前には、日ごろは困難な外貨交換がすぐ行われるようだ。私自身も、日本の安倍晋三首相がウズベキスタンを訪問した直前に、同様の経験をした。
 ウズベキスタンは中央集権的な国なので、五ヵ年計画や経済開発計画を作るのが好きだ。新しく大統領に就任したミルジョーエフも今年2月、新しい五ヵ年計画を大統領令で発表した。内容を見ると、以前のものとあまり変わらない。経済発展や自由化の方向性は示されているものの、具体的な話はほとんど出ていない。通貨に関して少し進んだと思われるのは、外貨の持ち出しで、個人が空港から持って出る額の上限が従来の200ドルから1万ドルに拡大された。また、外国人のホテルでの支払いはすべて外貨になったが、これはブラック・マーケットで外貨を倍のスムに交換して払えなくなったということなので改悪だ。このほか、日本を含む50ヵ国の人はビザなしで30日間入国できることになったが、その実施は延期されている。一方、経済開発計画で打ち出された様々なプロジェクトは、ほとんど実行されていない。特に大きなプロジェクトについては、ファイナンスが戻ってくる案件だけが進んでおり、具体的には日本の無償、特に国際協力機構(JICA)の円借款や国際協力銀行(JBIC)の融資などだ。

3. 日本との関係
 経済関係を進めるに当たり、そのベースとして要人の往来が非常に重要だと感じている。日本からは2014年5月に、麻生太郎財務大臣がウズベキスタンを訪問した。麻生大臣は、日本ウズベキスタン議員連盟の会長を10数年続けている方だ。そして同年8月、当時の茂木敏充経済産業大臣も20数社の企業の方々を連れて現地を訪問した。それら大臣レベルの訪問を踏まえ、2015年10月には安倍首相夫妻や政府各省の事務次官級の方々、日本貿易振興機構(JETRO)、JBICなど政府関係機関のトップ・レベルの方々が訪れた。その際、38企業の企業関係者も加わり、このうち27人が社長や会長というトップ・レベルだった。さらに安倍首相の訪問後も、様々な政府関係者がフォローアップで現地を訪れている。このほか、首相の訪問直前には日本旅行業協会(JATA)やJTB、阪急の方々がウズベキスタンを訪問し、その後に首相が覚書を結んだことで、特別チャーター便が動くことになった。さらに、文部科学省や大学関係者による交流なども進められている。
 日本とウズベキスタンの経済関係では、円借款でJICAが大変な貢献をしている。ナボイ発電所Ⅱの近代化(約350億円)や電力セクター・プロジェクト・ローン(JUPITER、約870億円)に多くの円借款を投じている。中国や韓国が急速に進出する中、日本がどのように入っていけるかと考えた場合、やはり中国と韓国にはない技術を使っていくべきだと思う。中でも、電力分野はウズベキスタン政府の経済開発計画でも最重要分野となっている。ナボイ発電所Ⅱは三菱商事と三菱、日立による三菱日立パワーシステムズ(MHPS)グループが落札し、さらに700億円以上のプロジェクトであるトゥラクルガン発電所でも三菱商事・MHPSグループが落札するなど、日本企業が入る機会ができている。また、日本からの輸出案件ではNECとオガワ精機等が組み、地上デジタルTVプロジェクトの契約を締結したのが1つの大きな案件だ。
 昨年9月にカリモフ前大統領が亡くなり、ウズベキスタンの体制はかなり変化している。他方で、ウズベキスタンは様々な経済関係を進める際にも、相手を選ばなければ物事が進まない国だ。新たな大臣の中で注目すべきなのは、まず財務大臣のホジャーエフで日本との関係がよくわかっている。今後はこの人が、日本とのパイプになるかもしれない。また、労働大臣のアブドゥハキーモフは42歳で、大臣の中では圧倒的に若く、大変有能な人だ。2000年前後に2年間、一橋大学に留学した経験があり、日本語が話せて日本のことをよくわかっている。今後も人事は変化していくはずで、日本としてはそれらを見ながら、様々な案件を進めていく必要がある。実際、様々な円借款やJBICによる融資の案件が、現在はあまり順調に進んでおらず、ペースが緩やかになっている状況だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部