平成29年度 第2回 国際情勢研究会 報告/ 「北朝鮮情勢を巡る北東アジアの安全保障」 南山大学 総合政策学部 教授 平岩 俊司(ひらいわ しゅんじ)【2017/07/10】

講演日時:2017年7月10日

平成29年度 第2回 国際情勢研究会
報告/ 「北朝鮮情勢を巡る北東アジアの安全保障」


南山大学 総合政策学部 教授
平岩 俊司 (ひらいわ しゅんじ)

1. 核ミサイル問題の行方—ICBM発射実験
 北朝鮮は7月4日、いわゆる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験を行った。ICBMについて米国は、明確に「レッドライン」とは言っていない。しかし、3~4月以降の緊張の中で一般的に、このICBMと6回目の核実験の2つが「レッドラインかどうか」といわれてきた。今回、北朝鮮は早々に「ICBMだ」と宣言し、米国とのゲームで先手を打ち、全体のトレンドを作ろうとしているようだ。
 そもそも北朝鮮がなぜここまで核ミサイルにこだわるのかだが、一応、ロジック上の問題で、1990年にはソ連と韓国が、1992年には中国と韓国が国交を正常化した。彼らの冷戦期の認識は、韓国には米国が核の傘を提供し、北朝鮮にはソ連や中国が提供してくれるというもので、一定程度、米国の核の脅威を相殺できていた。しかし、ソ韓、中韓の国交正常化によって、本当に核の傘を提供してもらえるのかわからなくなり、自ら核を持たなければならないということになった。その後は紆余曲折を経て、冷戦の終焉から非常に時間がかかったが、昨年1月に4回目の核実験を行った。その辺りから非常にスピードアップし、核ミサイルの能力を上げてきたと思う。
 それを受けて、5月には36年ぶりの党大会を開催し、以前からあった核と経済の「並進路線」が彼らの基本姿勢となった。さらに9月には5回目の核実験を実施し、昨年は2回行った。最終的には、核弾頭の小型化、軽量化、多種化を実現したと彼らは言う。そして今年1月の「新年の辞」辺りから、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は「ICBMの実験準備は、最終段階に入った」と主張している。その後も何度か「ICBMの実験が近い」とアナウンスしながら、ついに7月4日に行ったということだ。これを受け、国際社会、とりわけG20や中ロ首脳会談などで、日本や米国、中国、ロシアの立場や姿勢の違いが浮き彫りになっている。その中で韓国が微妙な立場にあるというのが、現在の状況かと思う。
 北朝鮮は7月4日に実験が行われたICBMと称するものを、「火星14」と呼んでいる。飛翔時間は39分で飛行距離は約933キロ、高度は2802キロと発表している。5月14日には、中国にとって重要な「一帯一路フォーラム」の初日に合わせてミサイル発射実験を行った。この時は飛翔時間が30分で、高度2000キロということだった。一方、「火星12」というのも新型のミサイルで、今年4月に軍事パレードを行った際、登場した。これについて北朝鮮は、中長距離ミサイルだとし、飛行距離は5000キロとされている。ICBMの定義は「5500キロ以上」ということで、今回のものが5500キロを超えることはほぼ間違いなく、米国は当初、「中距離ミサイル」と言っていたのを訂正し、「ICBMである」とした。北朝鮮側は、今回のICBM実験を最終関門と位置づけており、「米国に対する核ミサイルの能力を得た」と主張している。

 先日のG20では、日本などが主導して「北朝鮮に対する圧力を強化しよう」、とりわけ「国連決議をしっかり実施し、北朝鮮に対するメッセージを送らなければいけない」といわれると考えられたため、それに対する自らの核ミサイルへの明確な意思表示を事前に見せた。また、米中の北朝鮮に対する姿勢にズレが見え始めていたので、ミサイルを発射すればズレを拡大できるのではないかということもあった。実際、北朝鮮のICBM発射直後に中国はロシアと首脳会談を行い、「北朝鮮の懸念も理解できる」、「米韓合同軍事演習を中止すべき」という、これまでより踏み込んだ形で米国に自制を要請した。なおかつ、無条件の対話を開始すべきというのが中国の主張となる。国連決議とは逆方向に動いていたロシアも含め、北朝鮮が対立構造を助長することまでを狙っていたかどうかはわからないが、結果としてそうなっている。
 同時に、北朝鮮に対してかなりアプローチしていた韓国側の姿勢を確認する意味もあっただろう。そして日本に対しては、「在日米軍と関係なく、日本をターゲットにする」とまで言う。北朝鮮からするとおそらく、日本だけがかなり明確な形で、「対話はまだ早い」、「対話でなく圧力をかけるべきだ」という姿勢を示していたのが、非常に不愉快に映ったという気がする。今回実験を行ったものが実際にICBMだとしても、それが実戦に使えるレベルかというと、まだ様々な課題があるというのが事実だろう。しかし、北朝鮮の意図や能力については、あまり過小評価しない方が良いと思う。

2. トランプ政権と金正恩政権、中国の影響力と役割
 北朝鮮に対して米国のトランプ政権は、「すべての選択肢はテーブルの上にある」としながらも、「体制転換ではなく、非核化が目標だ」と言い、よくわからないところがあった。しかし、トランプ大統領と中国の習近平国家主席との会談中にシリア攻撃が行われたことで、北朝鮮も中国も、トランプ政権は場合によっては軍事力を行使するのだと認識しただろう。その後、米国が5月25日に発表した北朝鮮政策の基本方針は「北朝鮮を核保有国として認めない」、「すべての制裁と圧力を加える」、「北朝鮮の政権交代は推進せず、最終的には対話で問題を解決する」というもので、「すべての選択肢はテーブルの上にある」と言いながらも政権交代の選択肢はテーブルから降ろし、最終的には対話でという内容になっている。また、米国では大統領補佐官らが、「軍事力は行使できない」という発言もしており、このような中で北朝鮮のICBM実験が行われた。
 米国のティラーソン国務長官は、「過去20年間の北朝鮮に対するアプローチは失敗した」と述べており、これは対話と圧力のかけ方を誤ったという見方だと思う。しかし、私の印象で言うと一番の間違いは、金正恩体制の強さに対する認識で、我々が考えているほど弱くはないということだ。また、北朝鮮の外交のしたたかさや、明確な目標を設定した上での着実な国家の意思に対しても、過小評価していたと思う。
 韓国ではまた、朴槿恵(パク・クネ)政権が「北朝鮮は短期的に崩壊する」と宣伝していた。特に昨年1月の第4回の核実験以降、朴槿恵政権は「北朝鮮を明確に追い込んで潰せ」というような方向へ向かい、その流れで駐英北朝鮮公使を亡命させたりした。3月には金正恩委員長の実兄である金正男がマレーシアで殺害されたが、韓国が金正男を亡命させようとしたことが、金正恩政権には裏切り行為と映り、殺されたのではないかというのが一般的な見方だ。いずれにしても、短期崩壊を前提として北朝鮮に向き合うことには慎重でなければならないだろう。米国では大学生が北朝鮮に拘束され、昏睡状態で帰国し亡くなった。依然、米国人3人が拘束されており、これらが今後の政策にどのように影響するのかはわからない。
 トランプ政権の対北朝鮮政策の特徴は、北朝鮮のみならず中国にも圧力をかけ、中国が持つ影響力を使わせようというものだ。やや乱暴な言い方をすれば、「自分たちが向き合うよりも、中国にやらせれば良い」ということだ。これに対し、習近平政権は北朝鮮と同様に、米国はシリアを空爆したものの、北朝鮮への軍事力行使は簡単にはできないとみていると思う。トランプ政権のちぐはぐさや手詰まり感が明らかになるにつれ、中国は北朝鮮を批判すると同時に、国際社会にも冷静な対話を求め、両者の真ん中に入っていくという従来の方向に戻ってきているようだ。今回の中ロ首脳会談や、G20などでの中国の姿勢を見ると、明らかにトランプ政権と付き合うよりも、本来の中長期的な視点に立った米中関係に向かっているという印象がある。このような過程で、米国はDalian Global Unity Shipping Co.や丹東銀行という中国企業に制裁を加えるというが、米国の中国に対するこのような認識についてはどうかと思う。

3. 新たな変数としての韓国文在寅政権、日本の対応
 そして新たな変数として、韓国では文在寅政権が発足した。文在寅政権はかつての盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権と同様に進歩派政権で、北朝鮮に対して融和的だ。なおかつ盧武鉉政権のように、同盟国の米国や友好国の日本との関係よりも、民族の関係を優先するのでないかともいわれる。北朝鮮問題は今のところ、韓国がどうこうできる状況にはなく、文在寅大統領は「米韓の同盟を前提として、北朝鮮にも向き合う」としている。その一方で、「条件が整えば平壌へも行く」とし、今、最もやりたいのは、中断されている開城工業団地と金剛山観光の再開だろう。しかし、これについては朴槿恵政権がこれを中断する際、「ここでの資金が北朝鮮の核ミサイル開発に流れている」と言ったことから、国連決議と関係し、韓国の判断だけでは再開できないだろう。
 韓国は2007年の盧武鉉大統領訪朝時に大盤振る舞いをして、経済協力を約束したが、次の李明博(イ・ミョンバク)政権では実施されず、北朝鮮は繰り返し、「南北関係を動かすつもりがあるなら、まず経済協力を実施すべき」としてきた。このため、おそらくこれが1つの契機になるという気がする。北朝鮮問題に関しては、韓国には当事者としての立場があり、なおかつ韓国主導へ持っていきたいという、ある種の根本的な「誘惑」もある。進歩政権か保守政権かに関係なく、韓国が脇役に追いやられるのは受け入れ難い。韓国は現段階では日米韓の枠組みで動いているが、場合によっては自分たちがイニシアティブを取りたい。とりわけ、米国に手詰まり感が出れば、イニシアティブを取れる機会になると考えているだろう。
 米政権の北朝鮮に対するアプローチは、経験不足から、ちぐはぐになっている。このため、交渉経験が豊富な日本がこれを補うべきで、今からでも遅くはない。韓国はやや揺れているが、日米韓を基本に中国に対し、働きかけることが必要だ。ただ、もう1つ注意しなければならないのは、この状況で言うと、どこかのタイミングで対話に入らざるをえないとみられることだ。北朝鮮の立場からすれば、ICBMを打ち上げたことも対話に入る前の条件闘争で、自分に有利な交渉の入り口を作りたい。日米韓は入り口で北朝鮮の明確な非核化への動きがなければ、「対話のための対話は意味ない」と主張してきた。最終的なゴールは非核化でなければならないというところで、仮に米国の姿勢が変化することがあれば、日本がイニシアティブを取るべきだと思う。韓国や米国では、非核化でなく「凍結」でも良いと言う人たちが出てきている。凍結、非核化とも難しい課題だが、「最終的には非核化が必要だ」と言い続けるのが日本の役割だと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


IISTサポーターズ(無料)にご登録いただきますと、講演会、シンポジウム開催のご案内、2010年度以前の各会及びシンポジウムページ下部に掲載されている詳細PDFとエッセイアジアをご覧いただける、パスワードをお送りいたします。

担当:総務・企画調査広報部