平成29年度 第3回 国際情勢研究会 報告1/ 「党大会を迎える中国の政治外交動向」 東京大学大学院 法学政治学研究科 教授 高原 明生(たかはら あきお)【2017/09/12】

講演日時:2017年9月12日

平成29年度 第3回 国際情勢研究会
報告1/ 「党大会を迎える中国の政治外交動向」


東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
高原 明生 (たかはら あきお)

1. 自画自賛の習近平演説
 習近平国家主席は今年7月26日、中央委員級を集めて北京で開かれた大きな会議で演説を行ったが、その内容から様々なことが見えてきた。中国では5年に1度の党大会の数ヵ月前に、このような準備会合を開くのが通例だ。ただし、胡錦涛前国家主席時代との違いもある。胡錦涛時代には午前中に彼が演説を行い、午後には次期政治局常務委員に誰が良いと思うかという人気投票をさせていた。これについは党内民主の進展に関する重要な一歩として、党内では高く評価されているという報道もあった。一方、習近平は投票が嫌いな人だ。胡錦涛時代には幹部登用の際に、職場で投票を行うことも1つのスタンダードとなったが、習近平になってから廃止している。
 この会議での講話の内容も、中国政府は全文を発表していない。会議の映像を見ると、出席者にはメモを取らせず、習近平は笑顔を見せて話していたが、聞いている数百名は面白くないものを聞かされているという感じだった。非常に自画自賛的な内容で、前回の第18回党大会以来、いかに素晴らしいことが起き、党がいかに立派なアチーブメントを成し遂げたかということを繰り返し述べている。習近平は「習近平思想」を打ち立てようとしており、そのためにも、第18回党大会以来、「新しい時代になった」ことを強調していた。数々の業績の中では、例えば、「中国の特色ある社会主義は、発展途上国が近代化に向けて歩む上での新しい道を切り開いた」とし、「人類が問題を解決する上での中国の解答を提供した」とまで述べている。
 一方、人事について見ると、地方で様々な動きがあった。特に注目すべきは、重要な政治局員2人が解任されたことだ。まず8月には、新疆の党委員会書記を務めていた張春賢が解任された。彼は昨年春に記者会見を開いた際、習近平のリーダーシップを認めない意思表示と捉えられても仕方がない発言をしていた。また最近、もう1人の若い政治局員である孫政才の解任があった。これら解任された人たちの代わりに任命されているのは、かつて習近平が浙江省や福建省、上海等で勤務していたときの部下たちで、地方でも軍隊でも同様だ。
 軍でも2015年末から改革が始まり、編成替えや機構の変更と共に、新たな人事が行われた。それで一段落したのかと思ったら、最近になって衝撃的な人事が発表されている。習近平が米国のトランプ大統領と会談した際、横に座っていた中央軍事委員会委員の房峰輝と張陽が解任された。これらの人事には最後の最後まで、ギリギリと党内を締め付け、党大会に臨もうとしている習近平の様子が如実に表れていると思う。
 また、昨今目立つのは、習近平の礼賛だ。昨年秋のいわゆる六中全会で、彼がついに「党中央の核心」と言われるようになった。中国ではかつて鄧小平が、文化大革命の反省を踏まえ、個人崇拝や1人の人間に権威が集中するのは良くないということで、1982年に集団指導制への移行を断行した。具体的には党主席制を廃し、総書記制を導入した。そして、政治局常務委員たちが分業体制を敷く、集団指導制に移行していた。しかし、1989年にはいわゆる六四事件が起き、はたと鄧小平は反省する。その後は党の中央領導部にはやはり、「核心が必要だ」と言い始めた。趙紫陽の後任に江沢民を任命し、「彼が第三世代の核心なのだから、皆、彼の言うことを聞かなければいけない」と李鵬などを言い含めたことがあった。江沢民は10数年間、核心となり、2002年にはそのポストを胡錦涛に譲るかどうかが注目されたが、総書記の座は譲ったものの、軍事委員会主席の座はさらに2年間継続した。その際、胡錦涛に核心の地位は譲らなかったという一幕があった。
 習近平が5年前、総書記に就任したとき、やはり核心とは言われなかった。しかし、習近平はその後、反腐敗でライバルを次々に打倒し、部門横断型の組織を作ってその上に立つなどして権力の集中を着々と進めてきた。そして最終的には、核心の地位を得たというのが昨年の出来事だった。これには当然、抵抗もあり、彼を核心と呼ぶキャンペーンは始まったものの、途中で頓挫した。その後は昨年夏ごろから盛り返し、習近平は秋に核心となる。ただ、そのときもコミュニケには「集団領導制度を堅持し、集団領導と個人の分業責任との結合を実行することは、民主集中制の重要な構成部分で、必ずいつまでも堅持しなければならない」、「指導者の宣伝については事実に即さねばならず,ほめそやすことを禁止する」と書かれていた。このため、「習近平はまだまだ独裁的にはふるまえない」という見方もあったが、中央共産党は重要な決定を行う際、必ずこのようなレトリックをとる。
 今後はほぼ間違いなく党規約が改正され、習近平思想はいわゆる政党イデオロギー、党の行動指針として党規約の中に書き込まれるようだ。現在の党規約には、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論という3つの代表重要思想、科学的発展観が政党イデオロギーとして書き込まれている。これらには、それぞれ存在理由がある。マルクス・レーニン主義だけでは中国革命は成就しなかったので、毛沢東思想がオーソドックスの一部として認められるべきだということになった。鄧小平理論については、計画経済をやめて市場経済化する際、これを正当化するための政党イデオロギーが必要だった。このように、実質的な政策の変更に伴い、それを正当化するためのイデオロギーという役割がそれぞれにあった。
 一方、習近平思想はどういう役割を持っているのかというと、何も見えておらず、あたかも彼の権威のためにこれを中国共産党の政党イデオロギーとするような印象がある。言ってみれば、もしもこれが本当にいわゆる中国共産党の政党イデオロギーの一部分であるならば、社会主義イデオロギーのなれの果てはこういうことだと言えるかもしれない。

2. 第19回党大会の見どころと意義
 そういう話をした上で、10月18日から1週間にわたって、第19回党大会が開かれることになった。その見どころは何かというと、まずかつての習近平の部下たちを指す「之江新軍」が、どういう配置になるのかということだ。習近平の表の部下だけでは駒が足りないので、他の勢力と共存していかざるをえず、その辺のバランスがどうなるかも注目される。また、主席制を復活させるアイデアを習近平が持っていることは間違いないが、そこまで今回やるのか、それとも5年後にやるのかはわからない。通常であれば、5年間2期の総書記の任期を終えれば交代になるが、習近平はその先もやりたいと考えているので、制度ごと変えてしまう可能性もあろうかと思う。さらに、政法委員会と中央規律委員会との関係がどうなるのかというところにも、プロフェッショナルは注目している。
 イデオロギーに関しては、習近平思想がどういう扱いになるのかが見どころだ。一般大衆や我々にとっては新しい政策が出てくるかどうかも注目点だが、今のところ、ほとんど何も見えておらず、新機軸が出る気配はあまり感じない。あるいは、具体的にこういうことがあるのではないかというのも、私にはよく見えてこない。さらに中国では現在、保革対立があり、これは「人類のために貢献する」とまで言っている今の中国のやり方で良いと主張する保守的なグループと、どんどん改革を進めなければならないとする革新的なグループの対立だ。非常に大雑把な分け方だが、おそらくこの対立が今後、ますます激しくなるだろう。その根底には、社会主義と市場経済の間の綱引き、軋轢があり、これがいよいよ厳しくなっていくことは容易に予測できる。

3. 対外政策、北朝鮮への対応
 対外政策については、党大会を前にしていることもあり、できるだけ波風を立てないように、昨年と比べると派手な行動はとっていないのが今年の1つの特徴だ。しかし、「サラミ戦略」というか、少しずつ圧力を増していくのは相変わらずだと思う。「輿論戦、心理戦、法律戦」という3戦のうち、法律戦では昨年の国際仲裁法廷で大負けした。他方で、「米国はディクライニング・パワーで我々はライジング・パワーであり、我々に時間は味方している」というような宣伝は相変わらずだ。諸方面において自画自賛があり、それを国内外に向けて続けていくことは、今後も変わりないと思う。
 最後に、北朝鮮への対応については、中国の中で激しい議論があり、北朝鮮が悪さをすればするほど、「制裁を強化すべき」という声が高まっていく。習近平自身はおそらく、心の中ではそちらの方へ傾いているかもしれない。しかし、あまりにも議論が激しいので決断しないという状況が、しばらくは続きそうだ。安保理決議にも見られるように、やはり制裁を少しずつ強化しており、今後は北朝鮮の出方次第だ。さらなる挑発行動があれば、議論も制裁強化の方へ、さらに趨勢が傾き、中国自身のとる措置も一段と厳しくなっていくのではないか。
 しかし、ここまで来ても基本的には支援を継続しており、やはり北朝鮮を大事にしなければならないという議論の根強さも感じる。これには様々な理由があるが、やはり数少ない残された社会主義の国ということがあるだろう。米国と北朝鮮の間で「どちらをとるか」と言われれば、中国は北朝鮮をとらざるをえない。そういう基本的な地盤があると思う。ただ、米国との関係も非常に重要なので、中国の対応はこのような感じで推移してきたのかと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部