第170回 中央ユーラシア調査会 報告/ 「油価に依存する露経済と石油・ガスの流れ」公益財団法人 環日本海経済研究所 共同研究員 杉浦 敏廣(すぎうら としひろ)【2018/05/31】

日時:2018年5月31日

第170回 中央ユーラシア調査会
報告 「油価に依存する露経済と石油・ガスの流れ」


公益財団法人 環日本海経済研究所 共同研究員
杉浦 敏廣 (すぎうら としひろ)

1. ロシア経済と油価の変化
 ロシア経済は油価に依存しており、過去30年を振り返ると、油価が大きく動いた際には何か事件が起きている。ソヴィエト連邦は1991年12月25日に解体されたが、この時は油価が1バレル=10~20ドルに下がり、国庫にお金がなくなっていた。1999年末には当時のエリツィン大統領が突然、辞任したが、この時も油価が下がって国庫にお金がなかった。そして当時のプーチン首相が大統領代行に指名され、翌年3月の大統領選挙で当選、2000年5月に大統領に就任した。
 日本の原油輸入では現在、中東依存度が上がっているが、エネルギー安全保障を考えれば、やはり中東以外からの原油輸入を増やす必要がある。中東以外と言うと、ロシアや米国が考えられる。日本はロシアからサハリン1のソーコル原油、サハリン2のサハリン・ブレンド、そしてESPOブレンドという3つの油種の原油を輸入している。このうち最も多いのはESPOの原油だが、最近減少傾向にある。ESPOブレンドの供給源はシベリアと極東だが、西シベリアからは5000kmのパイプラインを通り、極東のコズミノという出荷基地から輸出されている。これは非常に良い原油で、たくさんのガソリンがとれる。従来はすべてヨーロッパへ出ていたが、東側にも来るようになった。しかし近年は、中国に流れるものが増えている。
 米国のエネルギー省情報局(EIA)が発表する長期油価予測によれば、WTI原油の価格は2040年にはバレル100ドルを超えるという。一方、最近のEIA短期油価予測によれば、北海ブレンドは、今年は70ドル、来年は65ドル前後となり、WTIは今年65ドル、来年は60ドル前後になるとみられる。しかし、この予想価格は今後、下がると思う。6月22日には、石油輸出国機構(OPEC)と非OPECの会議が予定されている。OPEC代表国はサウジアラビアで、非OPEC代表国はロシアだ。両者は現在、協調減産で1日当たり180万バレル減産することにしているが、おそらくこの枠はなくなるか半分程度に減る。そうなれば、原油の生産量は増えて油価は下がる。
 問題はロシアの方針だが、実はロシアには原油の生産量を増やす余力はない。このため、ロシアは協調減産を続けたいが、サウジアラビアはおそらく生産量を増やす。サウジアラビアも油価が下がれば困るのだが、最も重要なことはシェアの確保だ。サウジアラビアは従来、自分が減産すれば油価が上がると思っていたが、実は他の国が増産して油価が上がらなかったという経験がある。ただ、サウジアラビアの国家予算は100ドルが均衡予算で、油価が下がれば予算の問題が生じる。他方で、サウジアラビアは「脱原油」と言い出し、石油ガス化学の方向へ転換しようとしている。

2. 4期目を迎えたプーチン政権、ヨーロッパや中国への石油・ガスの輸出
 ロシアでは5月18日、新内閣が発表された。エネルギー政策では基本的に変更はないと思うが、私はエネルギー部門管掌の副首相にドミトリー・コーザク氏が就任したことに注目している。従来のエネルギー管掌副首相はドヴォルコビッチ氏でリベラル派の若手有望株だったが、プーチン大統領との接点があまりなかった。このため、ロシアの世界最大の石油会社、ロスネフチのイーゴリ・セーチン社長と、世界最大のガス会社、ガスプロムのアレクセイ・ミーレル社長から相手にされていなかった。しかし、彼らはコーザク氏を無視することはできない。コーザクは2000年にプーチン大統領が誕生した際、首相候補にもなった人物で、今後はひょっとするとコーザクとミーレル、セーチンの3人で権力闘争になるかもしれない。また、新内閣で極東発展相に就任したコズロフ氏にも、私は注目している。彼はアムール州知事だったが、サハリン生まれのサハリン育ちだ。まだ30代の若手だが、プーチン後継者の1人に挙がっているようだ。
 今後は、第4期目を迎えたプーチン政権のエネルギー政策がどうなるかが注目される。ロシアにとっては天然ガス、石油とも、最も重要な市場が欧州市場であることに変わりはない。しかし、東方へのシフトは今後さらに進むと思う。具体的には、中国との天然資源の協力関係が強化されるだろう。パイプラインによる天然ガスの輸出は来年から始まり、原油についても今後ますます輸出量が増える見込みだ。
 ヨーロッパ向けの天然ガスはパイプラインで送られており、2016年には戦後最高の量を記録、昨年もさらに増えた。ヨーロッパの顧客は液化天然ガス(LNG)よりパイプラインで買った方が安いので、経済原則が働いているということだ。また従来は、欧州連合(EU)で一番の天然ガス生産国はオランダで、フローニンゲンという有名な大ガス田が1960年代からあった。しかし、その生産量が減り、ロシアからの輸入が増えている。ロシアは原油についても、パイプラインでヨーロッパへ輸出している。原油と重油はタンカーでもオランダやベルギーへ持っていき、原油はそこの製油所で石油製品にして域内の石油製品パイプラインに流し、顧客に送っている。
 一方、中国にとって最大の原油供給国はロシアになっている。ロシアから中国への原油輸出にはパイプライン、タンカーでの輸出があるが、もう1つ、カザフスタン経由というのがある。ロシア産原油はカザフスタン経由で中国へ送られており、今年は1000万トンの予定になっている。天然ガスについては来年12月20日から、ロシアから中国へパイプラインで出るようになる。サハ共和国のチャヤンダ・ガス田の天然ガスが、中国へ流れる。中国では原油、ガスの消費量は伸びているが、生産量は減っている。このため、輸入量が増えており、この傾向は今後も続くとみられる。

3. 西方、東方へのパイプラインの状況
 旧ソ連邦時代には、西シベリアから東向けの天然ガスパイプラインは1つもなく、すべて西に向いていた。主なものは、昔のベラルーシからポーランド、東ドイツ向けと、ウクライナからチェコスロバキア、オーストリア、ドイツに向かっていた。これらは陸上のパイプラインだが、バルト海経由の天然ガスパイプラインであるノルト・ストリームが2011年から稼働し、現在はこれがメインになっている。これによってウクライナ経由の天然ガストランジット輸送量が減り、ウクライナとロシアの関係が悪化した。また、サハリンからウラジオストクまでの、1800kmの天然ガスパイプラインが2012年にできたが、全く使われていない。なぜ使われていないのかというと、天然ガスの供給源がないためだ。供給源はサハリン3という鉱区だが、米国の対露経済制裁措置の対象鉱区になり、開発が停滞している。
 西シベリアからヨーロッパに輸出される天然ガスには、ベラルーシ経由、ウクライナ経由、ノルト・ストリームという、大きく分けて3つのルートがある。また、バルカン・パイプラインは、トルコへ向かう陸上パイプラインだ。バルト海を通るノルト・ストリームではパイプラインが2本できており(ノルト・ストリーム1)、まもなく建設開始予定のノルト・ストリーム2でも2本できる予定だ。ノルト・ストリーム1は1223kmで、2は1220kmとやや短い。天然ガス供給源はすべて西シベリアで、西シベリアからパイプラインで持ってきて、海底パイプラインへつなげる。しかし、ノルト・ストリーム2についてはドイツ国内で接続するパイプラインがないことが問題になっている。準備はされているが、まだ建設許可が下りていない。
 ブルー・ストリームは黒海を通る、ロシアからトルコへの天然ガスパイプラインで2003年に稼働した。水深2150mのところにあり、当時は世界一深い海底パイプラインだった。トルコ・ストリームは当初、サウス・ストリームといわれたもので、最大水深は2200mだ。1本目は今年4月末に完工し、現在は2本目が作られている。これが現在、世界一深い海底パイプラインとなっている。
 ウクライナで現在、問題になっているのは天然ガスの輸送量とトランジット料だ。ロシアのガスプロムとウクライナの国営ガス会社は2009年1月、11年間有効の長期供給契約を結んだ。この契約では、ウクライナ経由のヨーロッパ向け天然ガスの通過量を毎年1100億m³、またロシアからウクライナへの天然ガス供給量を520億m³にするとした。しかし、ウクライナは現在、ロシアから天然ガスを買っておらず、ウクライナ経由ヨーロッパ向けの、ロシアからの天然ガストランジット輸送量も契約より大きく減った。そこで双方が提訴し、泥沼になっている。
 チャヤンダから中国向けにも天然ガスパイプラインが建設中だが、問題は6月12日の米朝会談の結果、北朝鮮問題がどうなるかだ。サハリンからウラジオストクまでは既に天然ガスパイプラインがあり、パイプラインは韓国国内にも張り巡らされている。これらが北朝鮮経由でつながれば、サハリンの天然ガスが韓国へ流れる構図が出現する。韓国の釜山まで流れれば、その先には対馬や九州がある。対馬海峡は水深が浅いので、将来的にはサハリンの天然ガスが北朝鮮と韓国を通り、九州、島根、鳥取の方まで来るという構想が再浮上する可能性もある。
 昨年12月からは、ヤマル半島の天然ガスがLNGにして出荷されている。ベーリング海東部ルートは夏場だけで、今後、冬場は西向け、夏場は東向けという航路になる。ただし、これはロシアにとって経済性がないプロジェクトだと思う。にもかかわらず、できるようになったのは、この航路が軍事的に重要だからだろう。この航路によってカムチャッカ半島の原子力潜水艦の基地が結ばれ、その能力が増強される。
 東シベリア・太平洋石油パイプライン(ESPO)については、ロシア側では輸送インフラが整備されている。当初は東シベリアを原油供給源に想定していたが、東シベリアと西シベリア間の原油パイプラインが建設されたので、西シベリア原油が5000km離れた極東のコズミノ出荷基地まで流れてくるという構図が既に実現している。
 私は、ロシア経済は「油上の楼閣経済」だと言っているが、この構造は今後も変わらないと思う。しかし、ロシアには、原油や天然ガスの生産を増やす能力はない。既存の西シベリアの優良原油鉱区と優良天然ガス鉱区では1960年代から本格的に生産を行っており、現在では原油、ガスとも生産量がどんどん減っている。このため、東シベリアや北極海のような難しいところで生産する必要があるが、ロシアには海洋の探鉱・開発生産技術がない。したがって、欧米のメジャーを入れないと生産できないが、現在は対露経済制裁でメジャーが入っておらず、鉱区はあっても開発できない。
 もう1つ、硫黄分規制というものがある。現在、船で使われる重油の硫化水素は3.5%まで許可されているが、2020年1月1日以降は0.5%以下にしなければ船で使えないという規制が導入される。そうなれば、原油を脱硫して良い重油を作る装置を持っているところが勝ち組になる。日本は原油の輸入量が減っていることから、脱硫装置を持つリファイナリーを潰してきたが、メジャーはこれを持っている。したがって、メジャーが勝ち、日本の石油精製会社は負け組になるのではないか。現在はガソリン価格が上がって日本の石油会社は儲かっているというが、今後は大変になるだろうと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部