第176回 中央ユーラシア調査会 報告/ 「中国人民解放軍の現況と習近平の軍事改革」 拓殖大学 名誉教授 / 元陸将補 茅原 郁生(かやはら いくお)【2018/12/20】

日時:2018年12月20日

第176回 中央ユーラシア調査会
報告 「中国人民解放軍の現況と習近平の軍事改革」


拓殖大学 名誉教授 / 元陸将補
茅原 郁生 (かやはら いくお)

1. 習近平軍事改革前の解放軍の実態とその認識
 中国の習近平国家主席は第19回党大会で、21世紀半ばまでに中国は世界の最前列に立つ、すなわち総合国力、影響力において世界トップの座を狙うと明確に述べた。私はこれを、パクス・アメリカーナといわれる米国の覇権に中国が挑戦するものと受け止める。しかし、パクス・シニカという時代は、なかなか来ないと思う。そのためには、覇権を支える世界最強の軍事力を中国が持ち得ることが、1つの要件となる。また、覇権国家には軍事力だけでなく、様々な意味での影響力や共有できる価値観や世界が向かうべき方向の理念の提示を求められる。中国は現在、トランプ米大統領に対抗し、自由貿易の守護者のような立場をとっているが、中国自身が自由貿易に耐え得るほど改革開放政策を実施しているかどうかは疑わしい。国有企業を国家が強力に支援する中で、経済の自由競争はできないと思う。
 軍事力に関しては中国軍の現状は核戦力では世界第3位に位置づけられると思う。米露の圧倒的な軍事力と比べれば、まだ脆弱だが、運搬手段の多様性や抑止力の信頼性は増している。中国は1980年代、大陸間弾道弾(ICBM)を南太平洋に1万キロ(北米大陸に到達)実距離実験に成功し最小限の核抑止戦略を展開した。それは先制攻撃で滅亡するかもしれないが、1、2発をどこかで隠し持って残し、報復するという最小限抑止力が根拠であった。しかし、今日の中国は、第1撃の先制攻撃を受けても生き延びるだけの抗耐戦力を持ってきた。すなわち、巨大なICBMを片側8輪の巨大なトレーラーに積んで動く機動性もあり、毎日、居場所を変えながら、いつでも発射できる態勢を構築した。米国がその目標を狙って撃っても、弾頭が到着するまでに破壊圏外へ動く可能性がある。こういうことから有限抑止力ということで、中国は核抑止力に自信を持ってきた。しかし、同時に中国の核戦力の大きな問題は、後発核戦力という立場に立ち、核軍縮等のテーブルに着こうとしないことだ。中国の核戦力は運搬手段の多様性や持てる数では、既にイギリスやフランスを抜き、米露に並ぶほどになっているとみられる。このため、トランプ米大統領も中国の核軍縮への誘い込みを狙っているはずで、そういう意味では、米ロ間でIMF条約撤廃が鬩ぎ合われる中で中国も含む核軍縮という貿易戦争後に起きる大きな確執に巻き込まれてこよう。
 中国の通常戦力は、陸海空の3軍種の戦力がある。現在160万人の陸軍について習近平国家主席は、30万人削減するとしており、そうなれば130万人になる。ある戦局で独自に戦争を遂行できる3個師団の戦闘部隊のみならず必要な戦闘支援や兵站部隊などがセットとなる5?6万人の部隊?合成集団軍という部隊があり、以前は18個あったが、現在は13個に削減されたと発表。そして主要装備としては陸軍全体で火砲が1万5200、戦車が7200という、非常に大きな陸軍戦力がある。次に中国海軍は潜水艦を多く(69隻)保有しているのが特色だ。戦闘艦艇の総トン数は134万程度で、1万トン以下の戦闘艦、いわゆる駆逐艦の類が63隻に実験空母・遼寧が配備されている。さらに離島などを渡洋攻撃する水陸両用戦部隊として海軍陸戦隊(米海兵隊並み)の旅団級部隊を10万規模に増やそうとしている。空軍については、最近は宇宙を含む航天軍にする方向が示されている。空軍の兵力は40万人で、作戦機は2230機あり、高射砲部隊がたくさんあるほか、空挺兵(パラシュート)部隊が3個師団あるといわれる。
 国際的に比較すると、中国は陸軍が圧倒的に多く、インドや北朝鮮の100万兵力と比べても多い。海軍力では圧倒的に米国が強いが、中国海軍も量では既にロシアに近いところまで来ている。空軍では、ロシアの数を抜いている。
 中国における軍統帥は国家と党の二枚看板である中央軍事委員会(中央軍委)が担っており、江沢民体制以降、党のトップが軍のトップも兼ねるのが慣例になっている。したがって、軍の最高指揮官も習近平国家主席になり、軍に対する統帥権は独立しており、共産党にも国家にも属さないところにある。統帥権の独立については、わが国もかつては政府から独立して天皇にあったように様々な政治的な問題が内在している。また中央軍委の直下で軍事力の元締めになるのが四総部(総参謀部、総政治部、総後勤部、総装備部)が15部門に改編されてばらばらになったが、会議体の中央軍委の事務局を支える機能が発揮できるのか、の問題も出てきた。また、国務院の下にある人民武装警察部隊も大きな準戦力で、これが今回、軍の指揮下に移った。

 中国では軍の存在が非常に重要視されており、「政権は銃口から生まれる」と毛沢東がいみじくも言ったとおりだ。今日も軍隊は「党の柱石」という名において、共産党政権を支えることが最大の任務となっている。統帥権は独立しており、同時に人民の子弟兵といわれ、人民に奉仕する部隊ということが強調されている。これまでの軍事改革では、鄧小平が行ったものが最大だったと思う。1つは、約500万人の軍隊を「経済建設のためには重荷だ」とばっさり切り、約300万人に減らした。同時に80年代を迎えるころまで国家予算の16%が国防費に回されていたが、それを8%にまで減らした。同時に鄧小平は、党の軍隊から国家の軍隊に変えようとした。鄧小平など革命戦争推進世代のなき後、新しい世代の指導者は革命戦争を知らず、軍歴も軍功もない人になる。そのような中、党の権威によって軍隊を抑え込み、指揮に従わせる時代は終わったと見たのではないかと思う。実際、急遽、上海市のトップから中央総書記に抜擢された江沢民は、軍を抑えきれないまま国防費はどんどん増えた。江沢民時代も含む10数年間、国防費は10%以上の伸びを続け、今日のように米国に次ぐ世界第2位の国防予算に膨れ上がった。胡錦涛時代の2010年ごろには、伸びを7%まで抑え込んだことが1度あったが、翌年には10数%に戻った。このような軍と党の確執の中で、解放軍の整備や近代化は進められてきた。

2. 安全保障環境の変化と習軍事改革
 中国は近年、経済力を背景に急台頭し、第二次世界大戦後、世界の覇権を握ってきた米国は、次第に勢力を弱めてきた。2012年にはオバマ大統領が、米国が担ってきた「世界の警察官」という機能について「もうやり切れない」と降りた様にパワーシフトは進んできた。しかし、現在のトランプ大統領は「米国第1」と「力による平和」政権を掲げ、軍事力を再び強化し始めている。アジア太平洋地域で、米中の角逐が進んできた。冷戦後のグローバル化の進展、自由貿易に加え、情報化の進展や国際システムの変化もあった。2015年に出された最新版の中国の『国防白書』では、米国の覇権主義、強権政治が最大の脅威であると見てし、アジア太平洋地域には危機が残り、戦略ゲームが行われているとした。また、テロリズム、分裂主義、過激主義のような、世界の国家主権を脅かす横断的な脅威が内在するという情勢認識が示されていた。さらに、2003年の米英有志軍によるイラク攻撃のような新しい戦争が始まっているとし、これを「情報化戦争」と表現している。
 一方、戦後生まれで軍歴もない習近平国家主席は、軍事改革に当たって周到な準備を進めてきた。第19回共産党大会では「中国は21世紀中葉までに、世界の最前列に立つ」とし、その中国を引っ張る強いリーダーシップのため、習近平一強体制を作り挙げた。中国では14億人の国民を8000万党員の共産党が統治しており、これが約200を超える各支部細胞党員会があらゆる組織に入り込んで上から下への独裁統治をしている。最近は民間企業、外資系企業にも党員会を作り、経営に口を出すようになってきた。共産党統治の実態は、5年に一度の党大会では、向こう5年間の国家運営戦略が打ち出され、中央委員や政治局員が選出される。
 その頂点には習近平総書記をトップに7名の常務委員(常委)がおり、これらの人たちによる集団指導体制が常態であった。第1期習政権では、7人の常委のうち江沢民の色の付いた人たちが過半数いたが、現在の常務委員は習近平派が多数を占めここで絶対多数を確保してきた。これが習近平権力集中の1つであり、その成果の上で軍事改革に着手をした。軍事改革の狙いは大きく分けて2つあり、1つは、新しい時代の戦争に勝てる軍隊になれというものだ。今日の軍隊では、米国が行っているような、陸海空の区別なく最適戦力を発揮する、統合運用が必要となることから、そのような統合作戦運用の出来る軍隊を目指している。もう1つは、共産党の言うことに忠実な党の軍隊にすることで、この2つを繰り返し強く要望している。かつて鄧小平時代に、国家の軍隊化、法律の中で動く部隊にしようとした動きは、習近平総書記によって完全に否定され、党の軍隊ということが強調されている。これは私から見ると、二兎を追っているように見える。将軍人事において、党に忠誠を誓う軍人は、政治将校的になっていく。他方で、新しい時代のサイバーも含めた電子兵器やデジタル手段の特性を理解した上で作戦を立て、オペレーションを行う軍人は、プロフェッショナルとして思想や政治を抜きにした機能の発揮が求められるはずだ。
 軍事改革のキーワードには、「軍委管総、戦区主戦、軍種主建」というものがある。これを解釈すると、中央軍事委員会がすべてを指揮、管理する、つまり党がこれを行うということだ。そして軍区を取り払い、戦区を作った。これは統合軍を追求した処置で、戦争指揮は戦区に任せる、陸・海・空軍司令官は軍隊指揮に口を出すなということだ。さらに軍種部隊や新しく作った戦略支援部隊の役割は、戦える強い軍隊の建設,すなわち軍人を募集して訓練し、新しい兵器を開発して持たせ、戦える部隊を作って戦区司令官に差し出しなさいというように、戦区との軍令・軍政の役割分担を明確にした。
 また、今回の軍事改革で一番大きなことは、陸軍に7つあった軍区を取り払い、1本化して陸軍司令官の下にまとめたことで、そうなれば陸海空軍司令官が同列に並び、ある意味で陸軍の格下げとなる。このようなことで、地方に根を張った陸軍の弱体化を図ったことと第2砲兵部隊の名前をロケット軍と変えて強化したことだ。第2に、中央軍委に直結して隠然たる力を持っていた四総部を15の組織に分け,権限を分断・分割した。第3に、7つの軍区を潰して、東部、南部、西部、北部、中央という作戦指揮を中心とする戦区にした。このように大きな軍組織改革を実質1ヵ月間にやってしまったので、拙速な改編は様々な問題を残し,後遺症が出るのではないか。他には、30万の兵力削減なども行っている。

3. 習軍事改革の課題と注目点
 習近平国家主席の軍事改革に関しては、党に忠実な軍隊、そして情報化戦争に勝利する軍隊という二兎を追えるのかというのが、私の一番大きな疑念だ。また、習近平国家主席に権力を集中させ,統合作戦指揮センターの総指揮にまでなっているが、軍事では素人の習主席が適切に作戦指揮にまで口を出して混乱は起きないのかという問題もある。さらに、これまで空軍司令官、海軍司令官などが重要な役割を果たしてきたが、今後は作戦指揮には一切口を出さず、戦区司令官に任せるという「軍種主建」と「戦区主戦」がうまく機能するのかという点も注目される。
 中国は「強国戦略」を立てているが、それを実現する精強軍になり得るのか、私は半信半疑の目で見ている.中国の軍事力は既にアジアでは圧倒的で、そういう意味では我が国防衛も,防衛大綱の見直しが進められたように、十分に注視・警戒する必要がある。同時に中国が21世紀中葉に、米国に代わって世界覇権を握れるのか、そのグローバルな覇権を支える軍事力に改革・強化できるのか、その趨勢を注視する必要があろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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