平成30年度 第2回 国際情勢研究会 報告/ 「米朝首脳会談後の北朝鮮情勢」 南山大学 総合政策学部 教授 平岩 俊司 (ひらいわ しゅんじ)【2018/07/19】

講演日時:2018年7月19日

平成30年度 第2回 国際情勢研究会
報告/ 「米朝首脳会談後の北朝鮮情勢」


南山大学 総合政策学部 教授
平岩 俊司 (ひらいわ しゅんじ)

1. 米朝首脳会談-評価と課題
 6月12日の米朝首脳会談に関する一連のプロセスは、2000年5月から6月に見られた動きと極めて似ている。2000年6月には、韓国の金大中大統領が北朝鮮の金正日総書記と初の南北首脳会談を行った。当時は韓国側が北朝鮮に首脳会談を提案したが、その直前には北朝鮮と中国の関係が非常に悪化していた。1980年代後半から1990年代初めにかけ、世界では冷戦終結の動きがあり、朝鮮半島でも冷戦終結の動きが模索された。この時、北朝鮮の後ろ盾であったソ連と中国が韓国と国交正常化したので、次は米国か日本が北朝鮮と国交正常化する番だということになった。
 中国も北朝鮮にそう約束していたようで、当時の中国にはおそらく天安門事件から脱却するため、韓国との関係を突破口にしたいという思いがあった。中国はまた、東北地方への日本の投資にも期待していたようだ。そして何よりも、台湾の李登輝総統の弾力外交への鞘当てがあった。さらに、中国と国交関係があるアフリカのいくつかの国に裏切るような状況があり、敢えて韓国と国交正常化することは、台湾へのダメージになるという考えがあった。
 このような中で北朝鮮は「中国に裏切られた」と思い、以降、中国外交部と北朝鮮外交部の関係が非常に悪くなったといわれる。しかし、2000年6月に南北首脳会談を行う直前、金正日総書記は中国を電撃訪問し、中朝関係は一気に回復した。また、南北首脳会談後、北朝鮮は韓国を通じて米国に働きかけ、当時のオルブライト国務長官が北朝鮮を訪問、いよいよクリントン大統領が米国の大統領としては初めて北朝鮮を訪問するかというところまで行った。
 今回もこの一連の流れと同じような印象があるが、唯一、異なるのが、米国の反応だ。3月8日に韓国の特使はトランプ大統領に対し、「北朝鮮が、米朝首脳会談を行いたいと言っている」と伝えたところ、トランプ大統領はその場で「やる」と言ったそうだ。これには、皆が驚いた。そして、米朝首脳会談に至ったが、その内容は、米国、韓国、日本の専門家の間ではあまり高く評価されていない。一般の人々の評価についても日本では同様だが、韓国では高く評価されている。6月12日という設定も、韓国側がかなり働きかけたといわれる。実は翌日の6月13日は韓国の地方選挙で、選挙では米朝首脳会談を受け、リベラル派の与党が大勝した。韓国では、保守派は北朝鮮をある種の懸念として捉えて封じ込めようとし、日米との関係を重視するが、リベラル派は同じ民族である北朝鮮との関係も進展させようとする。
 今回の会談のポイントは、日本人にとっては非核化だった。一方、韓国の人々にとっても非核化はもちろん重要だが、それ以上に今回の会談によって「戦争の危機を回避できた」ということがあったと思う。韓国の人々は常に北朝鮮の脅威にさらされており、それが常態化しているので、通常はすぐさま戦争になるとは考えない。しかし、米国のトランプ政権は何をやるかわからず、軍事行動に出るかもしれないという危機感があった。したがって、米朝首脳会談が実現したことで、韓国の人々にはある種の安心感のようなものができた。これが、韓国での会談に対する高い評価につながったのではないかと私なりに解釈している。また、米国の人々から見ても、米国本土に対する核攻撃の可能性がなくなったというところでの評価はあり得ると思う。
 しかし、専門家や対北朝鮮関係を直接担当している人々の評価は、物足りないというものだ。これは特に、共同声明に「完全かつ検証可能で、後戻りのできない」という意味の「CVID」の文言が入らなかったためだ。声明では、「2018年4月27日の『板門店宣言』を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島における完全非核化に向けて努力すると約束する」とされており、結局、4月27日の内容から何も進展していないというのが厳しい評価の1つだと思う。ただ、敢えて肯定的に見れば、朝鮮半島の対立構造の中核である米国と北朝鮮が、曲がりなりにも将来の目標について合意したことは評価できる。
 北朝鮮の核問題はある意味、冷戦の終結がうまく行かなかったために生じたものだ。北朝鮮の核に対する野心は1950年代までさかのぼるが、現在、彼らが核ミサイルを持つことを正当化する理屈は、中国とソ連が韓国と国交正常化し、北朝鮮が米国の核の脅威に一方的にさらされる状況になったというものだ。したがって、冷戦の終結をやり直すということに関しては、米朝首脳会談の実現は一定程度、評価されるべきだと思う。ただ、会談の価値については今後、本当に非核化が具体化し、なおかつ北朝鮮の核放棄につながっていくのかというところで決まると思う。
 我々が懸念するのは、これまでの状況を振り返ると、北朝鮮は嘘をつき、国際社会を欺くということだ。このため、こちらが提供するものについては非常に慎重に進めるというやり方をしてきたわけだが、トランプ大統領のやり方はレーガン大統領の頃のソ連に対するやり方と同じだ。これは、まずは信頼し、それから検証するというもので「信頼醸成」がキーワードとなっている。非核化に向けた具体的な内容は実務者協議で話し合うことになり、7月6日から7日にかけて協議がなされた。そして米国のポンペオ長官はその内容について、「非常に建設的だった」と述べたが、北朝鮮側は「米国の態度には、誠意が見られない」とした。これでは非核化そのものをもう一度、考え直さなければいけないことになりかねない。
 北朝鮮の立場からすれば、朝鮮半島の非核化は、「平和体制の構築」と共に進められる必要がある。しかし、ポンペオ長官が非核化の話しかしないため、北朝鮮から見ると、約束違いだということになった。このように、今のところ、交渉方法のずれのようなものが出てきているようだ。一方、トランプ大統領は7月17日に、「非核化には期限を設けない」と明言しており、矢継ぎ早に非核化が進んでいくことはなさそうだ。

2. 北朝鮮は「姿勢変化」したのか、米朝の溝を埋める韓国と中国
 そもそも、北朝鮮の姿勢は変化しているのかということだが、これについては大きく分けて3つの見方が存在する。第1に、金正恩委員長は自分や北朝鮮の将来を考え、核などどうせ使えないのだから放棄すると決心したという見方がある。第2に、北朝鮮がこれだけ時間と金をかけて作ったものを、そう簡単に手放すはずはなく、また国際社会を欺くために時間稼ぎをしているだけだという見方がある。第3に、これは私の考えなのだが、北朝鮮が決心したかどうかについては、現段階ではまだわからないというものだ。北朝鮮側が言っていることは、極端に言えば、昨年から今年にかけて全く変化していない。したがって、今後の展開次第だと思う。昨年末までの北朝鮮は、「米国の敵視政策が改まらない限り、核は絶対に放棄せず、核を交渉テーブルの上にも乗せない」という言い方をしていた。そして今年1月1日以降は、韓国が国際社会に伝えるところによると、「米国の敵視政策が改まるなら、我々は核をもって苦労するいわれはない」というものになった。つまり、基本は米国の敵視政策がどうなるのかということだ。私が今後の展開次第というのは、北朝鮮が「米国の敵視政策が改まった」と判断するなら、核放棄の方向へ向かうかもしれないが、現段階ではそのような状況にないからだ。北朝鮮側は、「我々が一方的に核を放棄するとは、夢にも思うな」と繰り返し述べている。
 このような中、中国とロシアは国連安全保障理事会で、何とかして制裁を解除しようしている。また、韓国も制裁緩和に動きたい。韓国と北朝鮮の間には、2007年10月4日の「10.4宣言」というものがある。そこでは当時の廬武鉉大統領が、北朝鮮に対する大規模な経済協力を約束した。しかし、その後、保守派の李明博政権は、「経済協力はするが、その前に非核化するよう」と条件を付け、北朝鮮側は繰り返し、「関係を改善したいなら、まずは10.4宣言を実行するよう」と求めてきた。そして、2018年4月27日の「板門店宣言」では、10.4宣言の実施について明記された。韓国は現在、これを軸に人道的な支援を拡大しようとしているようだ。また、金正恩委員長はここ数ヵ月で3回も中国を訪問しており、経済協力開始の準備をしているといわれる。北朝鮮の国境にある中国の丹東市辺りでは既に、投資が始まっているという。

3. 日本の立場と課題
 日本に関しては、北朝鮮は盛んに「この流れに乗れないだろう」と言っている。よくメディアなどが日本の反応を批判するのは、韓国の動きを過小評価し、なおかつ米国がこれほど早く動くとは思わなかったので、ややゆっくり構えていたところ、動きが一気に早くなって乗り遅れたということだ。それに合わせるように、例えば、ウラジオストックで行われる「東方経済フォーラム」での金正恩委員長との首脳会談を模索しているという報道もある。ただ、韓国や米国の動きについて正しく予測できていたとしても、日本のとれる選択肢は今とあまり変わらなかっただろうというのが私の見方だ。日本は拉致、核、ミサイル問題、とりわけ拉致問題という非常にデリケートな問題を抱えている。やはり、この部分がある限り、日本がとれる行動は限定的になる。一方、拉致問題に関する日本の従来のやり方は、北朝鮮側に再調査を求め、その結果を日本側が判断するというもので、これではおそらく今後もこの問題は動かないと思う。本来ならば、日本側が何らかの形で真相究明の部分にかかわる必要があるが、日本では警察をはじめ、かなり消極的なようだ。仮に自分たちで調査しても良いとなった場合でも、土地勘も何もないようなところでは調査は思うようにいかず、その結果について責任が生じるとなれば、慎重にならざるを得ない。
 他方で、北朝鮮の核放棄に向けては、米国の約束だけでは十分でないだろう。トランプ大統領の約束を次の米国の大統領が守るかどうかはわからず、北朝鮮はこれまでもずっと、「米国は約束を守らない」と批判してきた。核について言えば、核を持っていなかったイラクのフセイン大統領がやられ、核を放棄したリビアのカダフィ大佐も末路は見捨てられた。さらに、最近のイランの核合意も反故にするかもしれない。このため、米朝2国間で合意しても、それが守られる保証はない。そこで北朝鮮は、韓国や中国、さらには日本やロシアも加わった「平和体制の構築」を求めている。このため、日本としては拉致問題の解決と共に、平和体制の構築という部分で果たすべき役割も考え、準備していくべきだろう。そして北朝鮮のほか、中国や韓国に対しても日本の立場を丁寧に説明していく必要があると思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部