平成30年度 第4回 国際情勢研究会 『一帯一路と日本及び東南アジア』 報告2/ 「中国の対東南アジア政策とASEAN諸国」 桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授 佐藤 考一 (さとう こういち)【2018/11/28】

講演日時:2018年11月28日

平成30年度 第4回 国際情勢研究会
『一帯一路と日本及び東南アジア』
報告2/ 「中国の対東南アジア政策とASEAN諸国」


桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授
佐藤 考一 (さとう こういち)

1. 中国の「海洋強国」政策と「一帯一路」構想
 中国には「海洋強国」という政策があり、2012年11月に当時の劉賜貴・国家海洋局長が挙げた定義によれば、海洋強国とは「海洋開発・海洋利用・海洋保護・海洋管理統制などの面で総合的な実力を有する国」ということだ。この最後の部分が問題で、中国は周辺300万m²を「自分たちの海だ」と主張している。これでは、東海、黄海、南海、渤海の全てが入ってしまい、周辺国との間で問題が生じる。中国は2009年以降、スプラトリー諸島の8つの占拠島礁で人民解放軍海軍、公船、漁船による進出をしており、拡張や埋め立ても開始した。スカボロー礁にも船が出てきて、東南アジア諸国連合(ASEAN)側のエネルギー資源探査や漁業を妨害している。また、島礁を奪回する演習を行う等、非常に危険なことを始めている。
 ASEAN諸国は、海の実力では中国にかなわないことから、会議外交で中国と交渉し、行動規範(COC)をまとめたい。しかし、中国はカンボジアやラオスのように、たくさんの援助をしている国を利用している。ASEANはコンセンサスがないと行動できないため、被害国の思うようには行かない。一方、日本と米国、オーストラリアは「航行の自由作戦」や単独演習、ASEAN諸国の海軍との交流を行っている。米国は「航行の自由作戦」と名乗らない場合も含め、南シナ海で頻繁に干渉していることから、中国は次第に行動を抑制するようになり、法執行に絡む大きな事件は減った。ただ、皆が南シナ海に軍艦を出しているので、サンゴ礁に乗り上げる等の事故も発生している。
 中国は「一帯一路」の方では、ASEAN諸国に対する政策を進めている。一帯一路とは何かというと、古代シルクロードが蓄積した、「平和・協力・開放・包摂・相互学習・相互参考・互恵・ウィン・ウィン」の交流があり、これを核心として、平和共存五原則を踏まえ、強制しない友好関係を広めていくことだという。これは、習近平国家主席が述べたことだ。また、関志雄氏は一帯一路について、「開放型の世界経済システムを守り、多様で、自主的で、均衡のとれた、持続可能な発展を実現するための中国の提案である」と定義する。一方、阮宗沢・中国際問題研究院常務副院長は、「政策面の意思疎通、インフラの相互連結、貿易の円滑化、資金の融通、国民間の相互交流などを進め、将来的には人類運命共同体を作る」と大きく出ている。ただ、実態を見ると、本当のところは発展途上国に、西側の経済発展と民主化・人権を組み合わせた「人間の安全保障」的な発想を有する発展モデルではない、代替案を提供したいという野心があるようだ。
 ASEANとの間で現在、最も大きな話題になっているのは、高速鉄道の売り込みだ。各プロジェクトの全容や総額は、わからないものが非常に多い。ラオスではかなり順調に進んでいるようだが、驚いたのは道路の両側を鉄道プロジェクトが占有する「鉄道附属地」があるということで、これはタイなどでも、交渉開始時に大きな問題になった。ベトナムでは中国は昆明や南寧からハノイまでをつなぎ、さらにその先のハイフォンという港につなげたい。これは西部開発の一環で、内陸で海に出られなかったところを出られるようにしたいという、中国の本音が透けて見える話だ。しかし、ベトナムはこれに難色を示している。1979年には中越戦争があり、中国とベトナムの歴史は「戦争の歴史」とも言われる。したがって、このような道路を造られ、中越で何か揉め事があった時に、高速鉄道で中国の人民解放軍がベトナムに来るのでは困る。
 一方、タイでは2017年に起工式が行われたが、契約済みなのはバンコクから3.5㎞だけで、残りについてはこれから国内で入札するという。やはり、中国による鉄道附属地の要求が問題になっている。また、タイでは何度も政権が代わっており、タイの決定が何度も変わったので、中国側が怒った経緯がある。実は当初、ラオス国境からバンコクではないルートの構想もあり、それはカンボジアへ最短距離でタイ領内を突っ切ってシアヌークビル港へつなげようとするものだった。これもやはり西部開発で、内陸から外へ出る道がほしいという中国の切実な話が背景にあったと思うが、タイ政府はこれを受け入れなかった。
 マレーシアでは、2018年8月に東海岸鉄道が中止になっている。総額は550億マレーシア・リンギットと言われるが、オルタナティブでやってみたところ、100億マレーシア・リンギットでできるという話があったそうで、「金額が大き過ぎて借金が返せない」ということで中止になった。また、エネルギーを運ぶパイプラインの話もあったが、これも中止になり、港湾開発プロジェクトだけが動いている。
 インドネシアはジャカルタ‐バンドン高速鉄道の工事が始まり、2019年に完成すると言われていたが、土地収用や官庁間の調整、中国人技術者や労働者の雇用問題などがあり、延期になるとみられている。ただ、インドネシアの場合、インフラ・プロジェクトの重大な障害に関しては、中国だけが悪いのではないと言っている。インドネシアが民主化された時期なので、土地の収用に非常に時間がかかり、全体のプロジェクトの3~4割は民間の投資コストになるということだ。また、複数の官庁の煩瑣な許認可の問題もある。

2. シー・パワーになろうとする中国
 中国による海洋強国・一帯一路構想の両方から読み取れる意図は、やはり「シー・パワー」になりたいということだ。中国の行動は、A・T・マハンの言うシー・パワーに類似しており、生産・通商・海運・植民地に代えて、借金漬けの友好国・国外の基地とそれらを保護・推進する海軍力から成る。そして、米国に対抗しようとしており、中国は現在、ランド・パワーからシー・パワーへの移行を志向する過渡期にあるのではないか。また、中国には明代の鄭和の南海遠征や朝貢体制のイメージへの憧れがあるようだが、これが「中華民族の偉大な復興」の青写真というのでは困る。マハンの理論をある程度、受け継ぎ、大国の話をしたH・マッキンダーの「ハートランド論」は、インナー・クレセント(内周の弧)とアウター・クレセント(外周の弧)の両方の防備を備えれば世界帝国ができるという理論だが、中国が進める一帯一路はそれと重なって見える。中国の人にこのような話をすると怒るが、やはりそういう風に見えるところがある。
 中国は自国の大国化の夢の実現に、やや酔っているという印象があるが、現実は甘くない。ASEAN側の批判で大きいのは、「地域協力(多国間協力)と言っているが、実際には、二国間協力の積み重ねでしかない」、「中国の意志、意向が中心になっているではないか」ということだ。そして、全体のイメージがはっきりしない。中国の人も「地理的な概念でなくなった」と言っているように、全体のイメージがよくわからない。また、行政制度と工業規格がしっかりしている国や、ナショナリズムの強い国が、中国の言いなりにならないことは間違いない。この点については、日本の政府開発援助(ODA)では非常に丁寧に気を使い、相手の自尊心を傷つけないようにやってきたと思う。そういうところは、中国にはまだ欠けている。ASEAN5は、発展段階では中国より先を行っている国もある。あるいは、そうなっていた時期もある。ASEANには、中所得国になったのも、中国より早かった国がかなりある。そういう国にとってはやはり、「何なのだ」という意識がある。

3. 日本が取るべき対応
 日本人としては、中国の「海洋強国」政策は受け入れることはできない。そこで、東シナ海における海空自衛隊の演習や、ASEAN諸国との防衛交流強化が必要になる。ASEAN側には防衛大学の卒業生が500人以上いるそうで、彼らが日本とASEANの絆になっているため、これらの人たちと協力していくべきだ。また、海洋状況認識の強化・共有のため、海洋安全保障情報共有センターのようなものを創るべきで、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の海賊情報共有センターを発展させたようなものがほしい。そして、中国の攻勢が止まない場合は、航行の自由作戦への参入も考慮すべきだろう。
 中国がこのような政策をやめてくれれば、「一帯一路」自体は悪い政策ではなく、日本は慎重な対応をしていけば良い。ただ、10月26日の「日中第三国市場協力フォーラム」における安倍総理のスピーチを読むと、一帯一路やアジアインフラ投資銀行(AIIB)という言葉は一度も出てこなかった。この辺については、考えていく必要がある。しかし、中国はどうも自国の西部開発、陸封地域の海への出口と過剰な生産力の輸出の捌け口、そして先ほど述べた鉄道附属地の開発にそれを使いたいのではないかと私は見ており、これでは駄目だ。
 習近平国家主席が今年、フィリピンへ行った際、直前にフィリピンの主要紙に、国民に対するメッセージの論文を出した。その中に「ASEAN成長地域を支援したい」という言葉があったが、ASEAN成長地域には北のトライアングル、東のトライアングル、南のトライアングルの3つがある。このうち、フィリピンが入っているのは東のトライアングルだが、成功しているのは南のトライアングルだけだ。要するに、元々良い港や外資を惹きつけられるシンガポールがあり、ここから近いところに投資して、それらの国が労働力を提供したので南のトライアングルでは成功した。これは情報や投資を呼べる国があり、分配できるようなところでなければ、うまく行かないということだ。フィリピンも含む東ASEAN成長地域にも参加したいというのが、中国側の意図のようだが、困難がありそうだ。やはり慎重に行い、お金がしっかり戻ってくるようなところだけをやるべきだろう。一帯一路はどうも実線でつながったものにならず、九段線と同様に、所々で切れる段線となりそうだ。
 今後、日本が中国と一緒になってASEANを支援する場合も、投資できる環境整備が必要であり、日本企業はASEAN側パートナーの要望と参入条件を慎重に考慮することが重要になる。中国は(ASEANを含め、アジアには)投資の需要があるとよく言うが、日本政府はODA卒業を控えたASEAN諸国の有効需要を増やすため、経済学の言葉で言う潜在的な需要を有効需要にするための、援助や投資のあり方、組み合わせ方を研究すべきだ。最後に、経済利益と安全保障は取引できるものでない。これは日本においてもASEANにおいても同様だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


IISTサポーターズ(無料)にご登録いただきますと、講演会、シンポジウム開催のご案内、2010年度以前の各会及びシンポジウムページ下部に掲載されている詳細PDFとエッセイアジアをご覧いただける、パスワードをお送りいたします。

担当:総務・企画調査広報部