新連載(5回シリーズ)

アジア成長企業研究
(株) 三菱総合研究所
海外開発事業部主任研究員 小 林 守
TCLと中国家電市場の現状 
〜中国「代表的華南家電メーカー」の発展と戦略〜

はじめに:日本メーカーと対等連携する中国メーカーの出現
 中国の家電メーカーが急速に成長を遂げている。代表的な企業として海爾(ハイアル)、上海広電、TCLが上げられる。また、個別製品に強い企業、例えばカラーテレビでは長虹、康佳、創維などの名前があがる。このなかで、特に日本企業にとって今年、話題になっているはなんといっても、日本の家電メーカーと包括的な連携1を成立させた海爾とTCLであろう(表1参照)。
 山東省を本拠地とする海爾については報道されることが多いので、本稿ではこのうち、あまり日本ではなじみのない広東省のTCLについて取り上げたい。

1.委託加工の地「華南経済圏」の家電メーカー、
          TCLの総合家電メーカーへの道のり
 TCLは2001年、創立20周年を迎えた。2000年度決算では売上177.5億元(約2,663億円)2、税引前利益13.3億元(約200億円)。2001年に売上204億元(3,060億円)そして、2002年上半期は売上90.2億元(1,353億円)、税前利益9億元(135億円)と好調である。いまや、中国の総合電機メーカーの中で売上高で第四位である。もちろん、日本の松下電器700億ドル(84,000億円)規模、韓国三星電子500億ドル(60,000億円)規模、韓国LG電子260億ドル(31,200億円)規模と比べれば、TCLの売り上げ約3,000億円はまだ桁違いに小さい(海爾の売り上げですら400億元、即ち6,000億円である)。しかし、設立から僅か20年という時間をみれば急速に世界の代表的な家電メーカーにキャッチアップしているといえる。
 TCLは1981年に創立され、録音テープの生産から事業をスタートした。安い労働力のみを強みとし、香港中小メーカーからの委託加工工場とほとんど変わらない、いわば「町工場」からスタートしたのである。しかし、電話機の生産・販売で頭角をあらわし、創業10周年を過ぎた1992年にはカラーテレビ生産に進出した。さらに、1990年代末には台湾企業との合弁で情報機器分野、すなわちコンピュータ生産に展開した。いまではカラーテレビ生産では長虹、康佳、創維を上回わる程になった。
 TCLを含めた中国家電メーカーの急速な発展の手法面での特徴は中国市場の拡大に留まらず、@国際化と企業買収、そしてAI T化への積極的な推進にある。
 まず、国際化の方は、中国の家電メーカーは国内市場の制約に加えて、WTO加盟による外国製品の輸入増という脅威に備えるためという意味もある。すでに、部品の国際的な取引き市場になっている香港でのオペレーションに経験をつんだ有力な中国家電メーカーは、海外市場や成長力のある情報通信分野に企業買収を通じて打って出る方向にある。例えば、TCLの「企業買収→外資との合弁→分社化→集団化→統合→深セン株式上場→香港企業買収」、同じく広東の科龍電器3の「資本多元化4→香港H株上場」、山東省の海爾の「海外工場展開」、北京の清華同方の「米国からの空調技術の導入→国内軍事無線メーカー・江西無線電廠の吸収」である。
 こうした国際化は折りしも、TCLが中国輸出入銀行から輸出の融資枠をもらうことに現れているように、中国政府がこの分野の海外展開、海外直接投資を後押ししていることも追い風となっている。現在進行中の第10次五ヶ年計画(2001年〜2005年)は家電産業にとって、「海外市場への本格参入」という期待をかけられている時代となっている。
 
1. 自社設計品の相手先ブランドでの供給
2. 1元=15円、1米ドル=120円で試算 
3. 広東の郷鎮(町村落)企業から発展。2002年にカナダの冷却材メーカー、
 グリンカルに買収された。
4. 国有企業などからの資金調達に留まらず、民間資金、海外資金など多様な
 資金ソースから資本を取り入れること。
 
表2:広東省の家電メーカー、TCLの略史
資料:TCL集団有限公司の年次報告書および「IT経理世界」2000年第13期等より筆者作成
TCLの歴史
1980 ・広東省恵陽地区機械局が恵陽地区電子工業公司を設立。TCLの遠源となる。
1981
・香港と合弁にて「TTK家庭電器有限公司」を設立。録音テープを生産。
1985 ・香港と合弁にて「TCL通信設備有限公司」を設立。
1986
・電話機の生産開始TCLのブランドを生産し始める。
1989 ・電話機の売上全国1位達成(今日に至るまで1位)
1990 ・企業買収を通じてリストラ。「恵州市電子通信工業総公司」となる。
1991 ・上海、ハルビン、西安、武漢、成都等に販売会社設立。全国販売網の構築。
1992 ・「TCL王牌」のカラーテレビを市場に出荷
1993 ・TCL王牌電子(香港)有限公司設立。
・ TCL通信設備股分有限公司が深せん証券取引所に上場。通信端末メーカーとして初。
1995 ・TCL通信設備股分有限公司ISO9001獲得。
1996 ・TCL集団、香港の陸氏公司のカラーテレビ部門買収。
1997 ・ TCL集団リストラにより、「TCL電話機」、「TCL王牌」、「TCL国際電工産品」の専業3企業を統合し、TCL集団有限公司。恵州市の国有資産授権経営試行企業となる。
・ TCL、河南美楽集団と経営統合し、「河南TCL―美楽電子有限公司」となる。
1998 ・ TCL集団公司、台湾致福集団とTCL致福コンピューター有限公司設立。情報産業に進出。
・ 中国輸出入銀行から輸出のための20億人民元のサプライヤーズ・クレジットの貸付クレジットラインを獲得。海外市場展開の基盤が固まる。
1999 ・ インターネット戦略(B to B:調達、B to C:販売)の宣言。
・ CIを導入し、企業価値の拡大に本格的に取り組み
・ TCL内蒙古設立
2001 ・ TCL中山空調機(広東)とTCLデジタル技術(無錫)設立
 
2.国内販売力強化としてのIT
 次のIT化であるが、これも「生き残り」のための必死の展開である。WTO加盟前後の中国の家電市場の競争は熾烈であった。1996年ごろから、各社の生産が本格稼動したことによる供給過剰、そして、WTOへの中国の加盟により輸入家電品が自由に輸入されることを期待した消費者の「買い控え」により、価格競争に突入した。1990年代のトップ企業、長虹はその生産能力の優位性を生かして、低価格路線をとったが、それが限界になり、在庫を抱えて大幅減産になったほどである(表3参照)。
 「勝ち組」の筆頭、海爾は徹底した顧客への訪問サービスで消費者の支持を得たが、TCLが注力しているのはむしろ、ITを活用した販売網の活用である。これによって販売チェーン店、サービス店への固定費(施設費、人件費等)の大幅な節約ができるからである。中国の家電が電子商取引での主役を演じると期待される理由は他にもある。
 米国では消費の65%がクレジットカードで行われているが、中国ではわずか2%である。最近のI Tブームで中国でも電子商取引で多くのネット販売網ができているが、実際に利用されているケースはまだ、極めて少ない。ただ、ここ1、2年になって家電メーカーの自前の電子商取引ネットワークの構築が急ピッチにすすんでいる。1999年末TCLは自前のインターネット戦略を発表し、電子商取引のプラットフォーム設定が同社の国内販売戦略上の重要な戦術になってきた。もちろん、海爾もトップ企業として傍観しているわけではない。同じ時期に海爾がB to Xのプラットフォームを立ち上げ、B to B、B to C双方を統合した。この他では春蘭が2000年より、ネット上のチェーン店を組織し、康佳が2000年5月に「康佳連合電子商務有限公司」を立ち上げ、家電産品の販売だけでなく、旅行業、不動産の販売などにも乗り出しつつある。
 また、専門家電メーカーも同様な方向に動いている。洗濯機市場の約25%を占める小天鵝と広東の科龍電器は、ITを活用した戦略連携を発表した。同じ「白物家電」メーカーではあるものの、この2社は直接競合する製品を抱えているわけではないため、戦略提携は調達と販売(電子商取引のためのインターネット上のプラットフォーム構築)の両面で双方にメリットがでると判断したものである。すなわち、其々のおもな部品調達地である上海と深センにおける調達販売コストの削減とそれぞれが持っている顧客層を共有し、販売拡大に結び付けることができれば、競合ぜす、なおかつ付加価値の高い新たな製品ラインへの拡大を通じた価格競争の影響回避をする戦略である。
 組み立てのための下請け工場の地、広東からもTCLのようなOEM、さらには独自ブランドで先進国メーカーと国際市場で競争・対等提携できる家電メ−カ−が現れてきた。これはまさしく、情報家電において台湾メ−カ−が1990年代にたどった道とも近似している。同じ家電産業発展のプロセスを2000年代に有力な中国メーカーがたどる可能性は日に日に大きくなっている。
 
 
―BACK―