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東日本大地震の衝撃とそのダメージからの回復に向けて | 日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授 井出 亜夫【配信日:2011/4/28 No.0194-0793】

配信日:2011年4月28日

東日本大地震の衝撃とそのダメージからの回復に向けて

日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科
教授
井出 亜夫


 東日本大地震から私たちは何を学ぶべきか。今次災害は、現代の科学技術、ライフスタイルのあり方を考える契機でもあり、また、この機会に私たちは、社会の連帯に係る知識と経験を蓄積し、新しい社会システム、新しい公共を形成しなければならない。


 例年、春うららのこの時期には、日本列島を桜前線が北上する中で、人々の心は浮立ち、また、各地で学校の卒業、入学を祝う祝賀ムードが漂うが、去る3月11日午後、東北地方太平洋沖を襲った大地震により、事態は一変してしまった。地震による犠牲者の霊に謹んで哀悼の意を捧げるとともに被災者の皆様に心からお見舞いを申上げたい。
 今回の地震は1995年阪神淡路大震災の被害をはるかに越える災害であり、日本近代史を振返ってみれば、関東大震災、第二次大戦の戦災に続くものであり、私自身が経験する人生最大の災害である。当面の被災者救援、ライフラインの確保に加え、日常生活への復帰、寸断された経済活動、サプライチェーンの回復等復旧活動に国の全力を挙げて急がなければならない。また、その回復にはかなり長期間を要することを覚悟しなければならない。
 すでに今次震災の影響による直接的被害推計額として、GDPの3~4%にあたる15兆~20兆円の損害という試算もなされているが、こうした数量的把握は参考材料としつつも、ここでは、現代経済社会システムの問題をあらためて浮彫りにした今回の災害が私たちに何を語っているか、また、私たちはこの災害から何を教訓として学ばなければならないかを考えてみたい。
(人間と自然との調和)
 今次震災は大規模な津波を伴う想定をはるかに超える自然災害であった。産業革命以降人間は、科学技術の発達により様々な場面において自然を克服したと考えてきた。旧約聖書に出るバベルの塔は、人間のおごりを神が戒めた一節とされるが、今次津波は、人間が決して万能でないこと、自然との調和の中で存在できるものであることをあらためて私たちに痛感させた。また、ジャストインタイムとエネルギー大量使用で結ばれた現代経済社会の脆弱性をも浮彫りにさせ、現代文明の根底にある物質主義と巨大科学技術信仰・依存に警告を与えたシューマッハーの経済科学思想「small is beautiful」を想起させた。
(国際的支援、反響とエネルギー選択、現代のライフスタイル)
 災害発生直後から、米国、フランスをはじめ多くの国から様々なレベルによる協力オッファーや救援隊の派遣がなされ、国民国家を超えた人間の共生意識の広がりを確認した。これはグローバル社会の進展の結果もたらされた現代世界における新しい現象である。
 一方情報化社会の進展により、この震災情報は瞬時に各国に飛交い、報道された。特に原子力発電というこの技術利用を巡って国際的にも是非が論じられている問題に伴う事故であり、その計り知れない影響に対する不安・警告を報ずるものであった。この点に関しては、スリーマイルアイランド事故、チェルノブイリ事故以来のものとして、今後、内外のエネルギー選択においてより多くの人々を巻込んだエネルギー路線選択と安全性の論議が展開されることになるだろう。
 地球温暖化問題は一方において原子力発電の促進に援護の材料を提供してきたが、原子力発電推進の立場をとるドイツメルケル首相は、安全管理で名高い日本の原子力発電所における事故であると言及しつつ、いち早く今後の慎重な対応を示唆している。そして今後は、大量のエネルギー使用と電力需要(電力化)を前提とした現代の産業構造、ライフスタイルの在り方についても新たな視点から内外の議論が惹起されることになるだろう。
(新しい公共の形成とそれを実現する政治のレベル)
 わが国においては、阪神淡路大震災を契機に全国から駆けつけるボランティアーの救助活動、NPO組織の存在が社会の中で大きくクローズアップされたことは記憶に新しい。それを契機にNPO法(特定非営利活動促進法)が成立し、政府部門、企業部門に続く第三のエマージング・セクターが日本社会に出現しつつあり、現在4万を上回るNPO法人が活動している。今回の援助活動においても政府、自治体の救援活動とともに、NPOの活動が紹介され、社会の新しい連帯の姿を見ることができる。
 時あたかも日本経済社会のパラダイムシフトの中で、新しい公共の形成が模索されている。今次災害に見られるような大規模な危機管理と対策は、一国の政治のレベルが試される一大場面である。サミュエル・スマイルズは「自助論」において一国の政治のレベルは国民のレベルを反映すると述べているが、今回の大災害の中から私たちは、既存の縄張りを越えた新しい公共を形成することができるか日本の政治のレベルが問われている。
(非被災者の責務)
 東洋の格言に、「塞翁が馬、災いを転じて福となす」がある。この大惨事、困難を克服する過程において、私たちは、社会の連帯に係る新しい知識と経験を蓄積するとともに新しい社会システム、新しい公共を具体的に形成し、世界に対しても発信しなければならない。それがこの惨事からの遭遇を免れた人々の務めであり、犠牲者や被災者に対する歴史的責務ではないだろうか。


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