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景気回復はいつになるか | 一般社団法人 共同通信社 編集委員 論説委員 大塚 清【配信日:2011/5/27 No.0195-0796】

配信日:2011年5月27日

景気回復はいつになるか

一般社団法人 共同通信社
編集委員 論説委員
大塚 清


 東日本大震災は、日本経済を大きく落ち込ませた。景気は秋ごろから回復に向かうという見方が大勢だが、電力不足、原発事故、復興財源調達問題などの不安要素が景気の足を引っ張りかねない。


 3月11日に東北、関東地方を襲った東日本大震災の発生から2カ月が経過した。未曾有の大震災で、およそ2万5千人の人たちが、尊い人命を奪われたり、行方不明になったりした。住み慣れた土地や家を失ったり、追われたりして避難している人は10万人近くに上る。
 東京電力の福島第一原子力発電所の事故は、一時の危機的状況から脱しつつあるとは言え、原子炉の冷却、安定化への道はまだまだ遠い。農地は津波と陥没によって冠水し、塩害に襲われた。本来なら田植えの季節を迎えているのに、農家が作付けを断念した面積は、農林水産省の推計で約2万ヘクタールに及ぶ。三陸沖は、黒潮と親潮がぶつかり、世界三大漁場の一つといわれる。しかし漁船の9割以上が津波によって流され、漁港も壊滅的な被害を被った。東北・関東にある工場が被災し、電機や自動車メーカーは部品を調達できなくなり、生産中止に追い込まれた。
 一方で、東北新幹線も4月末に全線が復旧し、東京と青森が結ばれるようになった。徐々にではあるが、道路や港湾の復旧の歩みも進んでいる。
 そんな中で、3・11後の経済の動きを示す指標が発表されている。しかし、その内容は目を疑うばかりだ。
 5月初めに発表された4月の国内新車販売台数は、前年同月比47%減の計18万5673台と、1968年の統計開始以来過去最低となった。3月の35%減に続く大幅な落ち込みだ。部品の供給網が寸断され、メーカー各社が生産を大幅縮小したことが響いた。自動車は部品が2万~3万点にも上る。一つでも欠けると組み立てができなくなってしまう。今回の震災で東北地方にある主要な部品工場が被災したため、トヨタ、日産、ホンダなどほとんどの自動車メーカーが生産中止に追い込まれた。
 自動車だけではない。3月だけをとっても全国の百貨店の売上高は前年同月比で14・7%落ち込んだ。外食産業市場も10・3%減と過去最大の下げ率。総務省の2人以上世帯の家計調査によると、1世帯当たりの消費支出は29万3181円となり、実質8・5%減で過去最大の落ち込みとなった。
 さて、大きく落ち込んだ景気は、いつ底を打って回復に向かうのだろうか。多くのエコノミストの見方によれば、4-6月、7-9月期はマイナス成長を余儀なくされるものの、サプライチェーンの復旧などにより秋ごろには成長軌道に入っていくとみられている。
 しかし、本格的な景気回復に向かうには不確定要素が多く、不透明感は強い。円高、原油高、資源・食料価格高騰などを別として、震災関連に限っても(1)電力不足(2)原発事故の収束への見通し(3)復旧・復興事業のための財源調達方法-の三つの不安が立ちはだかる。
 電力不足を緩和するため、東電は、電力使用のピークとなる夏に向けて被災した火力発電所の復旧・再開、比較的簡単に設置できるガスタービン発電機の増設を急いでおり、供給能力は5500万キロワット程度と震災直後の3100キロワットから大幅に回復する見通し。猛暑だった昨年夏のピークである6000万キロワットとの需給ギャップは500万キロワットに縮小した。経済産業省は、企業の節電目標を当初の25%から15%に緩和した。とは言え、節電が求められることに変わりはなく、生産への影響は決して小さくないだろう。
 電力不足の懸念は東日本だけではない。菅直人首相が大型連休の谷間の5月上旬、中部電力に対し、浜岡原子力発電所の運転中止を求めた。自動車をはじめとして製造業が集中する中部地方も電力不足に陥る不安が強まってきた。中電は震災後、東電に電力を融通してきただけに、首都圏の電力不足も一段と厳しくなる可能性がある。
 第二の不安である原発事故の収束も見通しにくい状況が続きそうだ。原発の安全宣言が出ない限り、地元福島県の人々はもちろん、東北や首都圏の消費者が警戒モードを解除することはなく、消費マインドは冷え込んだままとなるだろう。余震への警戒も同様で、マグニチュード8クラスの余震が1年先にも起こる可能性が指摘されており、なかなか消費者が耐久消費財を買う気持ちにはなれないのではないか。
 第三の復旧・復興財源はどうなるだろうか。内閣府は、今回の震災によるインフラの被害を16兆~25兆円と試算した。1995年の阪神・淡路大震災の被害額は約9兆9300億円だった。阪神・淡路大震災が兵庫県中心にした被害だったのに対し、今回の震災は青森から千葉県の太平洋側約500キロに及ぶ。阪神・淡路大震災の復旧・復興では当初1年間で、1994年度の第2次補正予算、1995年度の第1次、第2次補正予算と、3回の補正予算を組んだが、その総額は約3兆3000億円だった。
 今回の復旧対策として仮設住宅の建設や、がれきの処理費用として5月初めに成立した2011年度第1次補正予算は4兆円と、阪神・淡路大震災の1年分を既に上回った。政府は今後、本格的な復旧・復興を目指す第2次補正予算を編成する方針だが、その額は10兆~20兆円に上るとみられる。
 問題はその資金をどう調達するかにある。戦時とも言える国難なのだから国債に頼らざるを得ない。しかし国と地方を合わせた長期財務残高は2010年度末で870兆円と国内総生産(GDP)の1・8倍に上る。先進諸国で最悪の借金財政にある中で、さらに国債を増発すれば、長期金利が上昇して経済に悪影響を与えるだけではなく、国債の利払い費が増えるため一層の財政悪化に拍車をかけると財政当局は警戒する。
 しからば増税しかないのだろうか。「復興税」や「復興連帯税」が提唱されており、その有力な候補は消費税の引き上げだ。消費税は税率を1%引き上げれば2兆5千億円の税収増となるため、財源確保という点では所得税や法人税の増税に比べて優れている。しかし、消費税は逆進性がある上、消費を冷え込ませ景気にマイナス要因となる。即座に導入するにはリスクが大きいという指摘も多い。
 歳出の見直しや削減、特別会計からの剰余金の一時的繰り入れなども検討されているが、巨額の復旧・復興費を調達するのは難しいだろう。復興を成し遂げ、財政を再建するためには、被災地域に財政資金だけではなく、外国資本を含めた民間資本が流れるような仕組みづくりも必要だろう。サプライチェーンの寸断や電力不足による生産の縮小が、賃金の減少や企業の収益減につながり、それが個人消費の低迷や設備投資の減少につながるという悪循環を断ち切るためにも、短期的には国債増発に頼りつつ、将来の税収増につながる成長戦略を打ち出す必要があるのではないだろうか。
(2011年5月9日記)


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