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サプライチェーンの再構築で供給不安払拭を | 一般財団法人 貿易研修センター 国際交流部長 福良 俊郎【配信日:2011/5/27 No.0195-0798】

配信日:2011年5月27日

サプライチェーンの再構築で供給不安払拭を

一般財団法人 貿易研修センター
国際交流部長
福良 俊郎


 東日本大震災で被災した企業は生産設備等の復旧に懸命に取り組んでおり、7月までには生産拠点の9割が復旧する見通しとなっている。しかし、部品や原材料の調達難解消には時間がかかり、自動車やエレクトロニクス産業など震災の影響を受けた企業がフル操業に戻るのは、これよりもう少し後になるとみられる。一部企業の被災によって世界的サプライチェーンにほころびが生じた影響は大きい。顧客側の供給不安を解消するためにはサプライチェーンの再構築が必須であり、なかには海外顧客向けに新たな供給拠点作りが必要となるケースもあると思われる。


早い復旧スピード
 経済産業省は4月26日、「東日本大震災後の産業実態緊急調査」および「サプライチェーンへの影響調査」の結果を公表した。前者は被災地における生産拠点の復旧状況、震災後の業況等について製造業55社(素材業種33社、加工業種22社)と小売・サービス業25社を対象に実施したもの。後者は、企業ヒアリングにもとづき、サプライチェーンに係る主要企業の稼働状況や復興に向けた業界別の取組をまとめたものである。

 前者の「緊急調査」によると、回答製造企業の被災した生産拠点は、調査時点の4月15日までに既に6割強が復旧しており、向こう3ヵ月以内にはさらに3割弱が復旧する見込みである。他方、回答企業の3%は復旧に6ヵ月から1年かかるとしている。また、7%は復旧見通しを「わからない」とし、復旧作業が長期化する、あるいは復旧が困難であることを示唆している。

 地震および津波による人的・物的被害の規模を考えると、全般的な復旧スピードは早く、2007年7月の新潟県中越沖地震など過去の被災経験を生かしていると言えよう。

フル操業に戻るのはまだ先
 同調査における回答製造企業の多くは調達先の被災などにより原材料や部品・部材の調達に問題を抱えている。加工業種企業の76%、素材業種企業の65%が代替品の調達先を確保しつつある半面、加工業種企業の48%、素材業種企業の12%は代替調達先が見つからないものがあると回答している。具体的には化粧品原料(美白成分)、ゴム関連品、半導体・電子部品などである。なお、素材業種の12社と加工業種の7社は、代替調達先を海外としている。国内のサプライヤーは、復旧に手間取るようだと顧客を海外企業に奪われかねない。

 調達不足の解消時期について、既に十分な調達量を確保したとの回答は素材業種企業の8%、加工業種企業の6%に過ぎず、「10月までには解消」とする企業を含めても前者の85%、後者の71%に留まる。各社がフル操業に戻るまで、まだ時間がかかりそうだ。

 東北経済連合会によると、震災前の東北の景気は「厳しい状況のなかで持ち直しの動きが続いている」という状態だった。また、同連合会のアンケート調査(2010年10月)によると、2010年度下期の見通しは、売上高が「増加する」が20.3%であるのに対し「減少する」が41.0%に達しており、経常利益についても「増加する」14.2%に対し「減少する」47.6%と、収益に対する見通しは厳しい状況だった。震災によって宮城・岩手・福島3県を中心に経済活動全般の大幅な低下が予想されており、復旧費用は企業にとって大きな負担である。

東北企業の海外投資は全国平均以下
 被災企業はまず被災前の状態への復旧を目指し懸命な努力を続けているが、復旧後は被災前よりも災害に強い企業となって顧客の供給不安を払拭する必要がある。このためにはサプライチェーンの再構築が必須であり、製品によっては海外顧客にタイムリーに製品を供給するための体制を強化する必要がある。具体的には、(1)既存拠点の強化、(2)国内他地域への拠点追加あるいは在庫用施設の新設、(3)海外顧客の近隣地、あるいは第三国での拠点新設といった対応が考えられる。

 海外向け供給との関係で、東北企業による海外投資の現状を見ると、投資事例は多いとは言えず、国内平均を下回る。東北経済産業局によると、2008年3月時点で、海外に子会社・関連会社を保有する東北企業は90社で、保有率は5.9%と全国平均(16.8%)よりはるかに低い。1企業当たりの保有数も2.5社と全国平均(6.7社)に比べ少ない。東北製造企業の海外子会社・関連企業で多いのは電子部品・デバイス・電子回路製造業(41社)、情報通信機械器具製造業(33社)、生産用機械器具製造業(15社)の順となっている(表)。進出先はアジア(83.5%)が圧倒的に多く、北米は8.9%、欧州は6.7%に留まる。

東北製造業の海外子会社・関連会社数の推移
 
2003年度末
2005年度末
2007年度末
食料品製造業
6
8
14
プラスチック製品製造業
8
11
12
非鉄金属製造業
3
5
7
金属製品製造業
7
11
9
生産用機械器具製造業
4
7
15
業務用機械器具製造業
4
7
7
電子部品・デバイス・電子回路製造業
29
34
41
電気機械器具製造業
11
15
7
情報通信機械器具製造業
45
34
33
輸送用機械器具製造業
4
4
6
その他
17
22
17
138
158
168
(出所)東北経済産業局「企業活動基本調査(平成20年調査結果)」より筆者作成

 ちなみに、経済産業省が4月28日に公表した「2010年外資系企業動向調査」によると、東北地方は外資系企業*の進出も少なく、2010年3月末時点における東北6県への進出外資は合計17社にとどまる。これは東京都(2,100社)や神奈川県(258社)は言うに及ばす、静岡県一県(20社)よりも少ない。日本企業は1980年代から東北地方に製造拠点を次々と設立してきたが、こうした動きは外資には広がらなかった。

*直接投資統計などでは外資による出資比率が10%以上の企業を「外資系」としているが、本調査は基本的に、調査対象を「外国投資家が株式または持分の3分の1超を所有している企業」に限っている。

外需には海外投資で対応する傾向
 日本政策投資銀行は2010年6月の全国設備投資計画調査(大企業)で、海外投資の伸びが国内投資の伸びをはるかに上回り前年の減少分をほぼ回復する計画になっているとし、「外需には海外投資(特にアジアなどの新興国)で対応する傾向が強まっている」と指摘している。

 同様の傾向は経済産業省の調査からも伺える。同省が4月21日に公表した「第40回海外事業活動基本調査」によると、投資の決定要因において「現地の製品需要が旺盛または今後の需要が見込まれる」との回答が68.1%に達し、次に多い「良質で安価な労働力が確保できる」(26.2%)以下を大きく引き離している。これら2つの要因は2004年度には61.2%対46.7%だったが、年を追うごとに差が拡大している。製造業の海外投資は、輸出向け生産のために労働コストの安い国を探すタイプから進出先の市場に照準を合わせるタイプに切り替わってきていると言えよう。

 いずれにしても、今回の震災を契機に完成品メーカーなどの需要家は、調達リスクを低減するため調達先の分散化を図る傾向を強めると考えられ、部品・原材料のサプライヤーは対応が必要となる。海外の顧客を失うことなく取引を拡大し、さらには新規顧客を開拓するためには、海外も含めた供給拠点の整備が必要になる可能性が高い。こうした動きは必ずしも産業の空洞化と捉える必要はなく、顧客の維持・開拓から事業の拡大・発展に繋がるものと考えられよう。

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