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暗い鏡の中で - 見えない真実の姿 3月11日震災以後のマスコミ報道 | 翻訳家/コンサルタント マリー・スピード【配信日:2011/6/30 No.0196-0802】

配信日:2011年6月30日

暗い鏡の中で - 見えない真実の姿
3月11日震災以後のマスコミ報道

翻訳家/コンサルタント
マリー・スピード


 今年3月に福島第一原子力発電所で起こった非常事態が世界中を混乱に陥れた。特にこのような危機的状況ではマスコミにしっかりした情報提供が求められるが、3月以降の報道が必ずしもその期待に答えられなかった。ここで、日本国内外のマスコミ報道の問題点と、ブログという形の「私的」メディアについて考察することにする。


 今年3月に日本を襲った一連の災害、巨大地震と、続いて発生した同じく巨大な津波、さらに首都東京からわずか数時間の距離にある原子力発電所で起こった非常事態は、ニュースを見ていた全世界の人々を震え上がらせた。東北地方を悲惨な状況から立ち上がらせようと人々が苦闘していたまさにその時、福島第一原発の危機が世界中を混乱に陥れたのである。そして、第三者である2グループの人々にとっても原発の非常事態は全く他人事ごとではなかった。ひとつは放射能の影響を受ける地域に住む家族や友人の安否を確かめようとする日本国外の人たち、そしてもう一つは、実際に日本に居住し、留まるか去るかという重大な判断のよりどころとなる正確な情報を緊急に必要としていた外国人である。彼らにとって不幸なことに、3月11日後のおびただしいマスコミ報道と彼らの欲する情報にはややズレが生じていた。ここで、日本内外のマスコミ報道の問題点と、より信頼性の高い貴重な情報源になりうるブログという形の「私的」メディアの出現について考察してみたい。

 12年間東京に住んでいた私には、現在も仕事上や個人的なつながりがある。現在は1年のほとんどをニュージーランドのクライストチャーチ郊外で過ごしてはいるが、今もニュージーランド時間と日本時間の間あたりで活動している。このような訳で、発生の数分後には地震の第一報が、東京のオフィスビルで潜り込んだデスクの下から這い出してきたばかりの友人たちからのEメールという形で、私のもとに届いたのだった。文字通り数百万にのぼる通話の負荷で、その後間もなく電話網が機能停止に陥った。列車の運行も停止されたため、人々は徒歩で、あるいは果てしない交通渋滞を抜けてようやく家に帰りついた。東京もひどく揺れはしたものの、被害はほとんどなかったことをはっきり知らせるEメールがポツポツと入ってきたのは、それからだいぶ時間が経ってからだった。しかし、東京以北の状況は目を覆いたくなるほど悲惨で、テレビ画面には恐ろしい津波が田畑、村々、そして町全体を飲み込んでいく様子が映し出しされ、さらに岸辺に遺体が打ち上げられたというショッキングな報道が飛び込んできた。そして、大震災の全容がようやくわかりかけてきたとき、報道の焦点が福島第一原発で新たに広がりつつある危機へと移ったのだった。

 この危機が日本だけでなく国際社会に破滅的影響を及ぼす可能性を考えたとき、第一に求められるのは知りえた事実をしっかりと伝え、それらの事実を客観的に分析することだった。残念ながら、福島第一原発に関するニュージーランドのマスコミ報道は「破壊された原子炉」「現代の黙示録」「放射能を避けて多数の住民が避難」といった類型化された見出しに終始していた。これらの見出しの下の記事は曖昧で、細かい点で矛盾が見られることさえあった。破壊されたのは原子炉なのか、建物なのか、それとも原子炉を収納していた建物なのか。原発内諸施設の互いの位置関係はどのようになっているのか。一つの建物で起きた事故は他の建物にどう影響したのか。「メルトダウン」などの言葉は実際に何を意味するのか。これだけ多くの疑問点が湧きあがっているにも関わらず、訳された日本の原子力専門家や電力会社幹部のコメントは、曖昧で不明瞭で妙に消極的であり、まるで彼らが深刻な状況を隠蔽しようとしているかのようにみえた。

 海外でのセンセーショナルな報道と、落ち着いた対応を心がけようとする日本国内の意識との間に挟まれ、多くの外国人がパニック状態で日本から脱出したり、脱出には至らないまでも南へ移動したりしたことは全く驚くにあたらなかった。ある知人は妻と2匹の犬を連れてニュージーランドに永久帰国することを直ちに決断したが、土壇場になって大阪に長期滞在する方法に変えた。クライストチャーチに住むある一家は、心配した親戚や友人たちからの電話を立て続けに受け、被災地から遠く離れた岐阜県で3カ月間のホームステイをしていた十代の子供を帰国させた。ニュース報道からでは状況がどれだけ深刻なのかを正確に判断できなかったのだ。しかし同じ頃、大都市東京を含め津波被害に遭わなかった地域で、多くの日本人と同様に現地情報を入手できた外国人達が計画停電の真っただ中で日々の生活をどうにか続けていた。特に、上手な脱出方法をもっていたと思われる日本在住の外国人の間で対応が分かれた原因は何だったのだろうか。大きな要因の一つが情報の質であったことは間違いない。もっと具体的に言えば、メディアには英語で入手できるタイムリーで詳細な説明が情報として流れていなかったことだ。

 まず、時間の問題を考察する。言葉の違う国で危機が発生した場合には仕方のないことなのだが、矢継ぎ早に展開する状況に関しての欧米の報道は、日本より何時間も遅れて報道されることが多く、時には何日も遅れることさえある。ほぼ毎時、インターネットで日本語の新聞報道で最終情報を入手していた私は、状況が突如悪化したという英語のラジオニュースを聞いて驚くことがよくあったが、そこでそのニュースが半日も前に起きていた事だと気付くのである。同じようにある晩は、「ますます表情が険しくなった」と実際は前日に行われた菅首相の記者会見を「最新」として流すテレビニュースを見て当惑させられた。

 日本のマスコミは確かに与えられた情報をより忠実かつ正確に報じた。原発のレイアウトの詳しい図解もあったし、放射能レベルの最新情報や原子力専門家の分析も報道され、より詳細な情報を報じることに成功した。それに比べて、海外の報道は人々の動向に焦点を当てることで満足していたように見える。その大抵は日本に留まり、極度のストレスを感じている外国人や、日本から脱出してほっとしている外国人の記事、最悪のシナリオであるメルトダウンの描写、スリーマイル島やチェルノブイリの話で興味を引く事であった。一方のメディアでは事態に深く関わる視聴者・読者に情報を提供して安心させようとしているようだが、他方のメディアは遠く離れた場所での大災害のニュースを売るという商売にいそしんでいると穿った見方をする者はそう考えるかもしれない。もう一つの問題は、反原発団体「Union of Concerned Scientists」、「Beyond Nuclear」、「Institute for Policy Studies」といった団体のコメントを詳しい検討課題を明らかにしないまま引用し、原発を憂慮する視点で書かれた記事を裏付けようとする傾向が一部のジャーナリストに見られることだ。
 日本の政府高官と電力会社幹部は、原発の危機を処理するという全体的な課題はさておいて、コミュニケーションに関しては確かにもっと積極的になることができるはずであった(また、間違いなくそうすべきであった)。失墜してしまった国民からの信頼が、将来に向けて何らかの教訓になることを願っている。他方で、政府高官が、最悪のシナリオが起こりうることを国民に知らせると同時に国民を安心させる必要に迫られた結果、具体的な事実と曖昧な発言で注意深く構成されたコメントを発していることにマスコミは気付かなければならない。意識的に曖昧化された発言を、起こるであろうことの予測、あるいはすでに起きたことの説明であるとジャーナリストが報じ、世界中で混乱と不安を引き起こすことは責任ある態度とは言い難い。そして、報道が完全に正確であったとしても、意に反してそこには異文化間コミュニケーションの問題が存在していた。英国のある翻訳家が指摘するように、マスコミが政府高官のコメントを日本語からほとんど逐語的に伝えたとしても、日本の公式発表によくある極端に儀礼的で消極的な構成のせいで、発表の形式を見ただけで責任を転嫁し、事実をごまかし、問題を隠蔽しようとしていると考える外国人もいる。
 日本の内外に住む友人たちから最新情報と説明を求められた私がそれらに答えるためにとった最終的な作戦は、日本の最新報道を定期的にチェックしてから、原子力工学に詳しく、政策アジェンダとの関係が薄い団体や個人が運営するブログも調べて、状況把握に努めた。特に、マサチューセッツ工科大学(MIT)原子力理工学部の学生が「福島原発の現況についての最新情報を提供するためではなく、一般市民が内容を理解し、矛盾するニュース報道を解読し、苛立たしさを感じるような歯切れの悪さを解決できるような形で、センセーショナルではない事実に基づいた技術者からのデータを提供するために」創設し管理する「MIT NSE Nuclear Information Hub」を頼りにした。ウィル・デイビス氏(元米国海軍原子炉オペレーター)が運営する「Atomic Power Review」も同じく最新データの綿密な分析を提供している。ニュージーランドの新聞、そして全世界の新聞の一面から福島第一原発のニュースはもう姿を消したが、これら2つのブログはどちらも貴重な最新情報を発信し続けている

 東北地方の状況が落ち着くにつれ、外国人も徐々に日本へと戻りつつあるが、原発の安全性には今も不安を感じ、夏場の電力不足を懸念している。経済産業省は、3月11日関連情報を提供する英語版Eメールサービスの立上げを通じてコミュニケーションの改善を試みてきたが、これも創設初期ではどのようにして言葉だけにとどまらず公報の意図をも日本語から英語に直して伝えるかという問題に悩まされていたらしい。原発の危機が英語環境で起きたならば、あるいは文化的な違いが小さい環境で起きたならば、英語でのマスコミ報道はもっとうまくいったと言って差支えないだろう。しかし同時に、マスコミは複雑かつ重大な問題を綿密に調査し、客観的に分析していると必ずしも信じるわけにはいかないという目の覚めるような教訓も得られたのだった。


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