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東日本大震災を乗り越える日本経済 | 株式会社 日鉄技術情報センター チーフエコノミスト 北井 義久【配信日:2011/7/29 No.0197-0803】

配信日:2011年7月29日

東日本大震災を乗り越える日本経済

株式会社 日鉄技術情報センター
チーフエコノミスト
北井 義久


 日本経済は東日本大震災の被害から予想以上に順調に立ち直っている。しかし、居座りを続ける菅首相の存在が日本経済の最大のリスクとして残されている。


 日本経済は、東日本大震災の影響による一時的な景気後退から予想外に順調に回復している。まず、5月の鉱工業生産指数は前月比5.7%増の88.8となり、6月は5.3%増が予想されている。6月が予想通りとなれば、生産指数は93.5と2月のピーク97.9を4.5%下回るに過ぎない。さらに、6月上旬の輸出額は前年同期比で▲1.3%と5月の前年比▲10.3%からマイナス幅が大きく縮小している。

日本の鉱工業生産指数
 この様に、6月時点で生産・輸出がほぼ震災前の水準まで回復した要因としては第一に、被災工場の復旧が順調に進んだことが挙げられる。例えば、自動車生産に大きなマイナスの影響を与えたルネサスエレクトロニクス那珂工場の生産再開は、3月末時点では7月末とされていたが、自動車メーカー各社の応援を得て6月1日に前倒しされた。一部の被害が甚大であった工場を除けば、4月から5月にかけて相次いで被災工場は生産を再開している。この様に生産再開がスムーズに進んだ理由としては、建築物に大きな被害を与える周期1~2秒の地震波が今回の震災では弱く、地震による工場建屋への被害が少なかったことを指摘することが出来る。さらに機械装置メーカーが、被災工場内機械設備の修復・調整を最優先で行ったことが生産の回復に大きな貢献を果たした。
 第二に、東京電力の計画停電が3月29日以降実施されなかったこともプラスに働いた。計画停電実施中は、被災の有無に関わらず東京電力管内の多くの工場が操業停止を余儀なくされており、このことが3月の鉱工業生産激減の理由の一つであった。この障害が取り除かれたことで、生産の正常化が一挙に進んだ。
 第三に、サプライチェーン混乱の主因であった倉庫の復旧も4月半ばまでにほぼ終わった。地震による揺れにより東北・関東地方の殆どの倉庫内の商品が散乱し、自動搬送装置が破損したことで商品出荷に支障が発生した。しかし、人海戦術による復旧と配送機能維持により、サプライチェーンの混乱は短期間で収束した。サプライチェーンの混乱とされている事態の主たる原因は倉庫機能の停止であり、在庫管理の高度化そのものは大震災後の混乱を最低限に抑えることに貢献している。
 第四に、電力不足が経済に与えるダメージが回避可能となった。まず、計画停電の実施と経費節減意欲の高まりから節電への取り組みが加速し、関東地方の主な事業所・工場では5月時点で20~30%の節電が既に実行に移された。さらに東京電力の7月末における発電能力は、3月末の発表時点では4,650万kwに止まるとされていたが、4月に5,200万kw、5月に5,520万kwに上方修正され、7月初め時点で最終的に5,680万kwとなった。7月に入ってからの電力需要が1,000万kw前後前年を下回っていることを考慮すれば、昨年の最大需要5,999万kwに対して、今年の最大需要は5,000万kw前後に止まると考えることが可能であり、5,680万kwは十分な供給量となる。また、定期点検中の原子力発電所の再開が遅れる場合でも、関東地方での節電ノウハウが他の地域で生かされることから日本経済が電力不足で混乱する可能性は低い。
 第五に、海外における日本製品に対する風評被害は4月半ばに峠を越え、5月には輸出に対するマイナスはほぼゼロとなった。放射線に対する不安から、一時的に日本製品に対する受け取り拒否、外国船の日本への寄港拒否などの動きが生じたが、福島原子力発電所事故が徐々に解決に向かいつつあることが理解されるにつれて、日本製品への風評被害は解消に向かった。
 この様に、生産・輸出の持ち直しが進む中で、内需は乗用車・旅行を除けばほぼ正常状態に戻り、家電・食品スーパー・コンビニの売上は好調を維持している。5月の乗用車販売台数は年率3.1百万台と4月の2.3百万台を上回ったものの、供給能力不足から11年2月の3.8百万台に届いていない。また主要旅行業者の国内旅行取扱高は、高齢者を中心に外出・遠出を控える傾向が続いていることから2月の年率3.8兆円から3月2.7兆円、4月2.9兆円と大きな落ち込み余儀なくされている。

日本の大手旅行業者国内旅行取扱額
 一方で、薄型テレビ出荷台数は、11年第1四半期平均の年率21.8百万台に対して、4月23.8百万台、5月24.8百万台と高水準を維持しており、エアコン・冷蔵庫の出荷台数も高水準を続けている。これは、7月にアナログテレビ放送が終了する予定でありテレビ買い替え需要が高まっていること、計画停電の実施や政府のキャンペーンにより国民の省エネ意識が高まり、節電効果の高い最新家電製品への買い替えが進んでいること、による。さらに、チェーンストア・コンビニエンスストアの販売額も4・5月と前年比でプラスを続けている。消費者は、震災直後の物不足を経験したことで、家庭内に十分な食料品・家庭用品を備えておく姿勢を崩しておらず、このことが小売売上高にはプラスに働いている。
 また5月の住宅着工戸数は年率815千戸と4月の798千戸を上回り、民間機械受注も4月の年率10.2兆円から5月は10.6兆円に増加した。住宅投資・設備投資は、リーマンショック後に急落した後、底這いから徐々に持ち直す動きを維持している。特に設備投資に関しては、企業が豊富な手元資金を維持していること、大震災の影響が一巡すれば企業収益が過去最高水準に近づくこと、から12年度に向けて拡大テンポが加速する可能性が高い。

日本の法人預金残高
 この様に日本経済は、甚大な震災被害から順調に回復しつつあるが、政治の不安定性を先行きの懸念材料として指摘することが出来る。震災後の被害地と福島原発問題への対応で、行政能力の低さを露呈した菅総理大臣に対して与野党から厳しい批判が続いているが、菅総理大臣は辞任を事実上拒否している。このことが、国会審議の正常化の妨げとなり、経済活動にマイナスの影響を与えている。特に、点検中の原子力発電所の再稼働に関して、菅総理大臣が再稼働に後ろ向きなことが、電力需給の不透明さを増している。また仮に、菅総理大臣が解散・総選挙に踏み切るとすれば、立法活動はさらに数カ月機能しないことになる。居座りを続ける菅総理大臣の存在は日本経済にとって最大のリスクである。

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