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再生への模索-原発事故と福島県の産業・経済 | 福島民報社 編集局次長 安田 信二【配信日:2011/9/30 No.0199-0812】

配信日:2011年9月30日

再生への模索-原発事故と福島県の産業・経済

福島民報社
編集局次長
安田 信二


 東日本大震災から半年が過ぎた。東京電力福島第一原子力発電所の事故は収束の行方が見えてこない。原発が立地する福島県内の産業・経済界は事故に伴う企業の操業停止や、業績不振、風評被害への対応に翻弄されている。国や自治体から企業への支援、さらには東電からの賠償は満足できる状況にはなく、各企業は厳しい経営環境の中で再生への模索を強いられている。


 東日本大震災で大きな被害を受けた福島、岩手、宮城の三県の中で、福島県の復興は原発事故収束の行方に懸かっている。爆発などの重大な事態が再び起きる可能性は低くなったとみられるが、原子炉などの設備は安定した状況に至っていない。仮に原子炉が安定する冷温停止状態となっても、高濃度汚染がれきの処理や、県内全域に拡散した放射性物質の除去には気の遠くなるような歳月がかかる。
 「原発事故で取引が大幅に減った。損害賠償を求めたい」「製品の価格下落は賠償の対象になるのか」-。取引停止や受注減、価格の引き下げなどの風評被害に対する企業の悩みが毎日にように、県や東電の相談窓口に寄せられている。郡山市にある県ハイテクプラザには、県内の企業が製品を持ち込み、放射性物質が付いていないかを調べてもらっている。
 計画的避難区域に立地している縫製会社は、政府の特例で区域内での事業継続を認められた。この会社の工場内の空間放射線量は低く、製品の安全性を取引先に強調してきたが、取引先からは「計画的避難区域の外で製造してほしい」と要望された。同社の幹部は「人体に影響が出るような放射性物質が製品に付着することはない。国の許可は安全の証しにならないのか」と訴える。国の姿勢が定まらないことが風評被害を広げた形だ。
 福島県の代表的な産業である観光業も大きな影響を受けている。会津若松市の鶴ケ城周辺には毎年5月から6月にかけて県外から大勢の児童・生徒が修学旅行などで訪れる。だが、本格的なシーズンを迎えても、児童・生徒の姿はまばらだった。昨年度は春先のシーズンの5月末までに約200校を数えていたが、今年は5月下旬までに30校程度だった。放射線量が低くても、児童・生徒が福島県に旅行に出掛けることに対して、保護者の同意が得られないことが背景にある。観光業の裾野は広く、土産品をはじめ観光客を乗せるバス・鉄道、旅館・ホテル、食材などのあらゆる業種に原発事故の影響が広がっている。
 福島県は2012年に大型観光キャンペーンを予定し、今年から準備を本格化させるはずだった。これまでの団体旅行と同時に、知名度が高まっている福島市の花見山、いわき市の海産物などの地域の資源を旅行に生かす新たな取り組みを企画に盛り込んでいた。「着地型観光」と呼ばれる約300件に上る事業は、大震災と原発事故で白紙にせざるを得ない状況に追い込まれた。

 かつてない苦境に立たされている福島県の経済・産業界は、政府と東電に賠償を求めている。これに対して、東電は8月30日、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の中間指針に基づき、賠償金支払いの基準などを発表した。例えば、加工・流通業の出荷制限損害については、販売を断念した数量に予定取引価格をかけて減収分をはじき出す。風評被害は、粗利に原発事故が原因とみられる売上高の減少率をかけて算定する。輸出に関しては、相手国の要求などによる検査費用や各種証明書の発行費用を支払う。製品などの廃棄や転売、製造の断念によって生じた減収分については、契約内容などに基づき算定する。
 東電の基準に対して、県内の企業からは「風評被害を認めたことは評価するが、会社が受けた損害をどこまで賠償するのか」「風評被害の範囲があいまいだ。それぞれの企業の実情を踏まえ弾力的に賠償するべきだ」などの意見が出ている。
 仮払いの対象となっている原発周辺の警戒区域などの事業者に対しては東電が8月30日現在で、約6700件、約78億円の仮払金を支払っている。東電は賠償金の支払い基準に基づき、近く本格的な支払いに入る。福島県と県内の59市町村、各業界の120団体は原子力損害対策協議会を設立し、原発事故で県民が被ったあらゆる損害の賠償実現を目指している。東電の支払い基準には県内の各企業から要望や不満が数多く出ているため、賠償金の支払いは今後も復興に向けた大きな課題だ。

 先が見通せない中でも、新たな一歩を踏み出す企業が出ている。インターネットサービス国内大手のヤフーと、同グループ傘下の企業が建設・運営する「新白河データセンター」の起工式が9月1日、白河市内で行われ、第1期工事が始まった。出席した福島県の佐藤雄平知事は「風評被害を払拭する機会となる。県を挙げてヤフーを歓迎し、本県再生のスタートとしたい」と喜びを語った。また、原発事故の警戒区域で操業していた精密プラスチック製品会社が区域外に工場施設を確保し、震災前に使っていた生産設備を運び出して操業を始めるなど、原発周辺地域でも、企業の積極的な取り組みが出始めるようになった。

「新白河データセンターの起工式 / 福島県白河市」

「新白河データセンターの起工式 / 福島県白河市」


 県は事業再開を目指す中小企業を支援する補助事業に取り組んでいる。空き工場や店舗を使う事業再開、施設の建て替え・修繕などを補助する事業で、1400件の申し込みがあり、約67億円規模の補助を予定している。いったんは締め切られたが、補助制度の継続を求める要望が根強く、県は追加募集を検討している。
 原発事故や大震災からの復興は緒に就いたばかりで、先行きを見通せる段階ではない。野田佳彦首相は就任時に「福島の再生なくして日本の再生はない」と表明した。県内の産業・経済界は首相の言葉通りに政府が積極的な施策を迅速に展開することを期待している。

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