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【被災地中小企業の海外販路開拓の取組みとジェトロの震災復興支援事業】 株式会社モビーディック~進化するウェットスーツでアジアへの参入を目指す~ | 日本貿易振興機構(ジェトロ)仙台貿易情報センター 所長 中川 明子【配信日:2011/12/27 No.0202-0824】

配信日:2011年12月27日

【被災地中小企業の海外販路開拓の取組みとジェトロの震災復興支援事業】
株式会社モビーディック~進化するウェットスーツでアジアへの参入を目指す~

日本貿易振興機構(ジェトロ)仙台貿易情報センター
所長
中川 明子


 東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市。そこに所在する中小企業がジェトロの震災復興支援事業を活用して、新たな海外販路開拓へ挑戦している。


 3月11日に三陸沖を震源として発生した東日本大震災は、宮城県石巻市に甚大な被害をもたらした。宮城県全体での死者・行方不明者数は10月末時点で11,455人であるが、県内の市町村のなかで石巻市の被害が最大で3,868人に上る。また、地元の七十七銀行の試算によれば、震災により同市のGDPの4割強が失われたとなっている。この想像を絶する被災の地において、震災後も優れた技術力やサービスを基本に、海外も含めたビジネスを積極的に展開している企業をご紹介したい。

【マリンウェットスーツの国内トップ、株式会社モビーディック】
社長の保田氏

社長の保田氏

 石巻市は三陸沖の豊かな水産資源を享受する水産業の町である。ここに、マリンウェットスーツを生産販売する株式会社モビーディックは1963年、現代表取締役社長保田守(やすだまもる)氏の父君によって創業された。当時、まだこの種の製品が世界でもあまりなかった頃で、地元の養殖関係者などの漁業者からの要望があり開始されたものとだという。現在では多くのマリンスポーツ・レジャー用製品を生産しているが、当時はもっぱらすもぐりをする漁師のニーズに応えたものであった。その後、徐々に地域も広がり、東北以外でも販売するようになっていった。現在では、この種の製品において国内トップの17%以上のシェアを誇る。
 同社製品「フリーダムNZ」は、2009年10月、栄えある第一回みやぎ優れMONO認定製品として認定証を授与された。ウェットスーツは、水中での保温性、運動性が求められるが、保温性を確保するためには身体へのフィット性が重要となり運動性が落ちる。この相反する条件を満たす製品としてが「フリーダムNZ」が開発された。その最大の特徴は、「A.C.T」(解剖学的裁断技術)と呼ばれるもので、必要な部位にだけ必要な量のゆとりを持たせる裁断技術である。
優れた機能性を誇るウェットスーツ

優れた機能性を誇るウェットスーツ

同社の長年の経験と解剖学に基づいた技術がこのような形で結晶したといえる。

【海外ビジネスの歴史】
 同社の海外ビジネスの歴史は必ずしも順風満帆な航海ばかりでなかった。保田社長によれば、地方の小さな会社のブランドを知る人は少なく、積極的に海外で販売してくれるという人もいなかった。このため、自らが海外販売に乗り出そうと決定、米国、イタリアに販売のため現地法人を設立し、スタッフを数名配置した。米国については80年度初頭、イタリアについては90年代半ば頃と、こちらの面でもパイオニア的な取組みであった。これは市場調査も兼ねた試みであった。結果としてイタリア、ドイツでトップシェアの売り上げがあったものの、商材の種類が限定されたことなどから運営コストが高くなり、現地法人を維持することが困難となった。特殊な商材であったため、市場規模そのものが小さいということも原因の一つであった。
 現在では、世界に販売チャンネルを有するイタリアの代理店と契約しており、独自に現地法人を持っていた時と比較するとリスクは最小限となった。一方、商品ラインの取り扱い数が限定的であることや売り先として欧州が強いが米国はそうでもないなど、課題もある。これ以外に、韓国ではライセンス契約をして現地製造、販売をしている。

【震災被害と中国への展開】
端切れから作ったキーホルダー

端切れから作ったキーホルダー

 3月11日の東日本大震災では、立地が海沿いではなかった本社工場は無事であったが協力工場5社のうち2社が被災した。人的被害としては、協力工場の従業員の方1名が亡くなった。また、ダイビング機材などの輸入品の倉庫も流され被害金額は数億円に上った。現在は、被災した協力工場の社員を本社工場で雇用するなどして操業している。新工場建設も検討しているが、資金的に厳しいという。一方、うれしい支援としては、ウェットスーツの端切れで製造した小物類が人気で、復興支援として多くの注文があるという。

 そのような状況下で、同社はジェトロが実施した二つの震災復興支援事業に参加した。まずは、中国における一般消費財等の輸出促進事業であるアジアキャラバン事業(震災復興支援枠)だ。本事業は、上海をはじめとした中国の主要都市数箇所で展示会や商談会を実施するものだ。8月には保田社長自身が上海における商談会に参加し、中国側の旺盛な反応に手ごたえを感じた。当初、中国の海はマリンスポーツができる状態ではないため、つり用のスーツを持っていこうと計画していたが、実際は富裕層の若者の間でダイビング普及のきざしが認められた。きれいな海でマリンスポーツを楽しむため、上海から多くの人がフィリピンに行くという。
アジアキャラバンでの商談風景

アジアキャラバンでの商談風景

ただし、中国では、日本でのオーダーメイド価格は通用せず、中国用のモデルの開発と価格の設定が必要とわかった。日本のトレンドにあこがれる中国の若者に、日本らしいファッションセンスとこなれた価格を併せ持った製品の製造を検討している。本事業参加を契機に上海に代理店候補を見つけ、交渉中である。
 二つ目は、10月末に実施された宮城県とジェトロ仙台が主催する大連商談会だ。大連については、水産関係の養殖が盛んに行われているため、業務用スーツの需要があるのではないかとにらんでいる。現在、中国は健康増進ための食材としてナマコが大ブームとなっており、大連にはナマコの養殖業者が多い。彼らが着用しているのは旧式なゴムカッパに近いものであり、これに代わるものとして潜水スーツの需要を掘りおこしたいと考えている。

 保田社長は、国内レジャーは少子高齢化のため縮小していくため、海外市場の開拓が必須と語る。現在の輸出額が約1億円であるが、目標としてはこの倍の海外取引を目指している。震災被害の困難を乗り越えて、欧米のマーケットの次は、顧客志向と優れた技術力を強みとして、是非、アジア市場への参入を果たしてほしい。


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