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輸出機会拡大を通じて被災地・岩手の復興を | 日本貿易振興機構(ジェトロ) 盛岡貿易情報センター 所長 林 道郎【配信日:2012/02/29 No.0204-0833】

配信日:2012年2月29日

輸出機会拡大を通じて被災地・岩手の復興を

日本貿易振興機構(ジェトロ)
盛岡貿易情報センター
所長
林 道郎


 岩手県では、震災復興の支援から輸出拡大に向けた事業が様々実施されている。加えてジェトロは、放射性物質汚染風評に対する輸出対策を打ち出すとともに、海外広報展開にも注力。岩手県の本格的な復興に向け、海外市場開拓に向けた取り組みが着実に進められている。


 3月11日、あの東日本大震災――文字通り東日本を揺るがした歴史的大災害である。言うまでもなく岩手県は、沿岸部を襲った大規模津波などで宮城、福島両県と並び全国的に最も深刻な被災を受けた。これに対して、地元自治体を含め復興に向けた様々な取り組みが進められているのは、日々報じられている通りである。
 復興に向けた一つの視点は、経済面から地元企業の経営基盤を強化することにある。東北地方において全県に貿易情報センターを置く当ジェトロでも、震災復興に貢献するための地元企業の海外展開支援が模索され、その結果として、とくに輸出機会拡大の観点から施策が講じられてきた。

<輸出拡大に向けて商談機会を提供>
 ジェトロは、かねてより実施している輸出促進事業について、震災に対応する補正予算の適用やジェトロ独自の措置により、重篤被災地域の中小企業が容易に参画できる条件を多数整えた。このほか、地元からの要請に応じて特別に企画した例もある。それらのうち岩手県企業が実際に参加したものとしては、例えば別表のようなものがある。

ジェトロによる海外市場開拓支援企画例 (岩手県企業の参加のあったもの)
「食品試食商談会in香港」での商談風景

「食品試食商談会in香港」での商談風景

 この中で、香港での「食品試食商談会」では、岩手県内で県産食品を扱う8社・機関からなるミッションを派遣。香港は、日本の農林水産物等が金額にしておよそ1/4輸出される海外で最大の日本食市場であり、岩手県食品企業の関心は従来から高かった。こうした重要市場において品質の高い岩手県産食品の優位性を改めて現地バイヤーに訴える機会を提供したわけである。なお、この商談会は、毎年10月下旬に香港の日本人倶楽部において現地食品関連バイヤーに対する商談機会が設けられていたことを受け、その機を生かしたものである。商談会のみならず、有志の県内参加企業に対して事前の個別相談、ジェトロの香港事務所によるブリーフィング、地元小売店視察などの機会も設け、単なる机上の商談にとどまらず、市場の現状や背景情報を提供することにも力を尽くした。
 また、「大連商談会」には、伝統産品・生活雑貨や食品等を扱う県内中小企業7社が参加。岩手・宮城両県はかねてより県主導の商談会を開催してきたが、今回の震災から今年度は見送りとせざるをえなくなっていた。この商談会は、このような状況を受け、ジェトロが実施に全面的に協力するものとして改めて企画。この経緯から、準備・計画・広報を含め、実施にあたっては両県との密接な協力関係の下でなされている。例えば商談会で肝となる現地企業とのマッチングも、ジェトロと県の大連事務所両者による協力の賜物。例年の県主催商談会参加企業、ジェトロと県それぞれ固有のネットワーク、大連市政府や現地日本商工会議所・県人会等からの紹介など、幅広いルートを活用した。また、実施に先立ち東京から県内に専門家を招き、中国企業とビジネスを始める上での留意点などを開設する特別講座を事前に実施するなど関連情報収集の機会を設けた点は、香港の食品試食商談会などと同様である。
 これらの結果として、しばしば他県に勝るとも劣らない成果があがっている。また、これまで輸出にほとんど関心を寄せていなかった企業が海外展開に具体的な一歩を踏み出すに至った例を輩出していることも、注目に値しよう。

<放射性物質汚染風評被害への総合的な輸出対策にも注力>
 今回の震災の余波として今なお大きな問題を及ぼしているのが、原子力発電所事故だ。もっとも、岩手県では、幸いにして実際の放射能問題自体はさほど深刻ではない。県内を含めて意外なほど知られていないが、各県設置のモニタリングポストにおいて計測された空間線量(震災後の数値)を平均して比較してみると、岩手県は何と全国で2番目に低いのである(岩手より低いのは、実に沖縄のみ)。
 にもかかわらず、大震災のあった東北地方に位置する事実から想起されるイメージが先行してか、放射性物質汚染の疑いから県産品が忌避されることがある。とくに震災直後は、食品のみならず生活雑貨や機械部品などを含めて取引が円滑に進まない問題が生じた。岩手県と当所が貿易実績のある企業を対象に緊急実施した経営実態調査では、9月下旬の時点において26.2%が経営上の問題として「放射性物質汚染(風評)被害」を指摘した。うち、取扱商品に農水産物・食品を含む企業に限ると、この比率は実に50.0%に跳ね上がる。
――まさしく、風評そのもので、しかも深刻である。それだけに対策を講じるべき最前線にあり、対策による現実的な効果が大いに見込めるという認識から、当所では全国的にも最先端の情報集約を進め、とくに輸出に伴う問題を想定して“総合的な対策”を提案してきた。例えば、問題が顕在化しはじめた5月初旬、岩手県工業技術センターと協力して「輸出に伴う放射線風評被害対策セミナー」を開催。110名を集め、当地では極めて異例な大規模イベントとなった。この種の企画として全国初の取り組みでもある。なお、当所によるこうしたセミナー・講座は県内外を含めてこれまでに全国最多8回の実績がある。

<海外に向けローカルから情報発信>
 ただし、上述のように岩手県企業が力強く海外市場開拓を志し復興への歩みを進めていること、当地においての放射性物質汚染に実体が乏しくほぼ風評のみといってよいこと、などは、残念ながら海外ではあまり知られていない。このため、ジェトロでは、海外に向けて地域の実情を広報する取り組みもあわせて積極的に進めてきた。
 その一つは、海外メディアを通じた正確な情報を発信してもらおうという試みだ。例えば岩手県には、7月下旬に中国から、9月下旬に香港から、外国ジャーナリストを受け入れ。企業による輸出の取り組みといった通商・産業面にとどまらず、平泉の世界文化遺産登録の機も受け県内の観光資源についても紹介し、現地で報じられるに至った。
 このほか、中国で最大規模といわれる見本市「広州交易会」の機会を捉えて、岩手、宮城、福島の被災3県に焦点をあて産業・観光資源を紹介する機会も設けられた。ちなみにこの企画はそもそも日中政府間での合意に基づくもので、会場には中国側から温首相、日本から枝野経済産業大臣も臨席。こうした話題性も手伝って注目度が高く、中国・日本のみならず世界のマスコミから取材が相次いだ。

 岩手県では、本格的な復興に向け、海外市場開拓への動きが着実に進んでいる。

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