| 最新号 |この記事のカテゴリー: 東北復興 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


IIST e-Magazine (本記事の英語版はこちら)

大震災1年の東北の復興 | 独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)パリ・センター パリ・センター所長 元経済産業省東北経済産業局長 豊國 浩治【配信日:2012/04/27 No.0206-0839】

配信日:2012年4月27日

大震災1年の東北の復興

独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)パリ・センター
パリ・センター所長
元経済産業省東北経済産業局長
豊國 浩治


 震災から1年が経過し、東北経済は緩やかではあるが着実に回復。しかし、地域や業種によって事情は様々で、新たな課題も少なくない。政府は、2012年が復興元年になるように支援する方針。


 昨年3月11日の東日本大震災から1年が経過した。震災直後に、被災地、特に津波の被害を受けた沿岸部の被災地の惨状を見て、本当に復興できるのだろうかという気持ちになった。しかし、その後の関係者の大変な努力によって、東北の経済は緩やかではあるが着実に回復に向かっている。マクロデータで見れば、1月時点の東北6県の鉱工業生産指数は93.5となり、全国の95.3とあまり差がないところまで来ている。復興の関係で建設需要が旺盛となり、求人倍率は東北6県ともに震災前の水準を超えている。大型小売店の売上げも好調に推移している。
 しかし、こうしたマクロのデータだけでは東北経済の実情や本当の問題点はわからない。地域や業種によって事情は様々であり、また、震災からの復興の過程で明らかになった課題も少なくない。

鉱工業生産指数(季節調整済)の推移  震災からの産業復興の動きは、内陸部と沿岸部とで大きく異なる。内陸部では震災直後こそ生産の落ち込みがあったものの、思った以上に早く操業再開に漕ぎ着けた。岩手県では、工場の損壊に加えてサプライチェーンの断絶が影響し、3月の鉱工業生産指数は64.2に落ち込んだ。しかし、4月以降に急速に生産が回復し、概ね90ぐらいまで早い段階で回復した。ところが、夏以降は、80程度まで再び下がり始めた。震災の影響よりも、夏からの歴史的とも言える円高、ヨーロッパの経済不安、タイの洪水問題の影響が大きい。一方、沿岸部は震災からの復旧に時間を要している。宮城県では、3月、4月とも50を下回る数値になっている。宮城県は沿岸部に工場を多く持ち、今回の震災での被害は最大であった。ここに来て、よやく70を超した。沿岸部の大型の工場、キリンビールや日本製紙といったところが生産の再開に漕ぎ着けたことが、鉱工業生産指数の上昇につながっているが、沿岸部の水産加工等を中心になお再開に時間を要している企業が多く、他の被災県に比べて生産の水準は依然として低い。

宮城県石巻市の津波被害の状況  政府は補正予算で「中小企業グループ補助金」を制度化した。これまで、地震等で被災した企業への支援は融資に止まっていたことを考えると画期的な制度である。被災した中小企業の復旧費用に対して、国と県が4分の3を助成することとなった。また、津波の被災地などで工場や店舗を再建しようにもその場所にはすぐには建設できないといったケースがある。こうした事態に対応するために、中小企業基盤整備機構では工場建屋などの施設を提供する仮設工場、仮設店舗の無償提供制度を導入した。市町村と連携して仮設の施設を無償で貸与する事業で、既に300件近くが着工、200件以上が竣工して、順次、事業が開始されている。福島県の四倉工業団地に建設された仮設施設には、福島第一原子力発電所事故の関係で避難を余儀なくされた事業者70社以上が入居予定となっている。

仮設施設事業の事例
 東日本大震災では、中小企業の二重ローン問題が震災からの復興の大きな障害になると見られた。震災前から借り入れがあり、その借り入れで購入した建物や設備を津波や地震で失った中小企業にとって、工場再建のための資金の借り入れは、二重の負担となる。この二重ローン問題がある限り、工場再建は進まず、地域経済全体を崩壊させてしまうのではないかと懸念されたのである。グループ補助金や中小企業基盤整備機構の仮設工場等は、この問題の解消に大きな効果を発揮すると期待されている。補助金や仮設施設の無償利用によって、事業再開に伴う資金負担が大幅に軽減される。これに無利子や低利の融資を組み合わせ、さらに返済条件を工夫することで二重ローン問題が概ね解消されることになる。
 さらに、グループ補助金や各種の低利融資を用いても、既往の借り入れが多く、再建は厳しいという事例に対しては、産業復興機構といった債権買取の仕組みを導入した。被災した各県で事業者からの相談を受け付ける体制を整えたので、債権買取による事業再生が適当と判断されれば、銀行とも協議の上で買取を進めていくことにしており、既に実績も上がっている。

 このように復興のための枠組みとしての予算措置は概ね整備された。しかし、被災地の中小企業にとっては、まだまだこれからというのが実感ではないかと考えられる。東北経済産業局が調べたところでも、グループ補助金の事業の実施状況も、2月現在でも事業終了が4分の1に止まっている。宮城県の鉱工業生産指数が70程度に止まっている理由は、こうした被災地の実情を反映したものだと推定される。これらの予算措置については、2012年度に繰り越して運用し、復興が実現するように支援を続ける予定である。また、来年度予算も国として500億円を措置しており、2012年が本格的な復興の元年となるように支援を続けていくこととしている。

 最後に、復興の先の課題について触れたい。昨年7月に、東北経済産業局では、復興に向けたアクションプラン、東北経済産業局としての取り組みの重点事項をまとめた。そのコンセプトは、「震災からの早期の復旧・復興と同時に、強い競争力を持つ産業作りに取り組む。」というものである。震災からの復興に取り組む中にあっても、世界経済は大きく動いている。円高、新興国の追い上げなど、むしろ、事態は厳しさを増していて、被災地の企業といえどもこれを避けて通ることはできない。競争力のある産業集積作りが必須だとなっている。産業分野としては、トヨタ自動車の東北拠点化を踏まえて進めている自動車産業の集積作りなどが重点分野となるが、こうした先端産業に限らず、農水産業、伝統産業、さらには商店街まで、「競争力ある産業作り」はキーワードとなる。農産物や水産物、観光地など、東北には世界に負けない良いものがたくさんある。こういう分野こそ、「国際競争力のある産業」になりうる分野だと考えている。「復興」は、「元に戻すこと」だけではない。復旧・復興は急がなければならない。復興に時間を要している地域があり、政府の取り組みも強化が必要だ。しかし、その先、競争力のある産業作りまで実現しなければ、復旧・復興の先にあるもの、東北の地域の活性化と発展は実現できない。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(本記事の英語版はこちら)


| 最新号 |この記事のカテゴリー: 東北復興 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |