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復興への道、いまだ半ば~宮城・製造業の現実~ | 河北新報社 報道部 経済班記者 安野 賢吾【配信日:2012/07/31 No.0209-0851】

配信日:2012年7月31日

復興への道、いまだ半ば~宮城・製造業の現実~

河北新報社 報道部
経済班記者
安野 賢吾


 東日本大震災による巨大津波に見舞われた宮城県。その沿岸では工場再開の動きが徐々に加速している。ただ売り上げは十分に回復していないのが現状で、地元製造業の復興はいまだ道半ばにある。


 東日本大震災による巨大津波に見舞われた宮城県。その沿岸では工場再開の動きが徐々に加速している。ただ売り上げは十分に回復していないのが現状で、地元製造業の復興はいまだ道半ばにある。

 巨大津波に見舞われた石巻市の石巻工業港。日本製紙石巻工場の向かいに、溶接などを手掛ける宮富士工業という会社がある。従業員17人の小さな鉄工所だ。
 津波は工場内にも押し寄せ、2.5メートルの高さまで浸水した。溶接機など25台の設備は全滅。被害額は機械だけで1億5000万円に上った。

 受注は今、震災前を上回る水準まで回復した。橋脚の耐震補強など震災前から続く事業がけん引しているが、工場の復旧が進んだことが最大の理由だ。後藤春雄社長(65)は「設備はほぼ100%戻った」と強調する。工場内には溶接関連の設備に加え、鉄板を図面通りにカットするレーザー加工機も据え付けられている。

レーザー加工機も備え付けられた宮富士工業の工場内。設備はほぼ100%復旧し、売り上げも回復した=7月上旬、石巻市

レーザー加工機も備え付けられた宮富士工業の工場内。設備はほぼ100%復旧し、売り上げも回復した=7月上旬、石巻市

 設備の復旧を後押ししたのは「グループ化補助金」。国と県が合わせて復旧費用の最大75%を補助する。宮富士工業は地元や周辺の同業他社など計15社で「宮城県東部地域鉄工・溶接サプライチェーングループ」を組んで応募し、昨年12月に補助対象となった。
 採択されたのは第3次募集。その前の1次、2次は応募すらできなかった。3次募集を前にしてもグループ入りの声は掛からず、締め切り2週間ほど前になって、後藤社長自身が他社に「一緒に応募しないか」と呼び掛けたという。
 「同業者はライバル。自治体発注事業など入札では競争相手となってきた。でも私たちが復活しなければ、地元産業は立ち上がらないと考えた」と後藤社長は力を込める。

 グループ化補助金への期待は大きい。宮城県内では4次分までに65グループ(1192事業所)に総額1195億円の交付が決まった。それでも、まだ不足しているのが実態だ。5月に始まった5次募集には、県内147グループが計1430億円の補助を申請したが、採択が予定されるのはわずか23グループの290億円分。採択率は2割を切る水準にとどまる。県議会6月定例会の一般質問では「補助が受けられないのは不公平。このままでは地元雇用が守れない」と、沿岸部を地盤とする県議会議員から不満の声が上がった。
 石巻商工会議所も製造業や水産加工、運輸関係などの申請窓口となって応募したが、全てのグループが5次募集から漏れる見通しだ。
 国の予算は6次分で枯渇するとみられ、6次募集が行われるかどうかは分からない。石巻商工会議所の尾形輝雄事務局長は「グループ化補助金は復旧に最も効果がある。まだまだ望んでいる企業は多い」と事業継続の必要性を強調。「企業が再生しなければ雇用は戻らず、人口の流出にもつながる。地域の経済が回らなくなってしまう」と訴える。

 さらに交付決定を受けた企業の復旧も十分には進んでいない。東北経済産業局が2月に行ったアンケートでは、宮城県内でグループ化補助金の交付決定を受けた企業のうち、17.7%が復旧工事について「未着手」と回答した。東北経産局は「建築資材や作業員不足に加え、津波被害を受けた土地について、自治体の利用計画が定まっていないことも要因」としている。

 石巻市も同様で、震災で地盤沈下した沿岸部の一部で、土地のかさ上げ工事が始まったばかり。地元で笹かまぼこなど水産加工品の包装資材製造を手掛けてきた企業の関係者は「津波で全壊した工場の再建がようやく動き出したところ。現在は離れた場所にある仮設の倉庫に包装資材を仕入れ、取引先に配達する作業を続けている。従業員は10人ほど。震災前のように段ボールなどを製造し、従業員30人に戻すまではまだ時間がかかる」と嘆く。

震災で沈下した地盤のかさ上げ工事が始まった石巻漁港の岸壁。水産加工をはじめ周辺に立地する企業の本格復旧はこれからだ=7月上旬、石巻市

震災で沈下した地盤のかさ上げ工事が始まった石巻漁港の岸壁。水産加工をはじめ周辺に立地する企業の本格復旧はこれからだ=7月上旬、石巻市


津波で被災した車などが積まれ、震災の爪痕がくっきり残る石巻工業港周辺。奥で煙を上げるのは日本製紙石巻工場=7月上旬、石巻市

津波で被災した車などが積まれ、震災の爪痕がくっきり残る石巻工業港周辺。奥で煙を上げるのは日本製紙石巻工場=7月上旬、石巻市

 復旧を果たした企業の売り上げが思うように回復していないことも課題だ。石巻商工会議所が会員企業を対象に行ったアンケートでは、製造業の6割以上が「震災前より売り上げが減った」と回答した。「増えた」は約2割、「変わらない」は約1割にとどまったという。復旧、復興工事の特需に沸く建設業では7割以上が「増えた」と答えたのとは対照的な結果となった。

 それでも被災企業は懸命だ。工場設備のモーターなど電機機械の修理を手掛ける石巻市の及川電機は、石巻工業港近くに借りていた倉庫を改修して操業を続けている。旧北上川河口近くにあった本来の本社と工場は津波で全壊し、再建のめどは全く立っていない。
 倉庫での操業開始に当たっては、従業員が必要な設備を手作りした。海水に漬かったモーターの修理依頼に対しては、がれきの中にあった家庭用のバスタブを譲り受け、モーターの塩分を抜くための装置に作り直して対応した。モーターを乾燥させる設備は、鉄板を購入して大型冷蔵庫のような形に仕上げた。
 「うちには従業員の技術がある。みんながやる気になれば再生できる」と及川幸八社長(62)。漁船関係の電機設備の修理を含め、売り上げはようやく震災前の8割まで戻った程度だが、社長の長男で後継者の雅貴専務(37)は「工場関係など取引先をさらに開拓し、何とか震災前の水準まで戻したい」としっかり前を向く。
 震災から1年4カ月。被災地を除けば、震災は過去のことになりつつある。宮城県を訪れた関西本社の企業関係者は「被災地と東京、まして関西の間には大きな意識の差があるとあらためて感じた」と話す。補助金に頼るしかない資金不足の現実、復旧が遅れる間に離れてしまった取引先…。被災企業は今も悪戦苦闘している。


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