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見えてきた米国のエネルギー独立 | 株式会社富士通総研 経済研究所 エグゼクティブ・フェロー 根津 利三郎【配信日:2012/08/31 No.0210-0854】

配信日:2012年8月31日

見えてきた米国のエネルギー独立

株式会社富士通総研 経済研究所
エグゼクティブ・フェロー
根津 利三郎


 米国ではシェールガスなど国内でのエネルギー生産が拡大するが、他方中国では経済発展とともに石油輸入が急速に増大する。その結果は世界経済や地政学的関係に重大な変化を起こす。


<急激に減り始めた米国の石油輸入>
 米国経済のアキレス腱といえば慢性的な経常収支の赤字や財政赤字、そして家計の赤字という三つ子の赤字、というのが定説だ。このうち経常収支の赤字、すなわち米国が外国から借金をしている状況については、エネルギーの大量消費による輸入石油への過度の依存が大きな要因と言ってよい。だがこの数年来事情は大きく変わりつつある。米国における国内エネルギーの生産は急増し、2030年代にはエネルギーの純輸出国になる、という可能性が現実味を高めつつある。2005年時点では原油・石油で日量13百万バレル(Mbd)の輸入があったが2010年ではすでに9Mbdに減少しており、今後さらに減少することは確実視されている。

<主役は非在来型化石燃料>
 目下話題の中心はシェール・ガスと呼ばれる新しいガスだ。頁岩に含まれるガスの存在は古くから知られていた。今までこれを採掘する手段が無かったが、最近になって頁岩層に沿って水を高圧で送り込むことで、安価にガスを回収することが出来るようになった。わずか数年前までほとんどゼロだったシェール・ガスは現在テキサス州などで大増産されており、2035年には国内のガス生産の半分近くを占めることになりそうだ。確認された埋蔵量も年々増えており、2009年時点では年間生産量の20年分に相当する量が確認されているが、現時点ではさらに大きくなっている可能性が高い。

 ガスだけではない。減少し続けてきた国内での原油生産量が2005年を底に増加に転じた。これもシェール・オイルと呼ばれる頁岩に含まれる原油で、ノース・ダコタ州を中心に、カナダに近い中西部で生産が始まった。米国で最も過疎地であった同州は今オイル・ブームに沸いている。米国エネルギー省(DOE)が最近公表した見通しによれば、2020年までには1.2Mbd、2030年までには2Mbd増加すると見られている。さらにとうもろこしなどを原料にしたバイオ燃料も着実に増加しており、2024年までには1Mbdを供給するまでになる。加えて再生可能エネルギーも着実に進んでいる。米国は風力発電では世界一、太陽光では第四位の再生可能エネルギーの生産国である。2010年には電力に占める割合は日本と同じ10%であったが、2035年には16%にまで上がるであろう。

<エネルギー消費は増加が止まり、横ばいに>
 他方需要はどうか。ここで注目すべきはエネルギー効率の急上昇だ。米国は日本やヨーロッパに比べて、エネルギー価格が全般的に安く、国民の省エネ意識は低いと考えられてきた。確かに日本のように我慢してまで節約するという感じは無いが、米国で日本製の省エネ車が良く売れているように、年率1%程度の人口増加が見込まれるにも拘わらず、ガソリンの消費量はほとんど増えることなく、一人あたりのエネルギー消費量で見ると毎年0.5% づつ減少する。この背景には、CAFE( corporate average fuel economy)と呼ばれる自動車の燃費規制の強化がかなり効いている。米国のCAFEは1990年以降最近まで1ガロン当たり27.5マイルで横ばいであったが、オバマ政権になって2025年までに54.5マイルに向けて引き上げられることが政府と自動車産業界の間で合意された。その結果、ハイブリッド車が市場の3割を占めることになろう。そのほか住宅や民生、産業部門でも、今まで諸外国に比べて取り組みが遅れてきた分だけ、エネルギーの節約が進むことが見込まれている。DOEはGDP一単位を生産するためのエネルギー消費量は2035年までに42%減少すると見ている。

 こうして需給両面から米国の輸入エネルギーに対する依存度は低下し始め、2016年にはガスについて純輸出国になり、原油についても輸入量は減少し続ける。DOEは、エネルギー全体として米国の純輸入の見通しについては公表していないが、石油大手会社のコノコ・フィリップスは2025年頃には米国はエネルギー自給が可能になるとしており、またBPが本年はじめに公表したアウトルックでは2030年ころに米国のエネルギー純輸入はほぼゼロになると予測している。以上は米国だけで見た場合の話であるが、隣国のカナダでもシェール石油やガスの生産が増えており、カナダとしては北米大陸を縦断するパイプラインを建設するなどして、米国への販売の可能性を探っている。米加を一体的に考えれば、北米のエネルギー自立はさらに確実なものとなろう。

<ドルは再び強くなる>
 米国のエネルギー輸入がゼロ、あるいは大幅に減少する、ということの世界経済に対する意味は極めて大きい。先ず米国経済のアキレス腱のひとつである、経常収支の慢性的な赤字が劇的に減少する、ということになる。2011年の米国の経常収支は4700億ドルの赤字で、そのうちエネルギー輸入額は3300億ドルであった。仮に米国でエネルギー自給が可能になれば、米国の経常収支赤字は一気に1400億ドルに減少することになる。ヨーロッパ経済が弱体化し、米ドルが唯一の基軸通貨である現状では、この程度の米国の赤字では必要な流動性すら供給する額に届かず、世界は「ドル過剰」から『ドル不足』に進み、再び『強いドル』が復活することになる。地政学には混乱の絶えない中近東に対する米国のコミットメントはイスラエルを除いては後退することになろう。米国の財政赤字の最大の元凶とされる軍事費の削減も可能になるかも知れない。

<原油の調達に苦労する中国>
 米国に代わって世界最大の原油輸入国になるのは中国だ。中国も石炭やガスなど国内でのエネルギー生産の拡大に最大限の努力をするだろうが、急速な自動車台数の拡大で、ガソリンやデイーゼル油の需要は拡大が続く。これらは原油からしか生産できないが、中国での原油生産は大慶油田など主要な油田はピークを過ぎており、今後新たな油田の開発はあるにせよ、急増する需要には到底追いつけず、外国から輸入せざるを得ない。その量は1995年に純輸入国になってから今日まで毎年急増し続け、現在5Mbdと米国に次いで世界第二位の原油輸入国になっている。IEAの予測によれば、2035年には13Mbdと、最盛期の米国の原油輸入量に匹敵する世界最大の石油輸入国になる。中国はすでにアフリカや南米など海外での石油開発を強力に進めているが、それでもかなりの量を外国、なかんずく中東からの輸入に頼ることになろう。すると今までエネルギー源確保の観点から中東に深く関与してきた米国が去り、代わって中国のこの地域における影響力が高まる。

 米国とは逆に、中国のエネルギー輸入が増大し続ける結果、中国の国際収支は悪化することになる。正確には経常収支の黒字が減少するということだ。中国の経常収支の黒字はこのところ2000億ドル強の水準を維持しているが、エネルギー輸入は急増し続けており、昨年はついに経常収黒字を上回った。将来的にもエネルギー輸入は増加し続けることは確実だ。他方工業品の輸出は今後とも拡大するであろうが、中国における賃金の急上昇や、人民元の上昇から見て、輸出の拡大のテンポは少しずつ緩やかになって行こう。この結果、中国の経常収支は横ばいから減少に転じる可能性が高い。すでに人民元は今年に入ってドルに対して弱含みで推移しているが、これはこのような傾向を先取りしていると見てよい。

 エコノミストの多くは、米国経済は長期的に衰退し、代わって中国が世界経済の覇者として君臨することになるだろう、と予測しているようだ。しかし、筆者は全く逆の見方をしている。強力な中国の製造業も賃金の急上昇と周辺アジア諸国との競争で、しだいに競争力を失うであろう。これはかつての英国や米国、日本など、すべての国が辿ってきた避けられない発展経路だ。急速に進む高齢化も国民経済にとって重い負担になってくる。十年後には中国は増大し続ける石油代金の支払いに苦労するようになる。かかる事態を避けるためには中国が自動車の燃費効率を劇的に向上させるか、石油に頼らない交通手段を発展させるか、いずれかが不可欠である。

<自動車省エネ技術に勝る日本は有利に>
 自動車燃料は9割以上がガソリンやデイーゼルといった原油から採れる燃料だ。今後バイオ燃料やガス、電気などが増える可能性はあるが、全体としてみれば、予測可能な将来にわたって、原油の圧倒的な地位は不変だ。中国やインドをはじめとする新興国で自動車が普及することにより、原油の需要は拡大し続け、価格も長期的には1バレル100ドルを超える水準が続くであろう。とすれば自動車の燃費を改善する必要は今後さらに高まり、ハイブリッド車をはじめとする省エネ技術を多く保有している日本はかなりの競争優位を獲得することになる。電気自動車はこのような日本の自動車メーカーの優位性を覆す可能性を秘めているが、そもそも道路インフラの不十分な新興国では充填ステーション網の整備は難しく、電気自動車が世界の主流となる事態は当面予測されない。日本の自動車産業の優位性は長期にわたって続くのではないか。


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