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公約違反、国民不在の消費税増税 | 一般社団法人 共同通信社 編集委員 論説委員 柳沼 勇弥【配信日:2012/09/28 No.0211-0858】

配信日:2012年9月28日

公約違反、国民不在の消費税増税

一般社団法人 共同通信社
編集委員 論説委員
柳沼 勇弥


 消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法が、曲折の末に8月10日、参院で可決、成立した。現行5%の消費税率は2014年4月に8%に、15年10月に10%に、2段階で引き上げられる。しかし、消費税増税は民主党マニフェスト(政権公約)違反であり、民主、自民、公明3党による国民不在の談合の産物である。社会保障改革はほとんど棚上げにされ、「一体改革」は名ばかりとなった。長期デフレと円高に苦しむ日本経済は、増税で大きな打撃を受け、税収も減少する可能性が高い。日本は厳しい試練に直面することになるだろう。


▽マニフェスト破りは明らか
 09年衆院選の民主党マニフェストは消費税増税に一切言及しておらず、一体改革関連法が公約違反であることは明らかだ。民主党の一部には、増税を実施するのは14年度からだから公約違反には当たらないという主張もあったが、詭弁と言うほかない。野田佳彦首相も消費税増税関連法が成立した後の記者会見で、真っ先に「消費税率引き上げをマニフェストに明記しなかったことについて、国民に深くおわびする」と謝罪せざるを得なかった。
 公約になかった消費税増税を新たな政策として打ち出すのは、仮に公約違反でないとしても、重大な方針転換である。この場合、消費税増税関連法案を国会で採決する前に、衆院解散・総選挙で国民の信を問うのが、民主政治の原則だ。しかしその手順をとれば、民主党は総選挙で敗北する確率が高く、消費税増税は実現できなくなってしまう。
 反対に、消費税増税関連法を先に国会で成立させてしまえば、その後の解散・総選挙を経て発足する新政権が、消費税増税を取りやめるために法改正をするのは難しい。これが財務省の考えている筋書きだという見方が、何年も前から定説となっていた。事実、野田首相はこの手順を選択した。
 09年衆院選では、自民党が消費税増税に積極的だったのに対して、野田氏は「シロアリを退治して、天下り法人と天下りをなくす。そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしい」と強く主張していた。その野田氏が財務相を経て首相に就任したら、「政治生命を懸ける」と宣言して消費税増税に突き進んだ。財務相、首相ともに野田氏の前任を務めた菅直人氏も、首相として初の国政選挙である10年参院選で「このままでは日本はギリシャみたいになってしまう」と消費税増税を突然持ち出し、民主党の敗北を招いたことは記憶に新しい。
 財務省が野田首相をはじめ与野党の政治家を操って消費税増税を実現したという見方は、政治の現実を知らない「財務省陰謀論」とやゆされることがある。しかし、財務相を経験した後の野田首相と菅前首相の豹変ぶりを見ると、財務省が消費税増税の構想をデザインし、政界関係者に入念な根回しを重ねた上で、消費税増税関連法成立までの流れを主導した、というストーリーを全否定するのは難しい。

▽日本経済に深刻な打撃
 野田首相が消費税増税の大義名分として掲げたのは、日本の財政の健全化である。増税推進派の人々は、今のままでは日本の財政は破綻してしまう、いつか日本国債の信認が失われて国債価格が暴落する日が来る、と警鐘を打ち鳴らしてきた。確かに、日本の財政状況が極めて厳しいのは紛れもない事実だ。財務省が発表した6月末時点の国債と借入金、政府短期証券を合わせた国の借金は過去最大の976兆円に達した。12年度末には1085兆円と、初めて1千兆円の大台を突破する見通しという。
 しかし、今は増税にふさわしい時期だろうか。日本経済は4四半期連続でプラス成長を続けているものの、景気は急減速している。経済をむしばむ長期デフレは脱却のめどが立たず、為替相場では歴史的な円高が続いている。過去にデフレの下で増税を実施した例はない。欧州の債務危機も収束の道筋が一向に見えず、世界恐慌に拡大する危険性すらある。
 国内外の経済の現状を見ると、消費税率が8%に引き上げられる14年4月に、日本経済が欧州を震源地とする不況のさなかにある公算は、かなり大きいとみるべきだろう。不況と増税が重なれば、日本経済に深刻な打撃を与え、税収はかえって減少してしまう。財政再建どころか、財政悪化がさらに進行することになりかねない。

▽デフレ脱却を先に
 こうした事態を回避するためには、デフレを脱却し、名目経済成長率を高めて税収増を図ることを先行させるべきだ。その次に消費税増税を考えるのが、経済政策の正しい順番である。消費税増税関連法が成立した以上、後戻りは不可能と思われるかもしれないが、まだ針路を修正する余地はある。消費税増税関連法には、景気が急変した場合に増税を一時停止する「景気条項」が付則第18条として設けられた。これを活用することができる。
 景気条項には、「名目3%程度、実質2%程度」の経済成長率を目指すことが、努力目標として明記された。第1段階の税率引き上げの半年前に当たる13年秋ごろに、時の政権が経済状況を見て増税を実施するかどうか最終判断をするとされている。ここで経済成長率や物価上昇率の動向を慎重に点検し、デフレ脱却と景気の堅調が確認できない場合は、ちゅうちょせずに増税を見合わせるべきだ。
 景気の本格回復を待っていては永久に増税できないし、景気の現状を正確に見極めるのは難しいという意見がある。しかし、少なくともデフレかどうかは、消費者物価指数を見れば客観的に判定できる。消費者物価指数には1%程度の上方バイアスがあることを考慮し、2~3%の上昇率を増税の必要条件とすべきである。
 しかし、景気条項に盛り込まれた成長率は「努力目標」にすぎず、多少景気が悪くても増税は強行されるという見方が多い。消費税増税関連法案の衆院での採決に欠席した自民党の中川秀直元幹事長は、あるシンポジウムで「留保条項(景気条項)はないに等しい」と断言した。仮に時の政権が景気の低迷下で無謀な増税に踏み切れば、日本経済は当分回復不能なダメージを受ける懸念がある。まさに政治の英知が問われることになる。

▽手続きの順守が重要
 今回、大手メディアの多くは、異常なほどの熱心さで増税キャンペーンを展開した。最も驚かされたのは、民主党が批判されるべき点は、衆院選マニフェストを破ったことではなく、守れないようなマニフェストを作ったことだ、という論評である。確かに民主党のマニフェストには財源の裏付けが乏しく、その通りに実行するのは困難だろう。だからといって、衆院解散・総選挙という手続きを経ずに、マニフェストにない消費税増税を打ち出すことが許されるはずがない。
 中学の公民レベルのことを確認するなら、民主主義においては、たとえ結論が同じでも、そこに至る過程で手続きを順守することが重要である。消費税増税という「正しい目的」を実現するためには手続きを無視してもかまわないと考えるなら、それは危険なマキャベリズムであり、民主主義の原則の否定である。
 今回の消費税増税は、内容にも決定の過程にも多くの問題がある。大半の世論調査で消費税増税反対の回答が過半数を占めるが、野田政権はこうした声に耳を傾けず、増税に突っ走った。次の総選挙は、国民が消費税増税に対する自分の声を政治に反映させる機会である。

(2012年9月6日)

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