| 最新号 |この記事のカテゴリー: 東北復興 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


IIST e-Magazine

続く風評被害と信頼されるものづくり―木村ミルクプラント | 福島民報社 いわき支社 報道部 部長 五十嵐 稔【配信日:2012/09/28 No.0211-0859】

配信日:2012年9月28日

続く風評被害と信頼されるものづくり―木村ミルクプラント

福島民報社 いわき支社 報道部
部長
五十嵐 稔


 昨年3月に発生した東日本大震災の津波で大きな被害を受けた福島県沿岸部の復旧は少しずつながら進んでいる半面、東京電力福島第一原発事故の影響は依然深刻で、県内の産業界は今なお風評被害にさらされている。


 いわき市内で唯一、牛乳を主力にした乳製品の製造を手がける「木村ミルクプラント」は上水道の復旧を待って昨年4月に操業を再開した。自社商品は六割が昔ながらの宅配だ。残りは店舗に卸したり、自動販売機などで販売したりしている。
 原発事故前、宅配先はいわき市をはじめ隣接する双葉郡内などに六千軒ほどあった。原発事故後、原発が立地する双葉郡の住民を中心に多くの顧客が県内外に避難したため、宅配先は激減した。パートを含め従業員40数人も避難を強いられた。操業再開にこぎ着けた原動力は何だったのか。木村謹一郎社長(59)は「周囲の支えと従業員の力が大きかった」と振り返る。
 休業を経て真っ先に取り組んだのは、原乳の調達先の確保と顧客の安否確認だ。原乳は原発事故前まで地元いわき産を使っていた。しかし、原発事故の影響で県産の原乳が一時出荷停止になったため、岩手県産で賄った。
 安否確認には従業員が総出で当たった。一人も欠けることなく避難先などから会社に戻り、自社商品を愛顧してくれている客の家を一軒一軒訪ねた。当時はどこも著しい燃料不足に陥っていた。そうした中、取引先の業者がガソリンを特別に融通してくれたため、同社の車両はいつも満タン状態だった。こうした支援が安否確認をはじめ、手探りの操業再開を後押ししたという。
 当初、1000~2000軒で再開した宅配事業は従業員の努力と同社の商品への信頼から現在、4500軒程度までに回復した。乳製品だけでなくコメ、みそ、しょう油、サプリメントなど日々の暮らしや健康増進に役立つ商品も扱い、仮設住宅入居者にも配送して喜ばれている。
 ただ、完全復調とはいかず、減産状態が続いている。原発事故前までは1日3トン、1リットル瓶で3000本を製造・出荷していた。事故後は1日2.5トン、1リットル瓶2500本で、工場の稼働日数は従来の週6日から週4日に減らしている。
 同社は再興に向け、コスト削減と合わせて商品のアイテムの充実、新商品開発などに力を入れている。ジェラートの自社製造設備を導入して種類を増やしたり、酒蔵と連携してヨーグルトリキュールを新発売したりと意欲的だ。
 同社の前身は「木村牛乳店」で大正元(1912)年に創業した。木村社長で3代目になる。「健康を創造し、幸福を届けることを使命とし、信頼される食文化の伝承者であり続ける」を社是とし、消費者や地域からの「信頼」を何よりも重視する。

信頼を重視した商品づくりに努める木村社長

信頼を重視した商品づくりに努める木村社長

 国内の牛乳は多くが120℃以上で1~3秒殺菌する超高温殺菌処理で製造されている。同社は85℃で15分殺菌し、冷却貯蔵するパスチャライズ製法を採用している。牛乳はガラス瓶に詰めて出荷しており、雑味のない牛乳本来の味を楽しめるとあってファンは多い。
 原発事故に伴う放射性物質検査も徹底し、商品の安全に万全を期している。未検出の結果を顧客に知らせ、ホームページでも随時公表している。
 福島、岩手、宮城の被災3県が東京都内に設けているアンテナショップには震災直後、「特産品を買って被災地を応援したい」と全国から客が訪れた。しかし、震災から1年が過ぎたころから客足に陰りが見え始めている。福島県の八重洲観光交流館では、昨年4月に4000万円程度の売り上げを記録したのをピークに徐々に落ち込み、今年1~2月は1000万円を割った。「震災1年」の節目に当たる3月は1000万円台に回復したものの、4月以降は再び落ち込んでいる。
 こうした傾向は木村ミルクプラントも同じだ。木村社長は「現在は震災直後の販売水準を維持することも難しい状況」と説明する。それでも同社は市内唯一の牛乳製造業者として、安全・安心な商品の加工・出荷に取り組む。「苦しい避難生活の中でも、わが社の牛乳を待ち続けてくれた方々もいる。みなさんから信頼される商品をこれからも提供し続けたい」と木村社長は前を向く。県内のものづくりの現場では、原発事故を乗り越え、自助努力で再起を目指す取り組みが続いている。

いわき市内で唯一、乳製品の製造を手掛ける木村ミルクプラントの社屋。場所は6号国道沿いにある。

いわき市内で唯一、乳製品の製造を手掛ける木村ミルクプラントの社屋。場所は6号国道沿いにある。



  • このエントリーをはてなブックマークに追加


| 最新号 |この記事のカテゴリー: 東北復興 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |