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連載 メコン圏と日本 No.6 – ベトナム3 国際NGO(公益財団法人 国際開発救援財団(FIDR))のベトナム支援 | 公益財団法人 国際開発救援財団 ベトナム事務所駐在 プロジェクトマネージャー 沖山 尚美【配信日:2012/09/28 No.0211-0860】

配信日:2012年9月28日

連載 メコン圏と日本 No.6 - ベトナム3
国際NGO(公益財団法人 国際開発救援財団(FIDR))のベトナム支援

公益財団法人 国際開発救援財団
ベトナム事務所駐在 プロジェクトマネージャー
沖山 尚美


 公益財団法人国際開発救援財団(FIDR:ファイダー)は、1990年の設立以来、東南・南アジア、日本において、地域に根差した社会発展への協力と災害時における緊急支援を行っている国際NGOです。 ベトナムでは1998年に中部のダナン市に事務所を設立し、同市およびクァンナム省を中心に地域開発事業を実施してまいりました。今回、クァンナム省ナムザン郡における事業の展開をご紹介いたします。


『クァンナム省ナムザン郡のFIDRの事業例 ~地域開発から地域資源を活用した産業振興へ~』

~クァンナム省ナムザン郡~

 ベトナム中部地域最大の都市であるダナン市は、国際空港や国際港湾等の大型物流拠点を有し、ベトナムからミャンマーまでを結ぶ東西経済回廊の東端の発着地でもあります。クァンナム省はダナン市の南西に位置し、西にはラオスとの国境沿いにベトナム最長のチュンソン山脈がそびえ、東側には美しい海岸線を有しています。近年、この海岸沿いに大型投資による高級リゾートの建設が次々と進んでいます。
 クァンナム省を含めたベトナム中部には、同国が有する5つの世界遺産のうちの4つ(ホイアンの古い街並み、ミーソン遺跡、フエの建造物群、フォンニャケバン国立公園)があり、観光産業はクァンナム省およびベトナム中部の中心的な開発戦略としての発展が期待されています。
 クァンナム省の西域、チュンソン山脈の山岳地域は少数民族の居住地でもあります。国の人口の約90%はキンといわれる民族ですが、残りの約10%はベトナムに53あるといわれる少数民族が占めており、ここクァンナム省ナムザン郡では、カトゥー族を中心とした少数民族が全人口の約80%を占めています。
 カトゥー族は、ベトナムとラオスの国境沿いに約5万8千人(ベトナム側約4万3千人、ラオス側約1万5千人)居住する民族で、近年まで豊かな自然と調和した伝統的な生活様式を保ち、粗放的な農業や採取、狩猟による自給自足的な生活を送っていました。しかしベトナム社会の急速なグローバル化や経済発展に伴いこの地域にも貨幣経済の波が押し寄せ、カトゥーの伝統的な暮らしから現代化への移行が進んでいます。

~第1期:地域開発の立ち上げ (地域おこしの基盤づくり)~
 ベトナムとラオスを挿んだ山深い村に住むカトゥー族の人々は、外部との接触が限られており、共同体意識も強く、互いに助け合う社会を持っていましたが、貧困、栄養失調、非識字などの生活上の課題が慢性化していました。
 ベトナムは共産主義国家として平等をうたい、貧しい人々を救うという思想があるため、政府の支援サービスは比較的充実しており、貧困世帯への食糧の支給や、自然災害の被災者への住宅補修支援などはよく行われています。しかしながら、これらのサポートは場当たり的な援助に終始している感が否めず、長期的な開発戦略に基づいた慢性的な生活不安からの脱却の糸口が自治体、地域住民ともになかなか見いだせない状況にありました。さらにナムザン郡の住民の大半が農業に従事していますが、山の斜面を切り開いての焼畑農業が中心で、農業に適した平地が限られていました。傾斜地の焼畑では陸稲、とうもろこし、キャッサバを栽培している他、わずかな平地を利用して水稲やマメや野菜を栽培しています。〔農業用地3,896ha(2.1%)、森林地90,356ha(49.2%)、荒地89,010ha(48.5%)〕。加えて、住民自身が、少数民族(カトゥー族)としての疎外感や差別感を感じ、現状を受け入れるしかないという諦めの意識が蔓延していることも、彼らを挑戦することから阻んでいるといえました。

 FIDRはこのナムザン郡において、2001年度から2007年度まで「ナムザン郡地域総合開発事業」を実施し、負の連鎖的な現象として表面化し、住民が認識している貧困、栄養失調、低教育などの各問題に取り組みました。ここでは稲作や野菜などの農業技術研修、傾斜地や林地を利用したアグロフォレストリー(農林複合経営)、子どもや母親を対象にした栄養改善活動、家畜の飼育を通じた収入向上など、様々な活動を行いました。
 ここでは人々が「自分にできる小さなことからチャレンジを始める」という経験を通じて、小さくとも確かな成功体験を身につける、経験を重ねて自信をつける、というプロセスを重視しました。したがって、敢えて言うならば「外の人間が伝える“正しい”技術移転」よりも「現地の人々による試行錯誤の経験蓄積」を優先させました。
 この試行錯誤の中でFIDRも学び、地域とのパートナーシップを築いていきました。そしてこの地域を動かす仕組み作り、キーパーソンの発掘、地域住民と現地政府のネットワーキングなど、地域づくりの基盤を形成した時期となったのでした。

~第2期:選択と集中 (質を高めて商業ベースにのせる)~

 地域開発事業で芽が出た活動のうち、収入向上活動の一環として行っていたカトゥー族の伝統織物を利用した商品の製作・販売を、さらに発展させようということが村の会議で決まりました。これを受けてFIDRは2008年度から2011年度まで「少数民族手工芸支援事業」を実施しました。

カトゥーの伝統的な織物である一枚布

カトゥーの伝統的な織物である一枚布

カトゥー織で製作した商品達

カトゥー織で製作した商品達


 この手工芸支援事業では、以下の2つの大きなチャレンジに取り組みました。

■伝統と開発のバランス

 現代の社会ではどんなに山奥といえども時代の影響を受けずに生活を保つことは難しく、カトゥー織りも時代に合わせて材料、織り方などを変化させてきました。
 「伝統を守るために、変化、対応する必要もある。それでは伝統のうち何を残して、何を変えるのか。このカトゥー織りを、誰にどのように伝えたいのか」。まずは織り手の女性たちと目指したい夢を描きました。
 その結果、ビーズのモチーフの織りこみだけは、カトゥー織の象徴として必ず残すことにしました。一方で、色遣いに関しては伝統的な「濃紺と朱」にとどまらず、色とりどりのカラフルな色遣いを取り入れるようにしました。

■個人作業から組織経営へ
 もともと個々の女性が日々の時間の隙間を見つけては織り進め、自分の家族、親戚や地域内で使っていた織物。その技術は元来母親から娘へと個人的に伝えられていました。
 これを商業ベースに乗せるため、女性たちをグループ化し、共同で製作・管理・販売することにしたのです。そして組織としての時間管理、品質管理、役割分担、合意形成、経理、外部とのコミュニケーション(ベトナム語や英語での会話、ビジネス交渉スキル)など、経験したことのない大きな挑戦に取り組みました。

 FIDRは日本のNGOですが、あえて日本をマーケットとして選ばず、この織物グループをベトナム大手のハンディクラフト店とつなげるようにしました。私たちが支援団体として販路まで確保しなくてはならないようでは商品の競争力がつきません。織物グループが直接的に外部とつながって、厳しい試練を受けながら切磋琢磨を重ねながら競争力を高めていかなければ、競争の激しいハンディクラフト業界の中で存在感を放てない、との思いからでした。
 この誌面ではご紹介できないのが残念ですが、これまでの過程には、思い返せば笑ってしまう話からグループの存続の危機につながるような話まで、本当に数多くの出来事がありました。しかし女性たちは、何がおころうとも、約2年の間全く収入がなかった時でさえも、この活動をあきらめることはありませんでした。
 その背景には、織物活動が収入活動としてだけではなく、女性たちの「自信と誇りと自己表現」の術であったこと、そして「織物を唯一の生活の糧としていなかったこと」があります。
 女性たちは、受注量に応じて週のうち2,3日は織物をしますが、他の日は農業をしたり、山に採取に行ったりと、決して織物だけに依存する生活はしませんでした。ビジネス界の方からは「なぜ織物に集中しないのか。もっと製作すればもっと売れるのに。納期に遅れたこともあった。商売を甘くみてはいないか。」という指摘を受けたこともありました。しかし、逆に織物に特化していなかったからこそ続けられた、多様な生活の糧を持つ強みがあったとも考えられます。

 10年前、20人の女性たちから始まったこの織物グループは、現在80人までメンバーを増やしました。最近では初期のメンバーの娘が参加し始めるなど、次世代へとこの伝統が繋がれつつあります。そして昨年、カトゥーの織物グループはクァンナム省で初めて、ベトナム全国でも数少ない「少数民族による協同組合」となりました。これは、織物グループが自立して社会経済に参画する経営組織として正式に認証されたことを意味します。さらに政府にもその実績を認められ、この女性たちの村は、クァンナム省が認定する「伝統手工芸村」として登録されました。
 こうした評判が広まり、「製作現場を見学したい」、「織場を訪問して直接購入したい」という人々がベトナム国内のみならず海外からも訪れるようになりました。
 初めはこの女性たちの活躍を横目で見ていた男性たちも、最近では女性たちの努力の積み重ねに敬意を表し、応援してくれるようになりました。「織物が忙しいときは、自分が料理をするよ」という夫。長老は「自分は年をとって、村の外に行くことは難しいけれど、女性たちが織物の販売活動を通じて外の人と接して見てきたもの、学んだことを、聞かせてくれるのが楽しみだ。その経験を村の発展に活かしてくれることを期待している」と語ります。
 事業初年度の2008年度に約3,200ドルだった年間売り上げ額は、最終年度の2011年度には約14,000ドルまで増加しました。現在、カトゥー織商品はハノイやホーチミンのほか、欧米を中心とした海外のハンディクラフト関係の店舗で販売されています。

~第3期:より大きな産業に展開する(地域のブランド化へ)~
 カトゥー織に関心を持った外部の人々が、はるばる山奥のこの女性グループを見学しに来るようになったことは、長年山深い村で暮らしていたカトゥー族にとっては驚きであり、喜びでもありました。そして住民や地元の政府は、「織物だけでなく、他にもカトゥー族にはもっといろいろな自慢できる品物がある」「自分達にも何かできることはないだろうか」と考えるようになりました。2010年度末にはナムザン郡からFIDRに、観光を軸とした地域おこしへの協力要請があり、これを受けて日本から観光分野の専門家を招いてこの地域での観光開発の可能性を調査、検討した結果、2012年5月から2016年3月の約4年間の予定で「地域活性化のための観光開発支援事業」を実施することになりました。
 途上国支援としての観光開発は、地域の資源を活用した収入向上や雇用創出、裾野産業の発展を促進する可能性があることから、地域活性化および貧困削減の有効な手段として近年注目を集めています。また自然環境や伝統文化を観光資源と認識することで、これらを積極的に保全、活用する動きにもつながります。さらに外部の人を地域に迎え入れるためには食糧生産、保健、教育、環境、治安など、包括的な取り組みを進める必要があり、これは地域の総合的なブランド化にもつながっていきます。

 この地域活性化のための観光開発の軸としているのが、現地の人々と進める「宝さがし」です。地域にある宝、つまり自然環境や伝統文化社会、人や技術など地域の人たちが大切にしているものや特別なものを探し、磨きをかけて、お客様に見せられる形にすることを通じて地元の多彩な資源を発掘、活用、発展させていきます。現在、伝統舞踊グループ、伝統料理グループ、村の散策ガイドなど、色々な「お宝」紹介チームができあがっています。
 この観光開発は、外部の観光業者が主導するのではなく、地域の人々が多様な関わり方をもって作りあげる観光にしたいと考えています。また観光を通じて得た利益は、地域の人々で話し合い、地域のために使い道を決める予定です。

 このナムザン郡での15年間の取り組みは、「(人や技術を含めた)地域にある資源や資本を優先的に利用するもの」、「外部に依頼、委託するもの」、「FIDRが支援するもの」を常に注意深く選択しながら、地域の資源や可能性を繰り返し見つめ直し、引き出し、活用、展開することの繰り返しでした。そして気がつけばこの地域の人々が経験に基づいた自信を蓄積し、やがて国内外の人々から価値を認められ、注目を集めはじめています。

 カトゥー族が「援助される民族」ではなく、試行錯誤から学び、取るべき道を選択し、自ら変化し、前進のための挑戦をし続ける―そんなカトゥー族の姿を見る日が来たら、FIDRはこの地域での役割を卒業するのかもしれません。

カトゥーの伝統舞踊「ヤヤダンス」

カトゥーの伝統舞踊「ヤヤダンス」

伝統料理をガイドの説明を受けながら食す

伝統料理をガイドの説明を受けながら食す


 本観光ツアーはまだ準備中であり一般向けには募集をしておりませんが、ご理解の上ご希望される方にモニターツアーにご参加をいただいています。ご関心のある方は、下記までご連絡お願いいたします。

公益財団法人 国際開発救援財団
(Foundation for International Development/ Relief/FIDR)


〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-1 OCCビル3F
TEL:03-5282-5211
ウェブページ: http://www.fidr.or.jp/
東京本部 代表連絡先:fidr@fidr.or.jp
ベトナム事務所 連絡先:fidrvn@fidr.or.jp

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