| 最新号 |この記事のカテゴリー: 経済政策 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


IIST e-Magazine (本記事の英語版はこちら)

通商白書2012(前編) ~世界とのつながりの中で広げる成長のフロンティア~ | 経済産業省 通商政策局 企画調査室【配信日:2012/09/28 No.0211-0862】

配信日:2012年9月28日

通商白書2012(前編)
~世界とのつながりの中で広げる成長のフロンティア~

経済産業省 通商政策局 企画調査室


 1949年8月15日に「通商白書」を発行して以来、通商白書は毎年夏に発行され、今年で64回目の発行となる。
 通商白書2012では、我が国を巡る昨今の厳しい通商環境を分析し、資源高による輸入価格の上昇に加えて、円高や新興国との競争激化等により輸出価格が低下している状況を明らかにしている。その上で、収益力強化のためには、ブランド価値の向上等、価格面以外の競争力の強化が重要であると指摘している。また、我が国企業の海外事業展開が、サービス業等の非製造業や、中堅・中小企業にも広がっていることを示し、ドイツ等との国際比較も踏まえ、更なる海外の成長機会の取り込みの重要性を指摘している。


1-1 不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済
 まず、世界経済の動向を概観する。世界経済は、2009年春には底打ちし、全体として緩やかな回復傾向を辿ったものの、2011年に入り、欧州債務問題の深刻化、米国経済の減速等により、再び減速した。2012年に入ると、急激な景気後退の懸念は緩和したものの、世界経済は依然として各国の政策措置に支えられた不安定さを抱えた状態にある。
 一方、新興国は、経済成長率(2011年第2四半期時点)が先進国の約8倍と、減速傾向ながら引き続き高成長を維持している。中国はじめ新興国経済の高成長により、世界GDPに占める割合は、先進国64.7%に対して、新興国は35.3%まで接近した。先進国が減速し、特に世界の実質GDPの25.4%を占めるEUが再び景気後退に陥る中、中国の存在感は更に高まり、世界経済の成長を支える役割が期待される(第1図)

1-2 債務危機により混迷を深めた欧州経済
 欧州経済は、2008年の世界経済危機による落ち込みから緩やかに回復してきていたが、欧州債務危機の顕在化により景況感が低下し、財政健全化に向けた各国政府の財政引き締め等から需要が減退、景気の失速傾向が鮮明になった。
 一方、ドイツでは、失業率が東西統一後最低水準で推移するなど、相対的に他の主要国に比べて景気が底堅く推移しており、欧州経済の二極化が進行している。
 ドイツ経済の競争力を支える要因の1つとして、ドイツの労働コストの上昇が抑制されてきたことが挙げられる。GDPを1単位生産するに当たりどれだけ人件費がかかるのかを示す指標である単位当たり労働コストの推移をみると、2000年以降、各国で2~4割上昇しているのに対し、ドイツでは上昇が抑制されていることがわかる。1998年に発足したシュレーダー政権は、2002年の再選後に労働市場改革を加速させ、失業手当の給付期間の短縮や期限付雇用の部分的導入など労働市場の弾力化に向けた改革を相次いで実施し、その結果、特に製造業を中心として労働コストが抑制され、ドイツの輸出競争力が高まったと考えられる(第2図)
 ドイツの輸出競争力の向上は、経常収支にも現れている。ユーロ圏主要国の経常収支をみると、ドイツは、1990年代には赤字を計上していたが、2000年代には黒字に転じ、2007年まで黒字幅も拡大の一途を辿っている。一方で、フランス、イタリアは赤字に転落し、スペインの赤字は2007年まで急拡大を続けた。近年ではドイツの経常黒字とその他3か国の経常赤字が概ね均衡して推移している(第3図)

1-3 底堅く推移するも先行き不透明な米国経済
 米国経済は、2011年に入り、原油価格高騰や東日本大震災によるサプライチェーンの混乱などにより回復の足取りが鈍化したが、年後半にかけて回復ペースが加速している。
 2012年に入ってからも労働市場や住宅市場に改善の兆しが見られるなど、足下の経済指標は総じて緩やかながら回復しているが、消費は本格的回復には至っていない。依然として高い水準にある失業率や低迷する住宅価格、欧州債務危機の波及や新興国の成長鈍化による外需の落ち込み、ガソリン価格の高騰などがリスク要因として挙げられる。財政・金融政策による下支えが引き続き期待される(第4図)

1-4 高成長ながらも減速が見られる中国経済
 中国経済は、2011年はインフレの抑制が経済政策の最優先課題とされ、金融引き締め政策がとられる中で、年央からは欧州債務危機の影響を受けて欧州向け輸出が鈍化をはじめ、輸出の比重の高い沿海部を中心に経済成長が減速した。2012年は最優先課題として「経済の安定したより速い発展」を掲げ、優先課題として物価水準の安定を挙げており、内需、特に消費需要の拡大を強調している。当面のリスクとしては、住宅価格の急落、地方政府の債務問題、欧州債務危機に伴う輸出の減速などが挙げられる。

1-5 その他のアジア経済
 アジア諸国は、2011年も緩やかな回復を続けていたが、資源価格高騰や国内物価の上昇、それに対する金融引き締め、欧州債務危機の深刻化による輸出の鈍化などによって、2011年中頃から回復のテンポは緩やかになった。
 韓国経済も、欧州債務危機の再燃により年中頃から欧州向けを中心に輸出が減速した。秋頃には欧州金融機関等海外投資家のリスク回避傾向が強まり、韓国をはじめとするアジア諸国からの資本引き揚げと、それに伴う韓国ウォンの急落、外貨準備の減少等が生じ、景気減速の動きが顕著になった。最近は、一部に持ち直しの動きも見られるが、足踏み状態が継続している。

2-1 我が国を巡る2011年の通商環境
 次に、我が国を巡る昨年の通商環境を分析する。2011年は、我が国にとって、通商環境に大きな影響を与える歴史的なできごとの続いた年となった。3月の東日本大震災の被害により、我が国企業が築いてきたグローバル・サプライチェーンが寸断され、その影響は我が国のみならず世界各地に及んだ。夏場にかけて円高が進行し、更に10月末にはドル円レートで史上最高値を更新した。夏以降、欧州債務危機が深刻化し、世界経済の減速により我が国の輸出の下押し要因となった。10月にはタイで発生した歴史的大洪水により、タイに進出する日系企業とそのサプライチェーンは大きな被害を受けた。そして、2011年の我が国の貿易収支は、暦年ベースで31年ぶりの貿易赤字を記録した。こうした中で、産業空洞化に対する懸念が改めて高まった。

2-2我が国の貿易・投資構造と変容
 我が国の貿易構造は、2000年代になって大きく変化した。我が国企業の海外展開により、東アジアを中心とする国際的な生産分業への統合を深め、中間財貿易が輸出入とも大きく増加している。そのため、おおむね10%前後で推移していた輸出額の対GDP比も、約15%にまで拡大した。かつて「フルセット型」といわれた産業構造は変容を遂げ、国内生産にとって輸入による中間財の供給と外需による生産誘発の双方の重要性が増している。ただし、これをドイツと比較すると、こうした国際分業への統合度合いは依然として低い水準にある。
 タイにおける大洪水は、3月の大震災とともに、我が国企業が築いてきたサプライチェーンの広がりと、我が国経済と東アジア分業体制との結びつきを鮮明に印象づけるものとなった。その後のサプライチェーンの急速な復旧に伴い、各地の生産は従前の水準を取り戻してきているが、リスク分散のため調達先の見直しの動きも出てきている。経済産業省が実施した「タイ洪水被害からのサプライチェーンの復旧状況に関する緊急調査」によれば、被災した調達先が復旧した場合、代替調達先から元の調達先に完全に戻すと回答した我が国企業は少数となっている(第5図)。一方、国際協力銀行が実施した「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告(2011年12月)」をみると、タイの投資先としての魅力は、産業集積やFTA網の充実による第三国輸出拠点化等により、洪水後も概ね維持されている(第6図)。引き続き、洪水対策等の事業環境改善が重要である。

2-3 31年ぶりの貿易赤字と歴史的円高から見えてくる構造的課題
 2011年の我が国を巡る通商環境の厳しさは、31年ぶりの貿易赤字に象徴されている。その要因の半分程度は輸入価格の上昇によるものであり、残る半分が輸出量の減少と輸入量の増加によるものである(第7図)。即ち、2010年末からの中東の政治情勢の不安定化を受けて、原油価格が高騰したこと、それにもかかわらず代替燃料としてLNGの輸入数量が増加したことが、貿易赤字化の主たる要因となり、これらに大震災による供給制約、歴史的円高、世界経済の減速等による輸出数量の減少が加わる形となった(第8図)
 2011年の歴史的円高は、我が国の空洞化懸念の一つの材料となった。今回の円高局面は、資源高騰による輸入物価の上昇が厳しく、交易条件の改善を伴っていない。こうした円高の進行と交易条件の悪化の併存が、我が国輸出企業の収益力に大きな悪影響を与えていると見られる(第9図)。交易条件の悪化は韓国においてさらに強く見られ、韓国からの輸出価格も大きく低下してきていることから、韓国を始めとする東アジア諸国の台頭により競合関係が激化し、我が国の輸出企業が厳しい価格競争を強いられてきていることが示唆される。他方、ドイツを見ると、輸出物価、輸入物価とも安定的な動きを示しており、輸出企業の収益力に大きな低下は見られない。価格競争に巻き込まれることなく、技術やブランドによる差別化で一定水準の輸出価格を確保するドイツ企業の戦略も一因と考えられる。これは、個々の企業の収益性を強化するとともに、資源価格の高騰や為替変動に翻弄されない強い経済構造を作るための一要素となっている可能性がある。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(本記事の英語版はこちら)


| 最新号 |この記事のカテゴリー: 経済政策 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 時系列検索 |