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ミャンマー進出、人件費安さだけで判断は禁物 =発電機などのコスト考慮し、慎重に= | (株)時事通信社 時事総合研究所 客員研究員 山川 裕隆【配信日:2012/10/31 No.0212-0863】

配信日:2012年10月31日

ミャンマー進出、人件費安さだけで判断は禁物
=発電機などのコスト考慮し、慎重に=

(株)時事通信社 時事総合研究所
客員研究員
山川 裕隆


 日本企業のミャンマー詣でが昨年ごろから急増している。人件費が安いのは魅力だが、今春は賃上げを求めるストが外資企業でも相次いだ。電力や工業団地の不足など課題も多く、同国に進出を検討している日本企業はムードに流されないよう、慎重に対応すべきだ。


ネピドー国際空港

ネピドー国際空港

 日本商工会議所ミッションに同行して、9月下旬、ミャンマー(人口約6200万人)を視察した。訪問したヤンゴン郊外にある日系縫製メーカーの幹部は「賃上げを求めるストライキが今春、あちこちの企業であり、わが社は今年に入って賃金を2回引き上げ、前年に比べ計20%アップした」と話してくれた。また、ミャンマーは停電が多いということは事前に聞いていたが、同国に滞在中、宿泊していたホテルでも、一時的だが数回停電して、クーラーが止まった。同国に進出する企業にとって自家発電機は必要不可欠で、発電機の設置費や稼働に伴うコストなども考慮に入れるべきだ。賃金の上昇は今後も続くことは必至で、「賃金は中国やタイに比べ5分の1で安い」という理由だけで安易にミャンマーに進出すると失敗するのではないかというのが、同国を訪問しての実感だ。

◇賃上げ2回実施して20%アップ
 同日系縫製メーカーの幹部は今年に入って、2回も賃上げをせざるを得ない事情について、「賃金改定は毎年2月から3月にかけて行っており、ここ数年は毎年10%引き上げている。今年は10%アップしたが、それで済まなかった。今年4月からミャンマーの国家公務員に、生活費手当として毎月3万チャット(約3000円)支給されることになった。同手当導入により、公務員は月額給与が約2倍になったことから、わが社だけではなく、他の日系企業や韓国企業などでも賃上げを求めるストライキが4月、5月に相次いで起きた。結局、わが社はさらに10%引き上げることになった」と説明。さらに、同幹部は「労働者は民主化が進んだ結果、賃上げを要求すれば実現できると思っているようだ」と困惑した表情で語った。今後、中国やベトナムなどと同様、ミャンマーでも賃金アップを求めるストライキが頻発する可能性もある。

◇深刻な電力不足
 このほか、ミャンマーにとって大きな課題は電力問題だ。今年は3月下旬から7月上旬まで、深刻な電力不足に悩まされた企業が多かった。同国は国内の発電量の約7割を水力に依存している。今年はその時期に雨が例年に比べ少なかったことなどから、深刻な電力不足に直面した。
 今回、ミャンマーで会った日本企業の幹部からは「ホテル代やオフィスの家賃、サービスアパートの家賃が上昇しており困っている」という声をあちこちで聞いた。ミャンマーの最大都市ヤンゴンのホテル代のアップはすさまじい。軍事政権から民政移管した昨年から、同国を訪問する外国のビジネスマンや観光客は急増しており、ホテルの供給が追い付かない状況だ。「最近はホテル不足が深刻で、ヤンゴンのホテルを確保するのは容易ではない。ホテル代は昨年、一泊約75ドルだったが、最近は約3倍アップして200ドル前後となっている」(日本の旅行会社幹部)。

◇シンガポールより高いオフィス家賃
 また、ヤンゴン市内のオフィスの家賃も入居希望者が急増していることから、「1平方メートル当たり月70ドル前後と高騰し、シンガポールよりも高いオフィスもある」(ヤンゴン駐在の日系商社幹部)という。さらに、「日本の駐在員が利用しているサービスアパートの家賃は、80平方メートルで1カ月3500ドルというところもある」(同)そうだ。ヤンゴンに進出している日本企業はもちろん、今後、ヤンゴンに進出を検討している企業にとっては、オフィスやサービスアパートの家賃高騰は頭の痛い問題だ。
 ヤンゴン市内のホテル代やオフィスの家賃、サービスアパートの家賃は、今後2、3年は上昇するというのが現地に駐在している日本企業幹部の大方の見方だ。というのは、来年は東南アジアのオリンピックといわれる「東南アジア競技大会」が首都ネピド―で開催されるため、ミャンマー政府はネピド―でのホテルや競技場などの建設を優先するよう大手建設会社に求めているからだ。今回はネピドーも訪問したが、確かにホテルの建設ラッシュだ。一方、ヤンゴン市内はオフィスやホテルの建設は思ったほど多くない。

◇ミンガラドン工業団地、全区画完売
 今回、ヤンゴンの郊外にあり、ミャンマーで唯一インフラが整備されていると言われるミンガラドン工業団地も視察した。ここは、三井物産が参加して造成、1998年に開業した工業団地だが、同社はアジア通貨危機や欧米の経済制裁などで、入居する企業が少なかったことから、2006年に撤退。現在はシンガポール企業とミャンマー政府が管理・運営している。最近はミャンマー人気で、同工業団地の分譲区画(41カ所)はすべて完売したそうだ。日本企業は縫製メーカーや味の素など計5社が契約済みだ。味の素はまだ操業していないが、そんなに遠くないうちに工場が稼働するとみられる。
 日系縫製メーカーは同団地内に3社入居しており、今回はそのうちの1社を視察した。訪問したメーカーは紳士用ワイシャツやカジュアルシャツ、婦人・学生シャツを生産している。年間300万枚生産し、すべて日本に輸出している。販売先はイトーヨーカ堂など大手スーパーとAOKIやコナカ、タカキューといった紳士服専門店などだ。
ミンガラドン工業団地の日系縫製工場

ミンガラドン工業団地の日系縫製工場

ワーカーは1200人で、女性が99%と圧倒的に多い。平均年齢は24歳と若い。操業日は日曜日を除き毎日で、1日10時間の勤務体制となっている。同社はワーカーを毎日、バスで送り迎えしている。
 ワーカーの賃金は月額残業込みで92ドルだ。大卒で、日本語や英語、パソコンができるスタッフの賃金はワーカーの約1・5倍の月額140-150ドル。会計士には同600ドルを支給している。同縫製メーカーの幹部によると、今年は3月から6月までの4カ月間、ほとんど毎日、半日は停電した。このため、自家発電機を利用して対応したが、そのコストは大きかったという。また、同メーカーでは「毎月50人から100人は辞めている。ミャンマーの離職率は約5%なので、わが社はそれより高い」(同社の幹部)そうだ。

◇ティラワ工業団地の入居早くて15年
 ミャンマー政府によると、同国には現在18の工業団地がある。また、同政府は経済特区として、ヤンゴンから約600キロ南方にあり、インド洋に面した「ダウェイ地区」を既に指定している。さらに、ヤンゴンの中心街から約23キロに位置する「ティラワ地区」と北部のインド洋に面した「チャオピュー地区」も経済特区に指定される見通しだ。
 18の工業団地は「インフラが完全でないところが多く、現地をしっかり見て、インフラがきちんと整っているか入念に確かめる必要がある」(現地駐在の大手商社幹部)。ティラワの工業団地は日本の官民が中心となって開発する予定で、ミャンマーに進出を検討している日本企業はそこへの入居が多くなることが予想される。ただ、同団地に入居できるのは早くて15年で、インフラの整備が遅れると、16年か17年にずれ込む可能性もある。
ヤンゴン市内を走る乗り合いバス

ヤンゴン市内を走る乗り合いバス

 インフラが整っているミンガラドン工業団地については、拡張の予定はないという。このため、ミャンマーに進出を検討しているメーカーにとって、現在のところインフラが完備され、入居できる工業団地はほとんどない状況だ。このため、道路や橋、港湾、発電所などのインフラ整備が先行しそうで、それに関連した日本企業の進出は当分続くのではないか。しかし、日本のメーカーがミャンマーに工場を新設して、本格的に生産開始するのは15年以降になりそうだ。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)のヤンゴン事務所には、毎月500-600人の日本企業の幹部らが現地の情報などを聞くため訪問しており、スタッフは大忙しだ。「チャイナ・プラス1」や「タイ・プラス1」ということで、ミャンマーの人気はうなぎ登りだ。しかし、日本企業はムードに流されることなく、ミャンマーへの進出については慎重に対応することが望まれる。

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