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「賃金上昇による自律的回復に向かう日本経済」| 日鉄住金総研 チーフエコノミスト 北井 義久【配信日:2013/02/28 No.0216-0880】

配信日:2013年2月28日

「賃金上昇による自律的回復に向かう日本経済」

日鉄住金総研
チーフエコノミスト
北井 義久


 日本経済は、世界経済の低迷による輸出の落ち込みなどにより12年春から一時的な景気後退を余儀なくされた。しかし12年末には回復への動きが始まり、13年度の成長率は景気対策効果もあり3%近くに達する可能性がある。


 日本経済は、12年春から一時的な景気後退を余儀なくされた。その理由としてはまず、世界経済の低迷により輸出が落ち込んだことを指摘出来る。世界経済は、12年初めまで不安定ながらそれなりの拡大を続けていたが、中国の成長率がリーマンショック後の景気対策効果の一巡により鈍化を余儀なくされたこと、欧州経済が南欧諸国債務問題の深刻化によりマイナス成長を続けたこと、薄型テレビ・パソコンなどのデジタル家電販売が世界的な不振に陥ったことにより、12年春以降急速に拡大テンポが緩やかになった。さらに尖閣列島を巡る問題が深刻化したことにより、日本の対中輸出はさらに減少し生産活動の縮小に繋がった。第二に、個人消費が伸び悩みに転じたことも景気後退の理由として挙げられる。個人消費は12年初めまで順調に拡大していたが、その後伸び悩みを余儀なくされた。これは、12年初めまで続いていた家庭内在庫積み増しに伴う震災特需が一巡したこと、エコカー補助金制度の終了により乗用車販売台数が9月以降急減したことによる。

 しかし、世界経済は12年末を転換点として持ち直しに転じた。これは、中国政府が新たな景気対策の発動に踏み切ったこと、南欧諸国債務問題が小康状態に転じたこと、デジタル家電需要が持ち直しに向かいつつあることによる。特に、中国政府が企業向けの資金供給を増やしたことから中国の生産活動が活発化しており、インフラ関連投資も拡大テンポが再加速している。さらに中国経済への依存度の高いNIEs・ASEAN諸国の生産も停滞から増加に転じている。その結果減少を続けてきた日本の輸出数量は2012年末に下げ止まり、増加に転じつつある。

 さらに、輸出増加に加えて、労働需給が逼迫しつつあり賃金が上昇に転じること、安倍新政権が積極的な財政金融政策を展開していることから、日本経済は2013年度には3%近い成長を達成することが可能である。まず輸出数量は、海外経済の回復に加えて円安による輸出採算の好転によりアジア・米国向けを中心に増加に転じる。ただし、リーマンショック後の輸出急減の経験から日本企業は安易な輸出増加には慎重な姿勢を維持する為、輸出の伸びは過去の回復局面に比較すればモデレートなものに留まる。

 一方個人消費は、労働需給の改善がようやく賃金の上昇に繋がり、サービスを中心として堅調な増加を続ける。日本の失業率は12年末には4.2%であったが、「団塊の世代」の完全退職により今後急速に労働人口が減少することにより、13年末には3%前後に低下する(図表1)。

日本の労働人口伸び率  この様な労働需給の改善と企業収益の持ち直しによる人件費負担能力の拡大により、下がり続けてきた日本の賃金もボーナスを中心としてようやく増加に転じる。既に建設労働者の日当は震災復興工事の本格化による労働者不足により上昇に転じており、派遣労働者の時給もじり高に転じている。この様な動きが給与労働者全体に波及することにより、個人消費は堅調に増加する。さらに株価が上昇に転じたことも消費者心理にはプラスに働く。その中で、個人消費拡大はサービス消費を中心とすることになろう。耐久消費財に関しては、乗用車・薄型テレビにおいて09~12年にかけてエコカー補助金の支給などの消費刺激策により買換え需要が前倒しで生じており、需要増加に大きな期待は持ちにくい。さらに、同様の理由により消費税率引き上げ前の駆け込み需要が発生するとしてもその規模はそれ程大きくならない。逆に、耐久消費財ブームの過程で伸び悩んでいたサービス消費が今後増える。足下で既に、旅行・外食需要は回復に転じており、シティホテル稼働率や新幹線利用者数はリーマンショック前のピークを超えている(図表2)。またこれまでの高齢者より消費性向の高い「団塊の世代」が完全リタイア年齢である65歳に達することも個人消費にはプラスである。

日本のシティホテルの客室利用率  個人消費が堅調に推移する中で設備投資の拡大も見込める。12年度の設備投資は不透明な経済環境に影響され小幅な伸びにとどまる見込みである。しかし13年度に関しては、12年度に先送りされた製造業の更新投資が実行に移されること、サービス消費の拡大を受けて流通・運輸・宿泊関係の設備投資が増加することにより、伸び率はかなり高まる。既に、大規模小売店舗・倉庫などの投資は増加に転じており、今後は投資対象がさらに拡大すると見込まれる(図表3)。

日本の大店立地法届出件数の推移  最後に積極的な経済政策の後押しも期待出来る。安倍新政権は1月15日に総額10.2兆円の補正予算を閣議決定し、29日に公共投資の増額を含む13年度予算案を閣議決定した。特に12年度補正予算案で追加された約6兆円の公共投資の多くは13年度に繰り越されることが確実であり、13年度上期の成長率をかなり高める。

 さらに、日本銀行は1月22日、2ヵ月連続となる追加金融緩和策を発表した。追加策は、a)消費者物価上昇率の目標を1%から2%に引き上げること、b)14年中にさらに10兆円の資産買入を行うこと、c)政府との政策連携について共同声明を公表すること、の三本柱である。量的金融緩和政策の維持が14年も継続することが実質的な追加策であり、インフレターゲットの受け入れと言う「名」を捨てて、最低限の緩和策の実施と言う「実」を取ったと解釈出来る。ただし、金融政策が14年まで緩和気味に推移することが確実になったことは、企業マインドにプラスに働くことが期待出来る。

 この様に、13年度の日本経済はかなり高めの成長率を達成する可能性が高い。一方で、本格的な財政再建が先送り状態にあることは否定出来ない。内需主導の自律的な成長を定着させることにより、14年4月、15年10月の消費税引き上げをスムーズに実行に移すと共に、年金・老人医療などの社会保障予算の本格的な削減を目指すことが次のステップとして求められる。さらに、消費税率引き上げをスムーズに進めるには、それに見合った賃金の上昇が不可欠である。13年度はその条件を整える為の重要な1年と言えよう。

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