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日本のファンを増やせるか 官製クールジャパンの進路を考える | 一般社団法人共同通信社 編集局文化部 部長 杉本 新【配信日:2013/07/31 No.0221-0896】

配信日:2013年7月31日

日本のファンを増やせるか
官製クールジャパンの進路を考える

一般社団法人共同通信社 編集局文化部 部長
杉本 新


 日本のアニメやゲームなどが世界で人気となる中、政府主導のクールジャパン推進が成長戦略に加わった。単なる商機にとどめず、文化によって世界と日本の関係を良好にする長期的な取り組みが必要だ。


 日本で生まれた漫画、アニメ、J―POP、ファッションなどのサブカルチャー、ポップカルチャーが、世界各地で人気を集めるようになって久しい。1990年代から目立ち始めたこの現象は、アジア、欧米、中東など地域を問わず広がっており、英語で「クール(格好いい)ジャパン」と呼ばれるようになった。民間の自然発生的な活力が20年かけて日本の若者文化の海外進出を推し進めたわけだ。
 代表的な成功例を挙げよう。高橋陽一さんのサッカー漫画「キャプテン翼」は、日本で制作されたアニメが世界中で放送された。さまざまな国のサッカー少年をとりこにしたことはよく知られている。しかも、ロナウジーニョやジダン、トッティら数々の名選手が登場人物にあこがれたり、影響を受けたりしたと語っている。日本製アニメのクールさを表すエピソードだ。
 この「クールジャパン」は、安倍政権の下で概念が拡大され、日本食や伝統文化を含めて海外に日本文化を売り込む掛け声となっている。「官製クールジャパン」はまだ緒に就いたばかりで、成否を問うのは早いが、それだけに今後の取り組みを方向づける基本的な考え方を、官民を超えて議論する時でもある。

▽物珍しさでは続かない
 政府の産業競争力会議が6月に決定した成長戦略には、「コンテンツ、日本食などを効果的に発信」と示されているのをはじめ、新設される「海外需要開拓支援機構(クールジャパン推進機構)」がリスクマネーを供給することや、放送コンテンツ関連海外市場売上高を約3倍に伸ばすことなどが盛り込まれた。日本への外国人観光客誘致も「クールジャパン」の一環だという。
 新しい商機の提供を意味する成長戦略の項目自体に、ただちに異を唱えるわけではないが、この先、売上高の数字を気に懸けるだけでは持続的な展開は難しいだろう。
 政府が主導するクールジャパンの展開に必要な観点は二つあると私は考える。「丁寧な発信」と「文化を豊かにする意志」である。この2点を踏まえて基本方針を議論することで、歴史も文化も異なる国や地域に日本の文化が受け入れられる道筋が、より鮮明に見えるはずだ。
 要は、日本文化というローカルな価値を、どうやって普遍的な価値に進化させるか。見知らぬ異文化が飛び込んできたという物珍しさだけでは、初めは評判を集めたとしても長続きはしないのではないか。
 クールジャパンの大きな目標は、日本への理解と親しみを培うこと、言い換えれば日本のファンを増やすことだ。結果として日本への国際的な理解を助け、深めることになり、市場も拡大していくことが見込まれる。そのためには政府はもちろんのこと、参入に手を挙げる事業者が先に述べた2点を認識して方針を策定するべきである。

▽丁寧さと豊かな文化
 「丁寧な発信」とは、海外に売り込もうとする日本文化の特徴をつぶさに分析し、それぞれにふさわしい発信方法を選ぶことを意味する。日本の伝統文化、食、観光地を広げるためには、ただ美辞麗句で紹介すれば通じるというものではなく、事業を展開する国・地域の文化との相性、紹介の仕方を子細に組み立てなければならない。定着させるために必要であれば、一定の改変を含むアレンジを現地で柔軟に施すことも検討していい。むしろ日本らしさを前面に出さない方がいい場合もある。見方によっては自動車や電気製品の輸出と似ているかもしれないが、文化に「護送船団方式」はそぐわない。むしろ民間の自由な発想を活力源にすることが重要だろう。
 もう一つの「文化を豊かにする意志」は長期的な取り組みを意味する。文化を売るということは、それを買った個人の心に直接訴えかける行為と言える。消費者の心を大切に扱う意志がなければ、官製クールジャパンは一過性の「日本物産展」以上のものにはならないだろう。物産展そのものに意義はあるにしても、特定期間だけの紹介とは別に、日本文化に触れた人の心が、それを知る前より豊かになることが日常的に実感されれば、現地に根付く。
 こうした経過をたどり、日本文化が世界中で双方向の刺激をもたらして互いの文化を豊かにすることが、クールジャパンの最大の目標ではないだろうか。短期間で結果が出るものではない。この点を政府にも事業者にも意識してほしい。
 付言すれば、日本への関心を高める入り口として、アニメやゲームは依然として力を持っているが、それを支える労働現場の待遇や、勢いのある諸外国との競争にどう取り組むかも、今後のクールジャパン推進にとって重要な課題である。

▽相互理解の礎に
 今年も7月上旬にパリ郊外で「ジャパンエキスポ」が開かれた。今や20万人を集める日本文化の一大祭典で、漫画、アニメ、ゲームなどをはじめ、武道や料理など幅広い日本文化を各スタンドやライブ、ファッションショーなどで紹介する。今回は「ひこにゃん」「くまモン」という人気のゆるキャラまで会場に乗り込んだ。2000年に始まった当初は来場者約3千人のイベントだったが、内容も規模も年々拡大している。
 欧州でのこの流れに安倍政権のクールジャパン推進が重なるのかどうかは見通せないが、熱気を帯びたパリのイベントは、日本文化を触媒に文化の多様化を誘発する好例と言えるだろう。
 これまでの成功例を踏まえ、今後の展開では目指すべきは何か。単に看板を付け替えて珍しい商材を携え、売上額の多寡を競うことではないだろう。日本文化の誇りを安直な優越感に塗り替えることでもなく、まして世界を日本と同じ文化で席巻することでもない。
 目指すは世界の文化を多様にすること、経済活動を活気づけること、そして日本のファンを世界中につくり相互理解の礎にすること。これらが同時に進むよう、長い時間をかけた取り組みが何よりも求められる。高度成長期の輸出産業と比べて市場は小粒かもしれないが、クールジャパンには21世紀の世界と日本の関係を良好に形づくる大きな可能性があると見ていいだろう。
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