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日本の経済的・社会的レジリエンス(回復力)と将来のグローバルな課題- 第41回リーダーシッププログラム(2013年4月) からの考察とまとめ | スイス・チューリッヒ大学 シニア・リサーチャー/レクチャラー(社会学/経済学) パトリック・ツィルトナー【配信日:2013/07/31 No.0221-0899】

配信日:2013年7月31日

日本の経済的・社会的レジリエンス(回復力)と将来のグローバルな課題
- 第41回リーダーシッププログラム(2013年4月) からの考察とまとめ

スイス・チューリッヒ大学 シニア・リサーチャー/レクチャラー(社会学/経済学)
パトリック・ツィルトナー


 IISTは、2013年4月15~19日に、東北地方で第41回「リーダーシッププログラム」を開催。震災後の東北の産業復興について学んでいただくため、8名のオピニオンリーダーを海外から招聘した。以下、スイスの参加者パトリック・ツィルトナー氏に、プログラムの所感をご寄稿いただいた。


 世界では毎年1億人以上が洪水の被害を受け、約3億7千万人が地震多発都市で生活している。今日、世界人口の半数以上が都市部で暮らし、潤沢な資源を備え経済繁栄を享受する集団に不可欠な複雑で相関的な技術インフラによって、「同時失敗」のリスクが一層現実味を帯びている (Wahlström 2012)。2004年12月アジアで発生した津波は、災害への備えに無関心であった多くの国々にとって衝撃的なものであった。その後、兵庫県神戸市で開催された国連防災世界会議で、168カ国が減災に関する国際的な詳細計画を採択した。神戸市では20年前、国内最大規模の大地震によって5,000人以上が犠牲になった。数年前、目を見張るような神戸の復興プロセスの一部について学ぶ機会を得た私は、1923年9月1日に発生し、東京や横浜の広範な地域に甚大な被害をもたらした関東大震災との比較にも興味を覚えた。当時横浜を拠点としていたスイス企業数社の文書館で写真や記事を発見したが、ベルン市立図書館でも歴史的な興味をそそる政府報告書を目にした (内務省社会局 1926: 1923年関東大震災 、第2巻.)。スイス赤十字社やベルン市の日曜学校からの援助資金への返礼として、日本大使館が寄贈したものであった。
 それ以降、日本が自然災害に対して非常にハイレベルな備えを確立したことに疑いの余地はない。暴風や集中豪雨、大雪、土砂災害、津波、高潮、高波、浸水、洪水に関する早期警戒システムが国土を網羅する。防災、減災、災害対策、災害に対する脆弱性の軽減を管轄する主な組織である国土交通省、気象庁及び地方自治体が、24時間体制で様々な自然現象や気象状況の監視を行う(※1)。又、日本は、古くから自然災害の経済的、更に社会・文化的影響に対応し、不運ではあるが、何度も経済的・社会的回復力があることを証明してきた(※2)。だが、2011年3月11日の大災害やその後に続く試練は誰も予想だにしていなかった。国内観測史上最大級の大地震 (マグニチュード9.0) が宮城県沖で発生し、太平洋岸地域に大津波が押し寄せたのである。東京電力管内の福島第一原発は全ての電源を失い、深刻な原子力事故を引き起こした。
 このような状況の中、私は第41回リーダーシッププログラムへの参加に非常に興味を持った。災害から2年余りを経て、宮城県、とりわけ犠牲者が4千人を超え被害の大きかった石巻を含む被災地の復興プロセスを肌で感じる機会となる。
東北経済産業局長によるプレゼンテーション

東北経済産業局長によるプレゼンテーション

 宮城県関係者の歓迎を受けた8カ国のプログラム参加者は、山田尚義 東北経済産業局長の包括的プレゼンテーションを通じて地域の被災と復興の概要を知ることができた。主要なライフラインや公共サービス等は2011年半ばまでにほぼ全面復旧したものの、住宅や他の建物が津波で流され未だに基本的社会基盤を欠く地域や原子力被害のために復旧が進まない地域があると聞かされた。スタディプログラムの期間中、私たちは仙台近郊を通過したが、そこでは住宅の基礎部分のみが残されていた。岩手、宮城両県で2千万トン以上の瓦礫が生じ、その一部は今も巨大な山として存在する。大量の瓦礫の収集、運搬、リサイクルや処分は組織面及び環境面での深刻な課題であり、全国の自治体や企業間での連携が不可欠である。半壊・全壊の建物の撤去が必要な場所、広大な空き地が今もなお存在し、コミュニティー再建はまだ本格化していない。建築や医療サービス、社会サービス分野の専門家を中心とした人材の不足によって、時に再建のペースが落ちていることを私たちは知った。行政機関の財政政策は必ずしも地元のニーズに適っているとは言えないようだ。時に、不適切な相続手続きや所有者不明の特定の土地区画によって再建プロジェクトが阻害される事態が生じている (佐々木 2013)。
 このようなことから、復興事業は地域全体で一律に進められているわけではない。一部市町村では、「事業所数」及び「従業員数」は今も地震前の50%以下に留まっている (山田 2013)。東北地方の生産活動は、一時的に大地震前の60%台にまで落ち込んだ。地域製造業にとって最も重要な製品である電子部品やデバイスの生産休止は、全国的なサプライチェーンの寸断を招いた。岩機ダイカスト工業(株)や
トヨタ自動車東日本(株)

トヨタ自動車東日本(株)

トヨタ自動車東日本(株)本社を含むいくつかの生産現場を訪問し、私たちは地域経済の稼働率が全国平均レベルにまで回復したとの主張を実感できた。蒲鉾の地元生産の老舗である(株)白謙蒲鉾店の再建は、巨大災害から立ち直るチャンスは国際企業(又はそのサプライヤー)以外にも与えられていることを証明している。しかしながら、何とか事業再開にこぎつけた企業の70%は今なお震災前の販売水準に到達しておらず、かかる企業の30%の販売高は震災前の50%以下に留まっている (山田 2013)。
(株)白謙蒲鉾店

(株)白謙蒲鉾店

 日本製紙(株)石巻工場訪問は非常に印象深いものであった。そこには、復興プロセスにおける全社挙げての取り組みの状況が詳しく記録されていた。石巻専修大学では、災害発生時に生じた悲劇の数々を垣間見ることができた。安全な立地条件ゆえ、同大学は地域の避難所・救助センターになっていた。校舎内は苦悩や絶望で満ちていたが、一方で感動的な助け合いの行為も生まれていた。私たちは更に、大災害時には携帯電話がいかに無益なものであるかを知った。処理能力が追いつかず、通信事業者からは制限が課され、次いでバッテリーを含む電源が急速に消耗してしまう。 若月昇教授 (石巻専修大学)の次の見解に異議を唱える人はいないであろう。「津波の直前直後、悲惨な状況の最中にあって、人々は生き延びるために携帯電話にすがった。犠牲者の最後のメッセージを止めてはならなかった。」
 新しい東北電力仙台太陽光発電所は津波が出現した海岸線に隣接し、地元の回復力の力強い象徴となったが、人類の未来には生態学的に維持可能なエネルギー生産が必須であることの証でもある。現在の消費レベルやライフスタイルを大幅に変えることになったとしても、正しい結論を導き必要な改革を行うことが私たちには可能であろうか。これは世界的な問題ではあるが、現在においては必然的に日本が注目の的となっている。
 自然災害対応の観点から見たニューオーリンズ(ハリケーンカトリーナ、2005年)と東北(2011年)との比較において、 Robert Blasiak(ロバート・ブレジアック)、岡安早菜、松本郁子の三名の研究者は、どちらのケースも万全を期した防御対策は失敗に終わったが、東北ではコミュニティーの回復力が功を奏した一方で、ニューオーリンズではほぼ崩壊したようだと結論づけた。「東北全体に存在する強い文化的・地域的結びつきが、今回の災害に向き合う強さを地域住民に与えている」と主張する彼らは、同時に「多くの大都市を特徴づける孤立的な匿名性というものがかかる絆の形成を阻害している可能性がある」との警告も発した。彼らが言うところの「地域社会に深く根付くレジリエンス」が存在するようである。第41回リーダーシッププログラムを通じて、私はこのような現象についていくらかの洞察を得ることができた。しかし、世界的に見れば、私たちはまだこの現象の表面にしか触れていないように思われる。
 上述の減災及び気候変動への適応の確立に向けた兵庫行動枠組は、まもなく終了する。2015年の次回国連防災世界会議は再び日本で開催される予定である。私たちは、今日の世界で益々増加する危険に晒され、無防備であることをまだ理解できていないので、日本の経験や独自の経済的・社会的回復力に学ぶ必要がある。

(原文:英語)


(※1) 兵庫行動枠組に関する国家進捗状況報告書 (田尻 2009: 8).

(※2) レジリエンス(回復力)については、生態系の回復力に関する一連の具体的表現を除き、非専門的で一般的な定義は存在しない。レジリエンスの反意語は「脆弱性」とされ、こちらは定義や測定がより容易であるかもしれない。この場合、脆弱性を減らす全ての要素は自動的にレジリエンスを増加させているとみなすことができるかもしれない。「しかしながら、危機に瀕して初めて勇気が生まれる可能性があるのと同様、制度上のレジリエンスも何らかの外的圧力に晒されるまではおそらく表面化しない。」(Blasiakその他, 2012).

文献

Blasiak, Robert、岡安 早菜、松本 郁子、2012: 地域に深く根付くレジリエンス、Our World 2.0レポート 国連大学 (UNU)
(http://ourworld.unu.edu/en/deep-roots-of-community-resilience/)

佐々木 和延 2013: 復興3年目の現状と展望 IIST e-Magazine 2013年6月28日号
(https://www.iist.or.jp/jp-m/2013/0220-0894/)

田尻 直人、2009: 兵庫行動枠組の実施に関する日本の進捗状況報告書 日本政府内閣府
(http://www.preventionweb.net/files/9809_Japan.pdf)

Wahlström, Margareta (マルガレータ・ワルストロム)、2012: 日本の回復力の教訓、国連国際防災戦略事務局 (UNISDR)
(http://www.project-syndicate.org/commentary/japan-s-resilience-lessons)

若月 昇、2013: 2011年3月11日東日本大震災の被災地石巻で携帯電話が被災者にとって有益ではなかった事情
(石巻専修大学レポート)

山田 尚義、2013: 第41回「リーダーシッププログラム」プレゼンテーション
(東北経済産業局)


関連ページ
平成25年度 第41回 リーダーシッププログラム


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